症状が深刻化することもあり油断できない

そもそも冷房病とは何か

 暑い夏に冷房は欠かせませんが、この冷房が原因で体調を崩すことがあります。いわゆる「冷房病」「クーラー病」です。冷房病というと軽く考えられがちですが、中には、深刻な症状に悩まされる人もいます。そのまま放置すると年々悪化して、前年よりもひどい症状が出ることも。これといった薬がなく、環境次第である点もやっかいです。女性や子どもに多いとされますが男性にも見られ、重症化して会社を辞めてしまう人もいます。

 ここでは、冷房病の原因や症状、対策などについて医師の尾西芳子さんに聞きます。

 そもそも、冷房病やクーラー病は医学的な正式名称ではありません。また、日本独特の発想であり海外では通じない言い方です。その正体は、外気の暑さと冷房の過度な冷えが引き起こす「自律神経機能不全」。昭和35年頃から見られ始め、近年は都心部のクーラー普及率が90%を超えていることから、誰もが発症しうる「現代病」と言えます。

 冷房病の症状としては、個人差こそありますが、体の冷えのほかに以下のような不調があります。

・頭痛
・肩こり
・腰痛
・腹痛
・疲労感
・食欲不振
・むくみ
・悪心、嘔吐(おうと)

 また、泌尿器疾患や婦人科疾患が起きることもあります。

冷房病の原因とは

 人の体温は、主に体を動かす時に活性化する交感神経と、内臓の動きやホルモンに関わるリラックス型の副交感神経によって常に一定に保たれています。人の体は、運動をしたり、外気が暑くなったりして体内に熱がたまると、汗をかいて気化熱によって体温を下げようとしますが、冷房が効いた室内では、汗をかいているわけではないのに体の表面の熱が奪われます。

 体表の毛細血管には大型ペットボトル2.5本分に相当する5リットルもの血液が流れていますが、冷房の室内では、この量の血液が冷やされて毛細血管が収縮し、体の熱を奪われないように血流を減少させます。同時に汗腺も閉じ、汗が出ないようにしています。

 しかし、冷房が効いた室内から突然外に出ていくと、体表で感じる熱が一気に変化し、毛細血管と汗腺が急拡張して汗を出そうとします。これらの動きは自律神経が行うもので、人が自分の意思でコントロールすることはできません。人の体温調節機能は5度以上の急激な変化にはついていけず、冷房で冷やされることと急に暑い場所へ出て行くことは、いずれも体にとっての「非常事態」。一日に何度もこれを繰り返すと、急激な変化に自律神経が悲鳴を上げてしまうのです。

 こうして自律神経が疲労すると、自律神経が司っているさまざまな調節機能が働かなくなり、体調不良に陥ってしまいます。そして次第に、体温調整が必要な場面でも汗がうまくかけない体になってしまうのです。

冷房病は進行する

 年々悪化する人が多い冷房病。昨年までは手先だけだったのに今年は下半身全体、やがて真夏にカイロが必要になったなど、放置することで症状が悪化してしまうのです。思い当たる人は、自分が今どの段階の冷房病かをチェックしましょう。

【冷房病の進行度合い】

第1期=末梢血管収縮タイプ(末端冷え性)

 冷房の寒さで手足の先を中心に冷えを感じます。血液は体を守ろうとして内臓に集まるため、体表や末端が冷たく感じやすくなります。入浴や体操で比較的早期にリセット可能な段階です。

第2期=内臓が冷えるタイプ

 表面だけ冷やしていた冷気が体内に侵入し腹部を冷やしてしまいます。特に、腰から下全体が冷えを感じ、胃腸障害や婦人科疾患、泌尿器疾患が現出します。肩こりや腰痛も出やすく、腹巻きなど物理的な防寒用具が必要です。

第3期=通称「次世代型の冷え性」

 まさに現代病ともいえる、冷房によって起きる人工的な冷え性の重症タイプ。体全体、特に上半身を中心に背中までゾクゾクしたり、痛みを感じたりする人もいます。全身症状としてふらつきやめまい、疲労感、血圧変動などが起こります。イライラが増すこともあり、生活習慣そのものの見直しが必要です。

「自律神経は非常に繊細なため、一度狂ってしまうとなかなか正常に戻りません。自律神経の働きが乱れたまま不規則な生活を続けると、症状は年々悪化してしまいます。冷房と外気の温度変化を体験した自律神経はその状況を『異常事態』として記憶します。そこへ年齢による体温調節機能の衰えが加わると、ちょっとした寒さにも敏感になるため、年中冷え性のまま次の冷房シーズンに突入することになってしまうのです」(尾西さん)

冷房病対策と改善法

 冷房が体に悪いと分かってはいても、職場などの環境上、離れられない人も多いはず。現代病というだけあって、冷房の直撃からはなかなか逃れられないのです。冷房病は元々、デスクワークの女性や室内にいて動かない高齢者や幼児に多い症状でしたが、近年は暑い外と寒い室内を何度も行き来する営業職の男性にも増えています。

 冷房病対策としては、せめてプライベートでは冷房を控えめにするのが基本ですが、すでに冷房病になっている人は可能な限り改善に努めましょう。主な対策と改善法は以下の通りです。

【外気温との差を減らす】

 自律神経は5度以上の気温差に対応しきれないため、外気との温度差をなるべく5度以内に抑える必要があります。冷房の温度は25〜28度、できれば28度がベストです。28度を暑く感じる人もいるかもしれませんが、タイマーを使ったり扇風機を首振りで使ったりするなどの工夫を。また、冷房の風が直接当たると体を冷やしてしまうので避けましょう。

【食事は3度、メニューに工夫を】

 食事は体内で「熱」を作り出すとても大切なものです。特に朝食は体温と代謝を上げるスイッチであり、必ず取るように心がけましょう。朝おなかが空くように、夜は軽めにするのも良い方法です。

 また、夏だからといって冷たい飲み物や食べ物で胃を冷やすと、内臓が冷えて消化力が低下してしまうためほどほどに。食べ物には「温性」「寒性」があり、温性の食材を取ると実際に体温が上がることが科学的に証明されています。重い冷房病の人は食材から見直してみるのもよいでしょう。

・温性の食材

アジ、イワシ、サケ、エビ、カボチャ、栗、クルミ、納豆、黒砂糖、シソ、酢、ショウガ、ネギ、ナツメ、ニラ、ニンニク、ピーマン、羊肉、鶏肉など

・寒性の食材

キュウリ、トマト、そば、ホウレンソウ、ウーロン茶、アサリ、大根、バナナ、柿、ゴボウ、シジミ、白砂糖、ナス、ゴーヤ、メロンなど

 夏野菜や南国の果物には体を冷やす作用がありますが、冷房で体温が下がっている時に食べ過ぎは禁物。寒性の野菜はなるべく加熱し、食べる量にも注意しましょう。

【毎日5〜10分の定期的な運動をする】

 運動は自律神経、特に交感神経の働きを改善します。交感神経は体表の血管を締めて熱を逃がさない作用に関係しています。理想は毎日20〜30分のウオーキングですが、仕事が忙しい時や体調がすぐれない時に無理は禁物。定期的にいすから立ち上がる動作だけでも効果的なので、こまめに体を動かしましょう。

自律神経を整える行動とツボ

 自律神経はリラックスした動作で整いやすいことが証明されています。ゆっくりとした動作で副交感神経が整えば、それに相対する交感神経も正常に働くようになります。特に、腹式を意識した深呼吸をする時間を作ることや首を温めることで自律神経の機能が回復します。

 また、ツボ押しもオススメ。痛気持ち良い程度に押したり、ドライヤーでポカポカする程度に温めたりしましょう。簡単に押せるツボは以下の通りです。

・井穴(せいけつ)

 全ての指の爪の付け根両角にあり、反対側の手の親指と人差し指でつまむようにして揉みほぐします。

・築賓(ちくひん)

 内くるぶしの頂点と、膝を深く曲げた時にできるシワとを結んだ線上で、ふくらはぎの内側下の方です。くるぶしから膝に向かって下から3分の1の位置にあります。

・三陰交(さんいんこう)

 内くるぶしの頂点から指4本分上の位置で、足の骨の際。凹んでいることと、軽く押すだけで痛いことが多いです。

 また、冷えやすい足をレッグウオーマーで温めると物理的な体温上昇が期待できます。

冷房病は生活習慣の見直しで改善を

 冷房病は夏バテとは異なり、一度自律神経が狂うと不調が年中続く可能性があります。単なる冷えと油断せず、症状が軽いうちに対策を取るべきです。特効薬はありませんが、自分の生活習慣を見直すことで改善につながります。

「夏の入浴もシャワーで済ませず、なるべく湯船に入りましょう。ぬるめのお湯で軽く汗をかくまできちんと湯船に入ることでリラックスでき、自律神経の回復に効果的です。不規則な生活は自律神経の回復が遅れるほか、不調に拍車がかかってしまうため、しっかりと睡眠を。また喫煙は血管を収縮させるため、冷房病対策としては避けるべきです」

 忙しい社会人にはなかなか難しいかもしれませんが、自分の体を丁寧にケアすることが冷房病を予防するための最良の方法です。夏場の冷えや不調に悩んでいる人は、生活習慣を見直すことから始めましょう。

(オトナンサー編集部)