「タダ・ネイティブ」な子どもたちが未来の社会をつくる。


 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行ってきました。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

 前回コラム「この20年で変化していた子供のお小遣いの使いみち」では、博報堂生活総合研究所が1997年から10年おきに、小4〜中2の子どもたちを対象に実施している「子ども調査」の最新結果をご紹介しました。そのポイントをまとめると、

・調査結果を20年前と比較したとき、大きな変化が認められたのが「消費・お金」と「情報環境」に関する分野

・お小遣いをもらう子が過去最低となり、もらっても貯金するとの回答が過去最高に

・新商品や流行への関心も低下し過去最低に

・自分の暮らしの豊かさや幸福度の自己認識は上昇し、過去最高に
 

 つまり、「お金を使って何かを買ったり、新商品や流行りのものを追ったりしなくとも、高い幸福感と豊かさを感じて生きているのが今の子どもたちである」と、そんな結果が導かれたわけです。

 彼ら彼女らは10年もすれば大人になり、徐々にこの国の中核を占める生活者になっていきます。本稿では、上記調査結果の背景に何があるのか、そして我々がこの「未来の大人」たちとこれから先どう向き合っていくべきか、考察していこうと思います。

出典: 調査データ。


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新旧関係なくレコメン情報を楽しむ子どもたち

 1997年の子どもと2017年現在の子ども。置かれている環境で何が一番違うかと言えば、やはりインターネットの存在を抜きに語ることはできないでしょう。もちろん1997年にもインターネット技術はあったわけですが、現在の利用環境の便利さとは比べようもありません。各家庭では定額制で高速通信サービスを利用し、高性能なスマホ・タブレットなどのデバイスも普及しています。

 その中で子どもたちは、どのようにインターネットに向き合っているのか。私たちはアンケート調査と並行して、家庭訪問調査を実施し、子どもたちのネット利用実態についてヒアリングと行動観察を行いました。

写真は博報堂生活総合研究所家庭訪問調査より。(以下写真も同様)


 そこで目にしたのは、友達とオンライン上で会話をしながらそれぞれの家で同時にゲームをやっている子どもや、チャットアプリのグループ通話機能を使って30人近くをつなぎ、オンライン上の「クラス会議」を開催する子どもたちの姿。

 彼ら彼女らにとって、インターネットはもはや「便利な道具」というレベルを超え、「リアルと地続きの空間・居場所」と言って差し支えないくらい当たり前のものになっているようでした。

 端末の操作も素早く手慣れたもの。タブレットの処理速度が追いつかないくらいのスピードで指を動かしている子もいました。

 そんな子どもたちにとって、ネット上にあるさまざまな情報にアクセスすることはごくごく容易なこと。自分で検索して探し出すこともできますが、それ以上に「レコメン(recommend)機能」や友達からのオススメにより「情報は勝手にやってくるもの」との認識ができつつあるようです。

 例えば動画共有サイトでは、一度コンテンツにアクセスすれば、そのあとは関連するレコメン動画が芋づる式に次から次へと提示されます。子どもたちの目に映るそれらの情報は、新しいものも古いものも「並列」であり「等価」。面白いと感じたものは新旧を気にせず楽しんでいます。

 家庭訪問でも、自分が生まれるずっと以前に作られたドラマや音楽にのめりこんで視聴している子や、5年以上前にリリースされたゲームを今もなおやりこみ続けている子どもたちに出会いました。

 新旧関係なく情報がレコメンされる環境では「新しいもの=よいもの」という認識は形成されにくくなるでしょう。今の子どもたちが新商品や流行に対して関心を持ちにくいのは、このような状況が影響していると考えられます。

タダが当たり前の「タダ・ネイティブ」登場

 もうひとつインターネットの与えた大きな影響は、各種サービス・コンテンツが通信料を除けば基本的に「タダ」で利用できるということです。

 ネットの中には無料で楽しめるゲームやマンガ、イラスト、小説、音楽、映像などが、それこそ無限と言っていいくらい存在しています。子どもたちがお小遣いを握りしめてお店に行かなくとも、本当にいろいろなものが手に入るようになりました。

 前回のコラムで示したお小遣いの使いみちに関する調査結果では、貯金の増加と表裏を為すようにマンガやCDなどのコンテンツ系支出が減少していましたが、この状況はまさにコンテンツの「タダ化」の影響が端的に現れたものと言うことができます。

 むやみに流行や新しいものを追わなくなった今の子どもたちは、インターネットにより無料で手に入るものやレコメンされるものを楽しむことがスタンダードとなった新しい生活者たちです。博報堂生活総合研究所では、その特徴から「タダ・ネイティブ」(=無料で楽しむことが当たり前の世代)というキーワードで彼ら彼女らを呼称しています。

「タダ・ネイティブ」の支出は「好き」の態度表明

 冒頭でも書きましたが、今の子どもたちは10年先には大人。この国の中核を占める存在になっていきます。我々はこれから先、彼ら彼女ら「タダ・ネイティブ」たちとどう向き合っていくべきなのでしょうか。

「消費者」として捉えた「タダ・ネイティブ」たちは、いかにもお金を使うことにシビアで、財布を開かせるのは至難の技のようにも思えてきます。では、いったいどんな時に、積極的にお金を使いたいと思うのか。子どもたちへのインタビューなどから得られたヒントは、「ライブ」と「応援」です。

・普段は動画サイトで好きなアニメを視聴しているが、そのアニメが映画化されると毎回、「絶対に公開初日に観に行っている」と語ってくれた女の子。

・無料で遊んでいるゲームの中で流れている音楽にハマり、その音楽を生で聴くために、親の分も合わせて1万8000円もコンサートチケット代を支払ったという男の子。

・無料でマンガが読めるアプリを使っているものの、好きな作家の作品については「打ち切りになったら嫌だから、作者への感謝をこめて課金をしたい」と語る男の子。

・マンガ雑誌の人気キャラクター投票で、自分の好きなキャラ3人全員に投票したいがために、同じ雑誌を3冊買ったという女の子(1冊に1つ投票用紙が付いている)。
 

 これらのエピソードを、実に生き生きとした表情で語ってくれた子どもたち。その様子を見ていると、どうも彼ら彼女らにとってお金を払うという行為は、「対価の獲得」というよりも、「好きなものに対する応援」や「好きなものへの接近」という「『好き』の態度表明」に近い感覚があるようにも思えてきます。

 前述したお小遣いの使いみちの調査について、ひとつ興味深い結果があります。多くの支出項目が横ばいないし低下している中で、唯一、「映画、コンサートなどの入場券」だけは1997年から右肩上がりに伸び続けています。「自分の好きなものに近づく、生で触れるためには支出を惜しまない」。そんな意識の高まりが読みとれる結果です。


出典: 調査データ。


「タダ・ネイティブ」が働き方改革の急先鋒に?

 もうひとつ、「働き手」として捉えた「タダ・ネイティブ」たちはどうでしょうか。

「リアルと地続きの空間」としてネットに接している子どもたちは、「これはリアルでやらなければいけない」などの固定観念が我々と比べて薄い分、仕事でも効率性を重視してネットとリアルを使い分けることでしょう。組織の中でこれまでなんとなく続けてきた非効率なルールや行動を打ち壊し、「働き方改革」を進める急先鋒の役割を担ってくれるのは、実は「タダ・ネイティブ」たちなのかもしれません。

 また、新旧を気にすることなく情報・コンテンツに接してきた彼ら彼女らは「新しいもの=よいもの」と考えない代わりに「古いもの=ダサい」という感覚もあまり持っていません。

 組織の中で「過去のもの」として見過ごされてきた製品や技術、コンテンツなども、「タダ・ネイティブ」たちの手にかかることで意外な魅力が再発見される。そんなふうに「温故知新の目利き」として力を発揮してもらうことだって十分に考えられるでしょう。

 言うまでもなく、子どもの存在はこの国の未来そのものです。「消費者」「働き手」をはじめとして、生活者の持つさまざまな側面や役割から、彼ら彼女らを見つめること。その上で、子どもたちが主役となる社会の姿を大胆に想像すること。それらのことが、この国の将来像を考える上でとても重要なポイントであるように思います。

筆者:三矢 正浩