梅澤高明●A.T.カーニー日本法人会長。東京大学法学部卒。マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士。日産自動車を経て、A.T.カーニー入社。2007年日本法人代表、14年より現職。著書に『グローバルエリートの仕事作法』など。

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■相手の感情の動きを見逃さなくなった

28年間、毎日瞑想をしています。タイミングは朝起きてすぐと夕方の2回。それぞれ20分ずつ。食事をとる前にやっています。やり方としては椅子に寄りかかり、目を閉じて、体の力を抜きます。そして、長くゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いていく。深呼吸を繰り返していくのです。

瞑想をする場所は、朝は自宅で、夕方はオフィスが多い。オフィスで瞑想する姿をはじめて見る社員は「会長が居眠りしている」と思っているかもしれませんが。夕方の瞑想は時間が取れないときもあり、オフィス以外でも椅子があればトライしています。いまでは移動中の新幹線や飛行機の中、ホテルのロビーなどでも瞑想することができるようになりました。

私と瞑想の出合いは20代半ば。日産自動車に勤務していたころです。当時、北陸の自動車販売会社に出向して営業マンをやっていました。あるとき、取引先の方から「今度こんな講座があるから行ってみたら」と瞑想のセミナーに誘われたのがきっかけでした。昔から好奇心旺盛で、面白そうなことにはとりあえず何でも手を出すタイプなので、とりあえずいってみたのです。

セミナーの内容は4日間で、Transcendental Meditation、日本語では「超越瞑想」。瞑想や座禅というと、一般的には「無の境地になれ」といわれますが、インストラクターが教えてくれたのは、頭の中にある考えを追い払おうとしたりはせず、いろいろなことを考えていいというやり方でした。これならできそうだとすぐにやってみました。

はじめてみるとすぐに3つの大きな効果を感じることができました。

1つは自分の周りで起こっていることに敏感になれたということです。

当時を思い出すと印象的だったのは営業の成約率が上がっていったことです。それまでは「今日は勝負だ」と気合を入れれば入れるほど商談が決まらないということがよくありましたが、そんなケースが目に見えて減っていきました。自分なりに分析すると、相手の感情の動きとか、変化のサインを見逃さなくなったように思います。相手が「今日は決めようかな」という気分になるまで待てるようになり、購入のタイミングも逃さなくなりました。そのおかげもあって、販売会社でトップの成績を何度もとることができました。

その後は本社で営業・マーケティングの教育部門や、新型車の販売促進を担当しました。営業マンとしての実績が、その後のキャリアにつながったのです。

2つ目は頭の中を整理できること。瞑想中はいろんなことを考えています。

「明日のプレゼンはどんな入り方をしよう」といったビジネスの話から、「晩ごはんに何を食べようか」「明日はどのスーツを着ていこうか」などさまざまな雑念が飛び交います。「しまった。あの資料を作らなければいけない」とか「朝一でリサーチのリクエストをかけなきゃ」と冷静になって思い出すこともある。瞑想が終わったときに「To Doリスト」が頭の中にでき上がっていることもあります。ときには、瞑想中に出てきた思いつきが進行中の仕事にブレイクスルーをもたらすこともあります。大事なプレゼンの前なども瞑想によって頭の中を整理することで、平常心を保て、本番もあがることがなくなりました。

そして、3つ目が体の疲れが取れることです。これが一番大きな効果かもしれません。はじめたころは、忙しさにかまけて瞑想なしで過ごす日もありましたが、そんな日はとにかく疲れがたまりやすい。瞑想を通じてストレスの蓄積に対するセンサーが敏感になったため、そう感じるようになったのだと思います。「睡眠時間が十分とれないときは瞑想しないで寝るか」と問われれば、睡眠時間を多少削っても瞑想をするほうを選びます。睡眠の質も高く、翌朝もすっきりと起きられるからです。それくらい疲れが取れる効果を実感しています。

瞑想をはじめるようになって数年後、脳波を計測したことがあります。瞑想状態で計ったところ、リラックスしたときに優勢になるアルファ波の割合が98%と出ました。瞑想が実際に脳内の状態に大きな影響をもたらしていることの確証を得ました。

瞑想は主に頭やからだをリラックスするためにやっていますが、筋肉をほぐす目的でヨガも大学時代にはじめました。最初に効果を実感したのは日産での新人研修のときでした。4カ月間の工場実習で、工員の方たちと肩を並べ、車の組み立てをしていました。1日中立ちっぱなしで履き慣れない重い安全靴を履き、重い部品を運んでという作業なので、仕事が終わると足が棒のようになるわけです。それがヨガをすると足も腰も軽くなり、リフレッシュできる。ヨガはそれ以来、週1回のペースで習慣化しています。

■外の世界から自分を切り離す

毎日2回の瞑想と週1回のヨガで生活のリズムも整います。特に食事の前に瞑想をするようになって食事が美味しく感じられるようになりました。好きなものを、バランスよく食べる。これもストレスをためないうえで大切なことです。

30代でマサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールに留学して以来、ボストンに2年、ニューヨークに5年、合計7年アメリカの東海岸にいました。高カロリーな食べものが多く、味も正直自分には合いませんでした。現地にある和食レストランにいくこともしばしば。あのときほど食事の大切さを実感したことはありません。今は仕事柄、夜の会食は週3回、多いときは週5回ということもありますが、暴飲暴食は避け、なるべく一次会で失礼させていただくようにしています。脳ミソとからだがビジネスの一番の資本ですから、そのメンテナンスをしないことには長期戦は戦えません。

瞑想は、アップルのスティーブ・ジョブズとグーグルの「マインドフルネス」の取り組みなどで注目を集めました。シリコンバレーのIT企業の人たちは特にテンポの速い世界で戦っているがゆえに、外の世界やインターネットから自分を切り離し、心身のリセットをするニーズが強いのだろうと思っています。

ちょうどさっきも、オフィスで瞑想をしていたところですが、秘書がコンコンとドアをノックして「梅澤さん、○○さんからこんなアポを入れたいと言っていますが、どうしますか」と声をかけてきた。「いいよ」と答えました。

瞑想をしている最中も、周りの音はちゃんと聞こえています。本当はリアクションをしたくないんですけどね(笑)。

(A.T. カーニー 日本法人会長 梅澤 高明 構成=金井良寿 撮影=市来朋久)