パリSGへの移籍を決めたネイマールの入団会見が、日本時間の4日夜に『ダ・ゾーン』でライブ中継された。ひょっとしたらここ数十年でもっとも大きな移籍の当事者となるネイマールの言葉を、日本に居ながらにして聞けるとは──。思いがけず興味深い時間を過ごすことができた。

 フランス、ブラジル、スペイン、イタリア、アメリカなどから集まった記者は、世界最高額の選手になったことについて、バルセロナを去ることについて、バルサのファン心理についてなどを、立て続けに聞いていった。見慣れないスーツに身を包んだネイマールは、目の前に置かれたミネラルウォーターに手を伸ばすこともなく、質問に答えていった。

 290億円とも言われる移籍金が動いているのだ。日本的に言えば直球かつ意地悪と受け取られるような質問もあった。日本ならゴシップネタを提供した芸能人が浴びせられるような種類の質問が、多かったと感じる。
 
 それでも、ネイマールは一度として声を荒げることなく、穏やかな表情を崩さずに質問に答えていた。ブラジルやスペインでタフなメディア対応を日常としてきた彼だけに、それぐらいはお手のものなのだろう。

 ネイマールのスキのない対応に感心しつつ、日本との違いを感じる会見でもあった。

 配信された映像から判断する限り、クラブの規制がほとんど見えなかったのだ。世界的な規模の会見だけに、事前に質問者とその順番が決まっていた可能性はある。ただ、内容についてはクラブのフィルターがかかっていなかったと感じた。結果的に1時間ほどの会見で、ネイマールは世間が抱いている疑問にほぼ答えることとなった。

 これが日本になると、クラブもメディアも「忖度」が先走る。クラブ側は「今日は●●についての会見なので」と、あらかじめ質問の幅を限定することがある。 

 メディア側の自主規制もある。今後の関係を友好なものにしたいとの思いから、クラブや選手を刺激するような質問を避けることがある。登壇した選手が表情を歪めるような質問は、その場では聞かずに「時間をかけて真相を確認していく」といった空気が流れる。日々の取材のなかでさりげなく情報を集めておき、その選手が目を見張る活躍をした試合などの時機を見て「実はあの移籍には……」とか「あの決断の裏側には……」と記事にすることが多いだろう。僕自身も含めた一般的な傾向だ。

 情報発信の方法として、それもひとつの方法なのだろう。ただ、その場その場で視聴者や読者が知りたい情報を聞き出すことを、メディアは忘れていけないとも思う。結果的にそれがニュースバリューを高め、コア層だけでなくライト層をもサッカーへ取り込むことにつながるはずだからだ。