窪田正孝、広瀬すず、菅田将暉……若手俳優、なぜ歌に挑戦? 日本のエンタメ界に変化の兆し

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 ここ最近、俳優の歌手活動が増えている。

 窪田正孝はドラマ『僕たちがやりました』(カンテレ・フジテレビ系)で、主題歌を歌うDISH//とコラボ。広瀬すずは声優を務めたアニメーション映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の劇中で、松田聖子「瑠璃色の地球」をカバー。土屋太鳳も同じく声優を務めたアニメーション映画『フェリシーと夢のトウシューズ』で主題歌の歌唱と作詞に挑戦。菅田将暉も、主演映画『キセキ -あの日のソビト-』でグリーンボーイズとして劇中歌を歌い、CDデビュー。その後auのCM「三太郎シリーズ」をきっかけに『見たこともない景色』でソロデビューも飾っている。

 特に目立つのが、映画やドラマ、CMの出演作と絡めたものだ。この傾向の背景にはいったい何があるのだろうか。音楽・映画・ドラマともに見識があり、女優やモデルの音楽遍歴を聞く雑誌連載も持つライターの麦倉正樹氏に訊いた。

「宮沢りえ、綾瀬はるか、新垣結衣……と人気女優が歌手デビューすることは十年以上昔からありましたが、最近の傾向としては出演作に絡めたものが多い。つまり、“その役として”歌うということです。女優やモデルの音楽遍歴を聞く取材をしていて思うのは、みんな音楽が好きで、コアな音楽にも詳しいということ。でも、『歌手デビューの予定は?』と聞くと、みんな否定するんですよね。でも『歌う役がもらえたら、その時には挑戦したい』と。ですので、演者にとって広い意味では歌うことも“表現”の一環であり、有名なプロデューサーとガッチリ組んで歌手活動を本格的にスタート、といった趣の一昔前の歌手デビューとは違うのではないでしょうか」

 前述した俳優陣はみな20代。そこには世代観や抱いている俳優像の違いも関係しているのではないかと、麦倉氏は続ける。

「30代以上の俳優の多くは、映画に出るのが俳優であり、テレビ番組に出演することに否定的な考えを持つ人もいました。”映画こそが芸術である”、あるいは“ストイックな役者魂”みたいな考え方は、若手俳優にはないのかもしれません。たとえば菅田将暉さんは、映画にも出演しており、その演技力も高く評価されていますが、CMにもバラエティ番組にも音楽番組にも出演しており、良い意味で、従来の俳優像に縛られていません。一方で、ミュージシャンでも星野源さんを筆頭に、野田洋次郎さん、藤原さくらさん、シシド・カフカさんなどが役者に挑戦し、話題を呼んでいる。演じることも、歌うことも、同じ表現であることには違いはなく、その棲み分けがなくなってきている印象です」

 垣根を超え、複数の表現活動を行うことは、より広い層にアプローチできるという利点もある。しかし、それだけではなく、その裏側には、日本のエンターテインメントのあり方が変わってきているといったことも関係しているという。

「日本のエンターテインメントの中では、今アイドルがマジョリティな存在になってどんどん増えてきた。彼らは歌って踊って、時には芝居もします。そういった動きがある種当たり前になり、その区切りはいつの間にかゆるやかになっていったのかもしれません。何かをひとつ極めるスペシャリストではなく、広い意味でエンターテインメントとして、お客さんをあの手この手を使って楽しませて喜ばせる。そのためには、その専門を極めてきたプロである必要もなく、一生懸命に全力でやっていれば心を突き動かすものが生まれるんだという認識が、やる側にも観る側にも芽生えている。日本は今、アイドルが牽引するエンターテインメントの時代に向かっており、アイドルが盛り上がったことにより、その価値観が塗り直されたかもしれませんね」

 最後に、今後増えそうな映画やドラマ主題歌での取り組みについても、麦倉氏に訊いた。

「歌を歌うということもそうですが、『逃げ恥』以降とも言える、“踊る時代”はもう少し続くのではないでしょうか。どのドラマも、役者が踊るシーンみたいのを積極的に取り入れている気がします。『ひよっこ』(NHK総合)や『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系)はドラマ本編に、また『悦ちゃん』(NHK総合)のように、エンディングで出演者が踊りながら歌うパターンもありますね。かといって、松たかこさんや原田知世さんのように、女優だけではなく、出演作を離れて自身が“ミュージシャン”にカテゴライズされるほど本格的に音楽をやる人が出てくるかというと、そうはならない気もします。あくまでも作品ありきなのではないでしょうか」

 芝居と歌、そして踊り。それぞれを表現する者の区分けは、近年さらに柔軟になっているようだ。このようにオールマイティに活躍できる表現者たちが、ジャンルに縛られることなく自由に活動を展開していくことは、今後の日本のエンターテインメントにさらなる盛り上がりを呼び込むことになるかもしれない。(文=若田悠希)