【辺境音楽マニア】世界最南端のメタル事情について

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以前の記事で、北極圏最大の都市「ムルマンスク」のメタル事情について紹介した。メタル音楽は元々ヨーロッパやアメリカなど白人が多い地域で発展した音楽のため、北半球の方がバンド数が多いのは否めない。

しかし最近では、インドネシアやアフリカなどのメタル事情をレポートした本が出版されるなど、南半球のメタルも熱くなってきている。

さてそれでは、世界最南端のメタルシーンはどういった状況なのか? 残念ながら北極圏と違って、南極圏は南極大陸に近く、人が大勢居住する都市は存在しない。世界最南端の都市と言われるのはアルゼンチン南端のティエラ・デル・フエゴ州の州都ウシュアイアである。この街の人口は5万6000人。この街には2つのメタルバンドがいたようだ。

・Fuego Sagrado

2006年に結成され、今現在も活動中のパワーメタルバンド。バンドの意味は「聖火」で、この言葉で検索すると無限にスペイン語の情報が出てきてしまうので、このバンドの情報を特定するのは至難の業である。Facebookやサイトなどが存在せず、唯一見つけたのがYouTubeのライブ動画。

デビューアルバム『Rendirse jamás』を2007年にリリースし、ウシュアイアの海洋博物館でリリースパーティを開催したそうだ。曲を聴くと、ごくありきたりな明るいメロディのパワーメタルで、特筆すべき特徴などは感じられないが、このバンドが目下世界最南端メタルバンドと言っていいだろう。

・Hamestagan

ウシュアイアには1991年に結成され、1996年に『Patagonia: Bajo La Miera』という名のデモテープをひとつだけ残して消えたグラインドコア「Hamestagan」が存在したようだ。改名前は「Necromantical」だった。1997年頃に活動を停止した模様。残念ながら古すぎて、ネットで聴ける音源は皆無。

世界最南端とされるウシュアイアのメタルバンドは、わずかにこの2つしか存在しないようだ。だが、ウシュアイアが所在するのはアルゼンチンのフエゴ島。州都はウシュアイアなのだが、実は最大都市のリオ・グランデには6万9000人が住んでいるのである。

ウシュアイアより北114キロに位置してしまうが、この都市には調査した限りでは11のメタルバンドがいるようだ。

・Karras

リオ・グランデで1番マシと見られるデスメタルバンド。2008年に結成され、2015年にはフルレンス『Precisión quirúrgica』をアルゼンチンのデスメタルレーベル「Grinder Cirujano Records」からリリース。

世界最南端に近いところから出てきたのに、なぜかイスラムのお経みたいなイントロで始まるビデオクリップ。木造の小屋でデスメタラー達がモッシュサークルしているのが笑える。ミドルテンポを基調とした「Cannibal Corpse」スタイルで、要はあまり個性がない。

・Nothofagus

2013年に結成されたプリミティブ・ブラックメタル。「Immortal」や「Gorgoroth」、「Burzum」などノルウェーのバンドから影響を受けたと公言しているが、これらのバンドが活動していたベルゲンから南北1万4000キロの距離がある。日本からノルウェーに行く2倍近くの距離だ。

2014年にリリースしたフルレンス『Tierra maldita』はまるで幼稚園児が鉛筆で描いたようなしょぼいジャケット。音楽的にはごく普通で、音質を敢えて劣化させたブラックメタル。全編スペイン語歌詞。Facebook、YouTube、SoundCloudなどネット上のプロモーションには力を入れている。

・Hostilidad

2006年に「Mystica」という名前で結成したが、直後に「Hostilidad」と改名。2007年と2009年にデモを発表したがオフィシャルリリースはなし。世界のどの街にもいそうなポンコツデスラッシュ。

他にもリオ・グランデには「Psicosis」、「Metalkimista」、「Fabián Ingrassia」、「El-Alquimista」、「Corrossiva」、「Ahura」といったメタルバンド達がいるようだが、既に活動を停止してから10年以上経っていたり、デモ音源すら出していないバンドが多く、ウシュアイアよりはマシだったとしても、そのメタルシーンは非常に規模が小さい。

・国境のある島

実はこのフエゴ島、東側をアルゼンチンが、西側をチリが領有している、国境がある島だ。残念ながらチリ領フエゴ島にはメタルバンドが出てきそうなほどの大きな都市はないようだが、フエゴ島の対岸にチリのマガジャネス・イ・デ・ラ・アンタルティカ・チレーナ州の州都プンタ・アレーナスがある。

この街は人口13万人を誇り、10万人以上という括りでいうと、ウシュアイアは該当しなくなる為、世界最南端の都市となる。前述のリオ・グランデよりも北だが、その差はわずか80キロ程。この街のメタルバンドは調査したところ、25も存在した。

・Exanimatvm

プンタ・アレーナス出身では、おそらく世界で最も知名度があると見られるデスメタル。ドイツの知る人ぞ知る「Dunkelheit Produktionen」から『Dispersae et Tormentvm』をリリース。ドゥーミーかつベスチャルなデスメタルを披露。唐突なブラストビートが刺激的。

・Inner Dystopia

2013年に結成されたデスコア。ロゴやジャケットの雰囲気からしても、その傾向性が分かる。音質は良いのだが、曲の起伏が乏しいので、やや工夫が必要だ。

・Broken Neck

2012年から活動しているメタルコアに成り切れていないスラッシュメタルとの間を行くようなスタイル。シャウトボーカルが耳障りな上に、ミックスのバランスが悪く、曲の構成もつまらない。

・Totten Sorak

南米によくあるベスチャル系に、やや「Krisiun」等に見られる突進系のブラストを混ぜたスタイル。スペイン語歌詞や戦車のジャケットからしてもいかにも南米メタルという雰囲気。

・Chakal

プンタ・アレーナスを代表すると見られるメロディック・デスメタルバンド。2015年に『Esclavos del Karma』を発表。

調査した結果、プンタ・アレーナスにおいてもメタルバンドは複数存在していたようだが、現在も活動しているバンドは少ない。またデモテープを1本残しただけなど、極めて不活発なバンドばかりで、この街もメタルが盛んとは言えない模様。

結局のところ、南極圏に人が住む都市はないし、北極圏最大の都市ムルマンスクに比べても、世界最南端の3つの都市を合計してみても、そのメタルシーンの状況は非常に “お寒い” 状況であるということが調査の結果分かった。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

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