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1年間で部活動を休むのは、わずか数日だけ。朝練と放課後、そして週末も「自主的に」登校し、部活動に明け暮れる。時に、学業よりも熱意が注がれる中学、高校の過酷な部活動だが、成功例を美談として消費してしまいがちだ。しかし成功の陰には、休みなく続く練習に悲鳴をあげる先生や生徒もいる。その「暗部」に光をあてたのが、内田良・名古屋大学大学院准教授(教育社会学)だ。

新刊「ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う」(東洋館出版社)では、内申や教員採用試験に与える部活動の影響など、これまで明らかにされてこなかったテーマにも切り込む。「部活動の全廃を目指すものではない」という内田氏に、これからの部活動はどうあるべきか聞いた。

●過熱化した背景に学習指導要領の改訂

ーー内田さんが「ブラック部活動」を世に問うたことで、はじめて部活動が「自主的な活動である」ことを知りました。

「学校制度上、部活動は表向き、生徒も先生も『自主的に』やっていることになっています。

文部科学省が定める学習指導要領では、部活動は『生徒の自主的、自発的な参加により行われる』とされています。さらに、先生は法制度上、時間外勤務は認められていませんので、部活動指導は先生の意志に基づき、好んでやっていることになっているのです。生徒にとっても、先生にとっても自主的なはずの部活動が、現実には強制されているという素朴な矛盾点があります」

ーーそれと同時に、部活動が過熱してきたことの背景には、何があるのでしょうか

「部活動が先生、生徒ともに『評価』の対象となったことが、背景の一つとして指摘できます。私は中でも1989年の学習指導要領の改訂に注目しています。この改訂で、従来の学力試験では測れない子どもの能力として『個性』が、新たな評価軸に据えられました。この対象として、『部活動』はうってつけでした。

評価の対象に加わったことで、教育課程外の活動でありながら、1990年頃から生徒も教員、保護者も評価に縛られて、皆で首を絞め合いながら、『勝つこと』に取り組むようになってしまったのです。

自治体によって異なるものの、部活動の参加を義務付けている学校もあれば、義務づけられていなくても、評価、とりわけ入試への影響(内申)をおそれて加入せざるを得ない、退部できないという感覚が生徒、保護者に共有されてしまっていると推察します」

●自主性に任せず、やるべき管理・規制もある

ーーそもそも学習指導要領に入っていない部活動に、なぜここまで熱中する事態になっているのか不思議です

「『自主的』だからこそ、たくさんやっても誰も咎めないし、規制がかかりません。

例えば、国語の授業で『この授業は面白く、ためになるから、授業時間を2倍にしよう』という話にはならないし、学習指導要領にしたがってやるのは当たり前だと誰でも考えます。ところが、部活動は表向き『自主性』とあるため、週6、7回もやってしまい、何のコントロールもききません。

自主性を尊重することの問題点に、『教育学』という学問は、いまのところ切り込むことができていません。『管理や規制はよくない』という発想から、部活動は自主性が重んじられてきました。そのこと自体は悪いことではありません。ただ、子どもの心身に負担がかかるところまで自主性に任せていいのか、と。やるべき管理・規制もあるのではないかと考えています」

ーー部活動をしてこなかった人からすると、「なら、やらなきゃいいじゃん」と捉えがちです。本の中で「楽しいからハマる」と指摘されていましたが、誰にとっても苦行というわけではないのですね

「部活動では、苦痛を感じる人だけでなく、楽しんでやっている人も多いのですが、あまり指摘されていません。部活動を変えていくためには、自主的なのに強制される実態だけでなく、自主的だから過熱していく面についても明らかにする必要があります。

部活は先生にとってのやりがいのあるものです。ある先生が、『最初はやる気がなかったけれども、教えていると子どもが上手になる。保護者が喜ぶ。気がつけばハマった』と。そして、ある時、はたと気付いて、土日くらいは休もうとしても、今度は生徒や保護者から『なぜ休むの?』と言われてしまうわけです」

●「無給で行う時間外労働」でも法的な問題はない

ーー部活動を取り巻く問題の1つとして、法律の不備も指摘されています

「前述したように、部活動は無給で行う時間外労働となっています。一般の会社員とは違い、教員にかぎっては、そのことに法的な問題はないのです。

公立学校の教員は、時間外勤務や休日勤務については、割増賃金(残業代)を支給しなければならないと定めた労働基準法37条の適用外とされ、その代わりに『給特法』(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)が適用されます。

給特法の細かい説明は、本書(第5章)を読んでいただけたらと思いますが、いずれにせよ、給特法により、教員が時間外勤務をしていても、それは自主的に残っているだけ。このように法律が定めているのだから、学校は時間外労働の実態を把握する必要もないことにされているのです。

建前では、先生は16時45分までしか働かないと決まっているため、その外側では好き放題にできている実態がある。部活動は、やることが決まっていないため、際限なく過熱していくのです」

●「総量規制により、ゆとり部活動を」

ーー改革に向けた動きはあるのでしょうか

「外部指導者の導入が部活動改革の目玉になっています。その導入の目的は大きくわけて2つあります。1つは、先生の負担軽減、もう1つは、生徒への専門的指導です。

でも、そこには重大な問題があります。先生の負担減になったとしても、子どもたちの負担はどうなるのか。専門的な指導者がくれば、より競技性を高めようと厳しい練習をするようになる可能性があるのです」

ーー9章では、部活動の活動量を総合的に減らす「総量規制」をし、「ゆとり部活動」の追求を提言されていますね

「私は研究者ですから、過去と現在についてエビデンスをもとに科学的に語ることができます。

他方で、未来については単に思い描くことが中心になりますから、あまり得意ではありません。ただ、この問題については、先ほどの外部指導者の導入がそうであるように、今の改革では危うい点があると考え、エビデンスのない未来であっても、たたき台として世に示す必要があると考えて、総量規制という未来展望図を提案しました。

朝練や土日練習を減らしたり、大会への参加回数を減らしたりするなど、徹底して部活動をスリム化していく必要があります。

ただ、よく誤解されるのですが、『部活動を全廃せよ』とは言っていません。あくまでも、先生と子どもの心身の健康を優先して、その上でやりましょうと。総量規制すれば解決できることです」

●「まだ明らかにされていない闇はある」

ーー本書の中でも「部活動を全否定するのではなく、その強制と過熱をマシな方向にもっていく。より多くの関係者が、無理することなく『部活楽しい!』と言えるような、新しい部活動のあり方を探っていきたい」と書かれていました

「ブラック部活動で、先生が大変だと言っても『部活動にはこんな意義がある』と返されてしまうのですね。『部活動を続けるか、やめるか』の議論はしていません。部活動の意義はあるのだから、『負荷のないかたちでできたらいいね』という議論になっていけばいい。

巨大組み体操の問題を指摘した時もそうでした。データをもとに、『巨大組み体操は事故が起こって危険だよね』と指摘しましたが、『全廃したいのか?』と返されてしまう。『いや、低くすればいいんです』ということだったのですが」

ーー巨大組み体操で事故が多発していることを明らかにしたことで、全国の学校での見直しが進むなど、内田さんの発信が社会に与えた影響はとても大きかったと思います。現在は「課題は、山積。猫の手ならぬ、たこの足を5、6本ほど借りたい状況」(「おわりに」より)とのことですが、組み体操から部活、2分の1成人式、柔道事故に続く、内田さんの次なるテーマは何なのでしょうか

「学校にはまだ明らかにされない闇の部分は多くあります。部活動にかぎっても、この本ですべて書けたわけではありません。これまで運動部の問題が大きく取り上げられてきていますが、実際によく相談されるのは、文化部である吹奏楽部の問題です。また『自主的なのに強制される』ものとして、補習授業、PTAなど様々にあります。

教育問題について発信を続けている中で、先生はもちろん、保護者、生徒、先生の親などから、様々な問題について『つらい、つらい』という声が届きます。こうした声を拾っていく中で、次のテーマも出てくるのだろうと思います」

【プロフィール】

内田良 (うちだ・りょう)名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授

スポーツ事故、組み体操事故、転落事故、体罰、自殺、2分の1成人式などの学校リスクについて広く情報発信している。著書に「教育という病」(光文社)、「柔道事故」(河出書房新社)など。ツイッターアカウントは「@RyoUchida_RIRIS」。

運営サイト「学校リスク研究所」http://www.dadala.net/

「部活動リスク研究所」http://www.rirex.org/

(弁護士ドットコムニュース)