トヨタとマツダとの業務資本提携調印式(写真: トヨタ自動車の発表資料より)

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■M&Aでも投資の感覚でもない!

 トヨタとマツダの資本提携が発表されたが、どうしても「M&A」の話題になってしまうようだ。世界経営手法の主力はM&Aと思い込んでいる人も少なくない。業態を拡大するには最も手っ取り早い。新規事業を行うにも、先行している企業を、技術力・人材とも取り込んでしまえると思っているようだ。

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 その考え方の基本は「投資」にある。「投資効率を高める」ことが、ファンド流行りの現状では「M&A」と見ているようだ。このあたりの考え方をよく見ておく必要がある。

■カルロス・ゴーン氏の手法

 日産・ルノー・三菱連合の実質最高経営責任者カルロス・ゴーン氏の考え方を見れば、三菱自動車を買収することにメリットは大きい。三菱には東南アジアを中心にブランド力がある。三菱社内には無駄が多すぎる。これを業務提携でなく買収すれば、ブランドを生かし、コストカットをすることは難しいことではない。

 問題は、買収後、コストカットが済んでからにある。日常業務の一通りの改善が済み、新たに日常業務が進み始めたとき、次にするべきことは「新製品開発」だけであろうか?今はEV・PHVと開発が急がれる時だ。商品力が自動車会社の運命を握るのは当然だが、各社が横一線の開発の能力があるとした時、何を持って差をつけるのであろう。

■勝負は生産技術

 実は、商品の品質やコストなど商品力を作る裏側には「生産技術」が大きなウエイトを占めている。同じような車種を発売している大手各メーカーの利益率を上げる手法は「生産技術の戦い」と言って良い。

 かつて日産自動車がトヨタ自動車に負けた理由は、この「生産技術の差」が主たる原因なのだ。経済専門家、ジャーナリスト、経営者の中でも本当の理由は生産技術の差と理解している人は少ない。

 トヨタと日産は、かつて国内を中心に「フルラインナップ」つまり競合車種が横並びで競い合っていた。「BC戦争」と言われたように、同じ土俵で戦っていた。しかし、わずかにトヨタが販売台数が多く、日産は後を追い続けていた。バブル経済が始まると両社大型車にシフトして、互いに稼ぎまくっていた。

 しかし、バブル経済が終わって市場が縮小していったとき、日産には多額の有利子負債が残されていた。同じ減産局面になっているのに、トヨタは順調だった。これを海外戦略などで説明しようとする向きもあるが、決算の内容を見れば、有利子負債が借り入れを増やし、その金利負担に耐えられなくなっていく日産自動車の姿が見えるはずだ。

 日産は、バブル経済の時でも借入金が増えていたのだ。つまり自動車メーカーのビジネスモデルである、開発・生産・販売の循環で、トヨタが日産を上回る資金効率の良さを持っていたのだった。そのため日産がトヨタと同じラインナップの車種構成を市場に投入しようとすると、新車開発には借入金を必要としていたのだった。市場が拡大していくうちは、その後の売り上げで返済が可能と見えるので、問題とならないが、減産局面に来たとき、利子が純益を食いつぶし、赤字転落となってしまうのだ。トヨタは有利子負債が大変小さいため、減産局面での体力がかなりあることになった。

 この有利子負債の増大を招いた原因が「生産技術の差」であったのだ。つまり材料仕入れから生産、販売、アフターサービスまでの、工程の中で在庫コストに差が大きかったのだ。トヨタは「多種少量生産」を実現するため「看板方式」を考案し、徹底して仕掛在庫をなくすことを推し進めた。それは現場での作業の一つ一つの改善作業であり、進めたのは従業員自身であった。そして、そのコストは最終的には有利子負債の差の形で決算書に現れていたのだった。

■資金効率を落としていたのは在庫

 日産のコスト高をもたらした生産工程の資金需要は「工程間在庫」であったのだった。現在、「順序生産」と言われる、受注した順序に生産して、納品までの在庫期間をなくそうとする生産方式が世界中で進んでいる。これは完成車両の在庫期間を少なくしようとするものだ。仕掛在庫は現在でも少なくする努力が続けられているが、完成車の在庫は1台当たりの金額が大きく、生産現場の仕掛在庫を減らせても、完成車の納品になるまでの期間が長いと、在庫金額は大きくなりがちとなる。そこにメスを入れ始めているのだ。

参考:【資金効率(1)】3つの業種[1](知恵の輪サイト)

【本物の資金効率(1)】(知恵の輪サイト)

■「真面目で思いやりのある作業員」が利益の源泉

 この、あらゆる工程間在庫を徹底的に少なくしていったのが「看板方式」であり、それを可能にする「カイゼン」活動であった。日本式のカイゼン活動を各国の自動車会社は恐れている。

 そのカイゼン活動の組織的動きを決定付けたのが「QCサークル活動」であり、トヨタ、コマツの強さの源泉だ。つまり従業員たちの「真面目で思いやりのある作業」がトヨタの利益の源泉なのである。

 「もっといいクルマをつくろうよ!」とのトヨタのキャッチフレーズの内容を語れる経済・自動車ジャーナリストに出会ったことがない。マツダはそこに共鳴したようだ。