パンオフゥ

 パンオフゥのクロワッサンがただごとでない。気づいたのは、パンオレザンを食べたときだ。パンオレザンとは、クロワッサン生地でレーズンとカスタードを巻き込んだ、フランスの定番おやつパン。パンオフゥの店頭で見かけたそれは、ゴールデンブラウンのぐるぐる渦巻きのうつくしさが半端なく、思わず買い求めた。


パン オ レザン

 一刻も早く食べたいと急いで店前にある広場のベンチに座り、紙袋から取り出した。折り重なった一層一層はかよわく、手でもっただけでちりぢりになりそうだ。思わず口をもっていくと、ばりっばりっと小気味よく割れる。かと思えば、中にいくほどしっとりして、ぷにゅっと感の快楽に変わる。クロワッサンから噴出されるバター感、アルコールの芳香を含んだレーズンのしずく、そしてカスタードの甘いとろとろが相互貫入、口の中ですばらしい甘さが沸き上がる。夢中になるあまり、クロワッサンの皮をベンチのまわりにこぼしながら「ああー」とため息を漏らすやばい人になっていた。


店の前は広場になっていてパンを食べるのにうってつけ

 いかにカスタードやレーズンがおいしいとしても、それだけではこの三位一体のすばらしさは生まれ得ない。大事なのはクロワッサンのおいしさ、とりわけバターの風味。濃厚だが軽やかで、いつまでも嗅いでいたい心地よさ。表皮においてはキャラメルのように香ばしく、中身の甘さは生々しく芳醇、しかもコクに満ちて力強い。

 思い当たる節はあった。店の壁には光り輝く業務用バターの包み紙が「どうだ!」とばかり貼られていたっけ。フランス産発酵バター、レスキュール。上野史裕シェフにお値段を尋ねると、

「普通のバターが1キロ1500円ぐらいのところ、約2900円します」

 と、なんと倍! 1キロから30個のクロワッサンができるというから…いや、金の話はやめとこう。クロワッサン1個の値段は230円とごく一般的だから、パンオフゥさんがいかに勉強してくれてるかは十分伝わった。


店内に貼られているレスキュールバターの包み紙


業務用レスキュール


レスキュールの包みを開けたところ


叩いて平べったくする


パン生地を「シーター」と呼ばれる機械で薄くする


薄くした生地でバターを包み込む


バターを包んだ生地をシーターでのばす


のばした生地を四つ折り。これを2回繰り返して4×4=16層を作りだす

 パンオフゥのコンセプトは「本格的なフランスのパンを焼く」。だから材料も惜しまず本場のものを使う。レスキュールだけなら使ってない店もないわけではない。もうひとつ、キーになるのは粉。ラ・トラディション・フランセーズというフランス産のハイグレードな小麦粉を使っているという。

「旨味の強い粉でやりたかった。食感もざくざくになります」

 甘さの中にある特別なコクは、バターと粉の合わせ技で生まれているのだ。


店内の様子

極上のクロワッサン生地を使ったおすすめのパン3つ!

 このクロワッサン生地を使った3つのパンをおすすめしたい。まずは本丸のクロワッサン。味わいは上記した通りだが、なかんずくその醍醐味は食べる前に漂ってくる激しいバターの香り。まるで、着陸しようとする飛行機から見る滑走路の誘導灯みたいに、欲望のまま一直線にここへ噛みつけと誘ってくる。攻撃目標ははじっこの尖ったところ。突撃する。ばりばりっと音を立てて崩れる。あふれるバターの甘さが現実のものになる。


クロワッサン

 パン オ ショコラもバトンショコラをクロワッサン生地で包んだフランス人の大好きなお菓子パン。このパンにもフランス製カカオバリーのチョコレートが使われる。クロワッサンのバター感あふれる口の中に、チョコレートがとろけて混ざりあう。変化の渦が巻く。想像の斜め上を行くカカオの芳醇さ。甘く、ほろ苦くやや酸味があり、豊かなフレーバーの砂塵が鼻孔へと舞い上がる。


パン オ ショコラ


 

 シナモンロールにもクロワッサン生地を使用。クロワッサン好きは駆けつけるべき名作だ。アーモンドペーストのすがすがしくも濃厚な広がり。シナモンシュガー、そして澄んだバターの風味が重なるとこんなにすばらしいオーケストレーションが生まれる。それだけで十分すぎるほど官能的なのに、そこに甘さのスコールを降らせるアイシングは罪深い。


シナモンロール

パンオフゥ
03-5420-5404
東京都品川区東五反田3-20-14 高輪パークタワービル 1F
9:00〜18:00 日曜月曜休み
http://pain-au-fous.jp/

写真=池田浩明

(池田 浩明)