日本では2018年公開予定

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 現在89歳のアニエス・バルダが写真家JRと共同監督を務めたロードムービー風のドキュメンタリー、「Visages Villages(原題)」がフランスで公開になり、高い評価を受けている。今年のカンヌ映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門で披露され、各国の配給会社の買い付けがヒートアップして話題になっていた作品だ(日本ではアップリンク配給で2018年公開予定)。

 ヌーベルバーグを代表する女性監督であり(本人は自身を“ヌーベルバーグの化石”と茶目っ気たっぷりに語る)、ベネチア映画祭で金獅子に輝いた「冬の旅」やドキュメンタリー「落穂拾い」など、社会的なテーマの作品も手掛けるバルダは、ちょうどこの夏、亡き夫ジャック・ドゥミの作品とカップリングのレトロスペクィブが日本で開催されている(http://www.zaziefilms.com/index_2.html)。

 一方JRは映画界でまだあまり馴染みがないかもしれないが、現代アートの世界ではすでに知られた存在。7月に始まった東北復興を支援する新しいアートフェス「Reborn Art Festival」に参加しているので、ご存知の方もいるだろう。ちなみにこのフェスで彼が手掛ける「インサイドアウト・プロジェクト」で使用している撮影機材つきのトラックこそ、本作のなかでバルダとJRが乗って各地を旅した車だ。彼はこれまでじつに世界129カ国を訪れ、26万人に及ぶ人々を写真に収めてきた。また偉人が眠るパリのパンテオンの内部を写真で埋め尽くし、イスラエルとパレスチナのあいだの分離壁を写真で飾ったことでもニュースになっている。

 そんなふたりがトラックに乗って、冗談を言い合いながらフランスの田舎を旅して回った。といってもそこは彼らゆえ、ただ気ままに美しい田舎の風景を紹介しているわけではない。各地で地元の人々と交流をし、JRが写真を撮ってインスタレーションをしつつ、たとえば忘れ去られた炭坑夫の歴史を紐解き日陰の労働者にスポットを当てたり、生産量を上げるためにお互いが狭い場所で傷つけあわないよう羊の角を切るやり方に意義を唱える酪農家を訪れたりと、声高ではないながらそこには社会的なメッセージが込められている。

 その一方で、かつてバルダの友人でもあった写真家ギイ・ブルダンの思い出など、私的な逸話も含まれている。驚くのは、映画のクライマックスに用意されている(現在の)ジャン=リュック・ゴダールとのエピソード。詳細は観客のサプライズにとっておくとしても、ゴダールに対するイメージがこれで決定づけられるのではないか、と思われるようなシーンだ。そしてこのときに思わず見せるバルダの表情が、なんと印象的なことか。

 全体的に偶然の出会いの集積のようでありながら、じつは緻密に構成されているところもみごと。また旅を続けるうちに、55歳年の離れたこのコンビが尊敬と慎ましさを保ちつつ絆を深めていくさまは、心を打つものがある。世代の差を超えてこういう微笑ましいコンビが自然体で存在するところも、いかにもフランス的かもしれないと思わせられた。(佐藤久理子)