日銀も忘れていた理論

日銀は政策に掲げているインフレ率の2%上昇の達成時期を「'19年ごろ」と1年先延ばしにした。

日銀は消費拡大を「緩やかに進んでいる」とポジティブに捉えているが、'13年の導入決定からなかなか達成できていないことから、これ以上目標を掲げ続けることに意味があるのかと疑問を呈する向きも多い。果たして「2%」という数字目標、そして今回の達成延期にはどのような意味があるのか。

そもそも、金融政策の究極的な目標はなんなのか。それは「物価の安定」ではなく、「雇用の確保」を達成することだ。経済理論では、インフレ率と失業率は「逆相関」の関係にある。インフレ率が高ければ失業率は低く、逆にインフレ率が低ければ失業率が高くなるのだ。

ただ、インフレ率がいくら上がっても失業率がほとんど下がらなくなる「限界」がこの逆相関にはある。経済政策を行っても失業率の改善に効果がなければ意味がない。

インフレ率の上限を定めているのは、失業率を無理やり下げるために極端な金融政策を実施しようとすることを自制させるためでもある。

安倍政権の経済政策によって、現在就業者数は200万人程度上昇し、失業率は3%程度まで改善している。

ここで重要なのは、なかなかインフレ率が上がらなくても、失業率が低下すれば金融政策の目的は達成されているということだ。

日銀はあまりこのような説明をしない。というのは、日銀自身「金融政策=雇用政策」という意識が欠けていたからだと筆者は考える。特に、民主党政権時代に任命された総裁、副総裁、政策委員会審議委員にはこのような成果基準を念頭に置かない人が多かった。

金融緩和は継続すべき

'17年7月で民主党時代に審議委員に任命された木内登英氏と佐藤健裕氏が退任となった。両名は安倍政権の長期的な金融緩和政策に対して反対姿勢を貫いていたが、彼らの退任によって日銀は今後徐々に姿勢を変化させていくだろう。

日銀はこれまで構造失業率(いくら金融政策を実施してもこれ以上下げることができない失業率)は「3%台半ば」であるとしてきた。つまり、いまは「完全雇用」に近い状況で、これ以上の金融緩和を行う必要はないというスタンスだった。

しかし、おそらく今の日銀は構造失業率を「2%台半ば」と考えを改めているはずだ。そして、完全雇用を達成するためには、金融緩和は継続すべきだと判断した結果が今回の目標達成の延期である。

インフレ率上昇の達成時期を'19年としたのは、裏を返せば少なくともあと2年は金融緩和を続けるということ。それと同時に、失業率を「2%台半ば」まで下げていくとの宣言でもあるのだ。

たしかに金融政策は「物価の安定」を名目として実施されることが多く、今回の日銀のインフレ目標も例に漏れない。ただし、「物価の安定」は雇用が確保されてこそ成り立つものだ。

日銀もそのことに気づいて方針転換を図っているのだから、雇用の確保のために金融緩和を続けると説明したほうが国民に対して説得力もあるはずだし、これは報道にも同様のことがいえる。メディアにはもっと金融政策のリテラシーを持ってもらいたいところだ。

『週刊現代』2017年8月12日号より