ブリヂストン招待で挙げた松山英樹の勝利は、彼にとって大きな意味を持つ記念すべきものになった。
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世界選手権シリーズ2勝目、米ツアー通算5勝目、今季3勝目。そして、プレッシャーのかかる最終日に、タイガー・ウッズが2013年大会2日目に出したファイアストンのコースレコードに並ぶ61をマークして勝利を挙げたこと。そんな記録や数字は、もちろん素晴らしく、ゴルフ史に刻まれる。
だが、松山の心には、もっと忘れがたきものが、しっかり刻まれたのだと思う。
何かを変えることには、勇気が要るし、タイミングも難しい。だが、何もしなければ何も変わらない。チェンジに挑戦し、やってみて「ダメならダメで、また新たな練習もできる」。そんなふうに松山が少し肩の力を抜きながら「変えよう」「変えてみよう」とチェンジに挑み、そして得た勝利。だからこそ、この勝利には大きな意味があった。
今週、チェンジの始まりはマレット型のパターだった。初日のパットの出来栄えは大満足ではなかったが、それでも「前半は良かったので」と前向きに捉え、「オプションが増えた」と頷いていた。
ビッグな大会であるにも関わらず、今週の松山は初日からずっと穏やかな表情だった。「全英オープン後、まったく練習しないでここに来たので、いいスコアで回れると思っていなかった」。自分に過度の期待をせず、リラックスモードでプレーしてみたら初日15位、2日目3位と順位も上昇。残る2日間も「この2日間のように、あんまり期待せずにやれたらいい」と静かに語った。
そして、最終日を首位と2打差で迎えることになった3日目の夕暮れは「明日は勝手に勝ちたい意識が入ってくる。それをどこまで抑えられるか」。メンタル面のことを、こうして自ら語る松山を見たのは、少なくとも私にとっては初めてのことだった。
いざ、最終日。「スタート前のウォーミングアップが最悪だった」にも関わらず、2番でイーグル、3番でバーディー。そこで松山が挑んだチェンジは、常にリーダーボードを見るいつもの流儀を変えて「3番から15番まで一度もボードを見なかった」。
自分の世界の中でプレーしていた松山のゴルフは、打てばピンそばに付き、パットも難なく沈め、まるでノープレッシャーの練習ラウンドを見ているような錯覚さえ覚えた。
今週の松山に見て取れたさらなる変化は、取材に応える姿勢が明らかに柔らかくなり、言葉数も格段に増えたこと。聞けば、全英オープン前に欧州ツアーのアイリッシュオープンに出場した際、日本人メディアが誰もおらず、毎日のラウンド後の取材が無くて「楽だったけど淋しかった」と照れ笑いしながら明かした。
思えば、欧州ツアーの試合に出たこと自体も「出てみようかな」という初挑戦。取材されない淋しさを知り、取材されるのも悪くないと知ったのも初めてだった。
大学の先輩、谷原秀人やツアー仲間のダスティン・ジョンソンが「怒らないでやっているのを見て、自分もやってみようかなと思った。それがたまたま今週だった」。
まだまだ知らないことがたくさんあって、学ぶこと、学ばされること、偶然に知ることもたくさんある。だから、たまには肩の力を抜いて新しいことを「やってみようかな」。
そんなトライアルが実を結ぶこともある。いや、実を結んでくれちゃった。「まさか、こんないいスコアで回れるなんて。最後まで信じられなかった」。これまでは、優勝してもどこかぎこちなかった笑顔が、今回は屈託のないピュアな笑顔に変わった。
「優勝トロフィーは家の中のどこに飾っているんですか?」と会見で米国人記者に問われると、「えっ?説明するのが難しい。『そこらへん』でいいや。そこらへん!」。
会見場が穏やかな笑いに包まれた。松山英樹のこの優勝は、彼が変化に挑み、そして彼自身が穏やかに成長したという意味で、大きな意義があり、記念すべき大会になった。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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