韓国では財閥オーナー一族の動静に対する関心が高い。いくら資産があるのか、どんな暮らしをしているのか…そんな中で、サムスンとSKのオーナー家の離婚問題が最近、大きなニュースになった。

 2017年8月7日、 朴槿恵(パク・クネ=1952年生)前大統領がらみの一連のスキャンダルを捜査していた特別検察は、ソウル中央地裁での裁判で、賄賂容疑などで逮捕されている李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)サムスン電子副会長に対して、懲役12年を求刑した。

 予想通りの重い求刑だった。8月末に判決が出る予定だが、サムスンのオーナー家は、もう1つの裁判も抱えている。

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サムスン会長の長女の離婚訴訟

 2017年7月20日、ソウル家庭法院は、離婚訴訟判決を出した。

 サムスングループの李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)会長の長女である李富真(イ・ブジン=1970年生)ホテル新羅社長の離婚訴訟判決だ。

 判決は、「2人は離婚して、李富真氏は夫に86億1031万ウォンを支払う」という内容だった。翌日、「朝鮮日報」は「86億ウォンの離婚…終わった愛、終わらない銭争」という見出しの大きな記事を掲載した。

 86億ウォンと言えば、9億円近くの額だ。韓国でも、これだけの金額の離婚劇というのはめったにあるわけではない。

 ところが、この見出しにある通り、訴訟はさらに続くことになった。韓国メディアによると、夫がこの判決に不服で控訴したのだ。

 「サムスン家の長女」である李富真氏は、普通の同僚社員に恋をした。1999年、2人は4年間の交際期間を経て結婚した。夫はその後、サムスン電機の副社長に「大昇格」していた。

 韓国最高の富豪の長女と普通のサラリーマンの結婚生活は難しかったのか。2014年10月に、李富真社長が離婚調停を申請し、夫がこれを拒否すると訴訟を起こした。

 2016年1月、京畿道(キョンギドウ)水原(スウォン)地裁は「離婚」を命じる1審判決を出した。しかし、夫が控訴審で「2人はずっとソウルで結婚生活を送った。水原地裁は管轄外で判決は無効だ」を主張した。

 これが通って、ソウル家庭法院で再び1審が始まるという異例の展開になっていた。夫側は「原因はこちらにはない」と主張して、離婚を拒否していた。

 家庭生活だから何があったのかは分からないが、ソウル家庭法院は、改めて「離婚」判決を出し、86億ウォンの支払いを命じた。

妻は9億円支払います。夫は拒否して控訴へ

 この判決に対して、李富真社長側は、「賢明な判決だ」と受け入れる意向を示した。離婚も親権も認められた。86億ウォンという金額は、庶民から見れば、夢のようだが、「サムスンオーナー家の長女」から見れば、受け入れ可能だったようだ。

 夫側はこれに対して、判決を不服だとして控訴した。離婚の原因が自分にないから受け入れられないということだ。

 韓国メディアによると、李富真社長の財産は、2兆ウォン前後だという。2000億円超。ため息が出るような金額だが、そのほとんどが、サムスングループ企業の株主だ。

 このうち、1兆9000億ウォン分については、結婚前にすでに保有していた。結婚生活後に形成されたのではなかった。これらを勘案して、86億ウォンという金額になったようだ。

 「銭争」はさらに続くことになった。

SK会長、離婚調停求める

  韓国メディアによると、この判決の前日である2017年7月19日、 韓国で資産規模3位の財閥、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン=1960年生)会長はソウル家庭法院(裁判所)に離婚調停を申請した。

 崔泰源会長の夫人は、盧泰愚(ノ・テウ=1932年生)元大統領の長女だ。「大物カップル」の離婚問題は、1年半ほど前に世の中に広く知られることになった。

 というのも、崔泰源会長が2015年12月、韓国の「世界日報」に手紙を送ったからだ。紙面上で夫人に「離婚」を求めて世間をあっと驚かせた。

 この手紙によると、崔泰源会長夫婦はかなり前から別居しており、結婚生活は事実上破綻していた。崔泰源会長は別の女性と出会って、子供ももうけて一緒に暮らしている。

 手紙で、崔泰源会長はこれらをすべて明らかにした上で、「できることは何でもするので離婚に応じてほしい」を要請している。

 財閥総帥が自分の私生活を告白し、「公開離婚要求」の手紙を新聞社に送るなど常識では考えられないことで、大変な話題になった。

 あれから1年半。夫人は、離婚に応じず、崔泰源会長は、「離婚調停」を申し出たのだ。韓国紙デスクはこう話す。

 「夫人は、離婚に応じる構えをまったく見せていない。調停に応じる可能性も低い」

 となるとどうなるのか。離婚訴訟となるが、韓国では、離婚の原因に責任がある側からの訴訟は一般的には認められない例が多い。「実質破綻主義」である日本とはこの点で差があるという。

 膠着状態になるとの見方がある。一方でこのデスクは、「結婚生活が破綻して何年も経過している以上、いつまでも今の状態が良いとは双方とも考えていないはずだ。条件が合えば、離婚に進むだろう」と話す。

財産は4兆ウォン?

 だが、「条件」となると、着地点を見出すのもまったく簡単ではない。崔泰源会長の財産は韓国メディアによると「4兆ウォン(1円=10ウォン)」ともされる。だが、そのほとんどが、SKグループの企業の株式だ。

 夫人は、社会活動にも積極的で、この財産増加にどれだけ寄与したかを算出すことも容易ではない。

 また夫婦間には、1男2女がいるが、今後、グループ経営に関与するのか、もまったく分からない。

 崔泰源会長は、「世界日報」への手紙で「結婚生活を早く整理して、すべてのエネルギーを顧客、株主、協力会社、さらに韓国経済のために使いたい」と述べている。勝手な言い分といえば言い分だが、切実な思いでもあるはずだ。

 調停がどう進むのか。場合によっては、SKグループの経営にも影響を与えかねないだけに、大きな関心を呼ぶはずだ。

最高額は300億ウォン

 高いのか安いのか。

 財閥富豪の離婚だけに、そもそも「相場」もない。韓国では、これまで、ゲームソフト会社の創業者が離婚した際の「300億ウォン」が最高額だとされている。

 実は、李富真社長の実兄で、李健熙会長の長男である李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)サムスン電子副会長も離婚経験がある。

 このときは、「5000億ウォン」規模の財産分割請求があったと言われているが、その後、双方が合意内容を一切公表しない条件で離婚した。

 崔泰源会長の場合も、李富真社長の場合も、現職の経営者だ。2人とも、自分たちの意向で離婚を進めようとしている。

 財産の金額も桁違いだ。どちらも、訴訟の末、財産分割ということになれば、その内容次第で、支配構造にも影響がで兼ねない。

 これからも、産業やメディアの関心を集めざるを得ないだろう。それにしても、サムスンのオーナー家は大変だ。

 李健熙会長は、2014年5月に病に倒れて以来、意識を回復しないまま入院中だ。さらに長男と長女の訴訟で、絶好調のサムスン電子の業績を横目に、オーナー家は非常事態が続いている。

筆者:玉置 直司