60歳定年を迎えて8割以上の人が再雇用を希望

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定年後に再雇用されると、いままでとは役職も立場も変わってくる。では、どう振る舞ったらいいのか。

■60歳定年を迎えて8割以上の人が再雇用を希望

大企業に勤めている人の場合、定年は60歳というのが一般的だった。しかし、2013年4月からは、本人が希望すれば、企業は65歳まで社員を雇用することが義務付けられた。

厚生労働省の調査によれば、14年6月〜15年5月に60歳で定年となった会社員のうち、82.1%が企業に再雇用されている(図参照)。なお、本人が希望したにもかかわらず、再雇用されなかった人が0.2%いる。これは背任・横領といった「解雇退職事由」に該当するものの、定年まで雇ってもらったケースと考えられている。

とはいえ、再雇用された人のほとんどが、仕事内容も収入もガラリと変わる。企業の多くは、労働条件を変更して「再雇用」という形で、定年退職した社員と雇用契約を結び直すからだ。「管理職だった人も、定年前と同じ役職ということはまずありません」と、経営コンサルタントの高城幸司さんは言い切る。そうした影響ですでに職場では、60歳以上の平社員を含めた「年上部下」が急増。産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」によると、年上部下がいる人はすでに48.8%にも達している。この割合は今後も上昇していくだろう。

管理職にとって“先輩社員”でもある年上部下は何かと扱いづらい存在だ。とりわけ、年上部下がかつての自分の指導係や上司だった場合なら、なおさらだ。人材開発コンサルタントの門脇竜一さんは「管理職向けの研修では必ずといっていいほど、受講者から年上部下に関する悩みを相談されます」と明かす。そこで門脇さんに“年上部下のあるあるトラブル”を紹介してもらった。

困った年上部下の典型例が「面従腹背タイプ」。管理職に対して、うわべでは「わかりました」と言っていても、老獪な手練手管を弄し、実際には指示どおりに動かない。それだけならまだしも、なかには管理職の足を引っ張ってしまう人たちもいるので厄介だ。

「若手社員を飲みに連れていき、『課長は当てにならん』『オレならこうするけどな』などと吹き込みます。本人に悪気があるとは限らないのですが、若手社員にとっては年上部下も大先輩ですから、影響されて管理職の言うことを聞かなくなってしまう。そうやって、チームの足並みを乱していくのです。陰で“負のリーダーシップ”を発揮するわけですね」(門脇さん)

また、管理職の指示をスルーし、独断専行する「暴走タイプ」もよくいる。つまり、年下の管理職を軽んじ、上司として認めていないわけだ。

「たとえば、管理職への『ホウレンソウ』を怠って、勝手に商談を進めてしまい、取引先とトラブルを起こすこともしばしば。そうなると、管理職は火消しでおおわらわです。たまりかねて年上部下に注意しても、言いわけばかりしたり、ふてくされたりして手に負えないそうです」(門脇さん)

そうした困った年上部下にも、言い分はあるようだ。いまの60代が若手社員の頃、企業の年功序列制は健在だった。「若いとき、安月給でガムシャラに働いた分だけ、年を取れば、いい給料を貰えるようになり、仕事は楽になる」――。窓際で優雅に新聞を読む中高年社員を見て、そう思っていた。

しかし、それは過去の話。ラインから外れた中高年まで引き上げるゆとりなど、現在の企業にはない。そうした現実とわが身のギャップに、「いままで蓄えた貯金を会社から返してもらっていない」と、鬱屈した思いを抱える年上部下が多いのだろう。門脇さんはこう厳しく指摘する。

「企業は、ビジネスマンを『時価』で評価するようになりました。つまり、いま何ができるのか、どんな貢献をしてくれるのかを見るということ。過去の実績や企業への貢献度は通用しません。ところが、それをわかっていない年上部下が多いのです。ビジネスマンとしての自己評価を聞くと、企業の評価に比べて、たいてい3〜4割増しの答えが返ってきます」

そんな状態では、再雇用される社員も、再雇用する企業もアンハッピーだろう。社員の側としては、どのような自己改革をすべきなのだろうか?

■求められるのは管理でなく現場力

高城さんは、「企業が再雇用社員に求めるのは、いままでの経験を生かした実務をこなしてもらうこと。そこで、管理職としてではなく、職場の一スタッフとしての“現場力”が必要になります」と説明する。しかし、それはかなり高いハードルだ。とりわけ、大企業の管理職だった人は、周囲の部下たちが万事お膳立てをしてくれるため、実務能力を喪失してしまったケースが少なくない。では、現場力を取り戻すためには、どうすればいいのだろうか? 高城さんは次のようにアドバイスする。

「定年前の管理職の人なら、再雇用で自分が一スタッフに戻ることを見越して、周囲にいる部下たちの動きをよく観察しましょう。ただし、部下の仕事に手出しすると迷惑がられます。『オレだったらこうする』と、シミュレーションしておくといいでしょう」

門脇さんも、「部長クラスの人なら、試しに自分で取引先の部長にアポを取ってみたり、自分で資料を作成してみたりしてもいいですね。基本的なパソコン操作くらいは、できるようになっておきましょう」と勧める。

また、高城さんは、企業に歓迎される再雇用社員の像についてこう示す。

「一つは組織の『知恵袋』。空気を読んで普段は出しゃばりませんが、何か問題が起こったとき、長年培ったノウハウを生かしてさっと解決してしまう。もう一つは人と人をつなぐ『緩衝材』です。持ち前の“年の功”で、トラブル対応に腕を振るったり、きめ細かい気配りをしていきます」

それでもなお、心の片隅に憤懣やるかたない気持ちが残っている場合に、門脇さんは「リセット」を促す(図参照)。要は再雇用の際にそれまでのキャリアをリセットして、プラスマイナスゼロに戻すのだ。そして、過去を忘れ、現在を客観視することの重要性を指摘したうえで次のように語る。

「リタイアすれば“タダの人”になるんだからと割り切れば、自分の新しい役割も見えてくるはず。企業での役割は芝居の配役と同じです。主役を張っていた往年の名優だって、いぶし銀の魅力で脇役を演じたりしますよね。企業でも、再雇用社員はそうした役回りと考えればいい。再雇用で有終の美を飾れたら、ビジネスマン人生がきっとハッピーになるでしょう」

そして、絶対にしてはいけない間違いは、短気を起こして独立開業することだ。現場力の乏しい人が、一人で何役もこなしながら事業を起こすのは土台無理な話。いまの職場でセカンドキャリアを築くほうが、ローリスクで成功の確率も高いことをお忘れなく。

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経営コンサルタント 高城幸司
セレブレイン代表取締役。リクルートを経て2005年独立。『無茶振りの技術』など著書多数。
 
人材開発コンサルタント 門脇竜一
クリアマイン代表取締役。2001年独立。講演で活躍。著書に『先輩が部下になったら』。
 

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=渋谷高晴、加々美義人、宇佐見利明)