日米韓首脳が初会談 北朝鮮問題で連携を確認(YONHAP NEWS/アフロ)

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 最近、韓国の対北朝鮮政策を見ていると、よく理解できない状況になっている。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、これまでの政治との決別など革新的な取り組みを主張してきた。そのなかでも注目されるのが、北朝鮮との対話政策だ。文大統領は、北朝鮮の度重なるミサイル発射などの軍事的挑発にもかかわらず、北朝鮮との融和を重視している。しかし、北朝鮮は文政権の呼びかけに、一切の反応を示していない。文政権が提案した軍当局者会談に関しても、北朝鮮は回答を示していない。それにもかかわらず、韓国は対話の意欲を示し、南北の融和を呼びかけている。

 話をする気のない相手に対話を呼びかけることが、事態の改善につながるとは考えづらい。端的に言い表せば、それは矛盾だ。韓国には中国との関係の維持・強化を目的に、北朝鮮に対して強硬な姿勢を取りづらいという実情もあるのだろう。

 重要なことは、長い目で考えたとき、現在の北朝鮮政策が韓国の国力強化につながるか否かだ。韓国経済が中国への依存度を高めてきたことも考えると、文政権の北朝鮮政策が短期間で修正されるとは考えづらい。朝鮮半島情勢の混迷が長期化するリスクは高まっているとみるべきだろう。

●戦略なき韓国の対北朝鮮政策
 
 革新系の政治家として、文大統領は財閥企業と政治の癒着を断ち切ること、国内経済の底上げ、北朝鮮との融和などを主張してきた。そうした主張によって同氏は、前政権下での政治スキャンダルや、財閥企業が経済を牛耳るなかで経済格差の拡大に直面してきた韓国の有権者の不満を、うまく集めることはできたといえる。

 問題は、こうした主張が韓国の成長戦略といえるかどうかだろう。その最たる例が、文政権の対北朝鮮政策だ。対話の呼びかけにもかかわらず、北朝鮮は核開発やミサイル開発を進めている。北朝鮮にとって重要なことは、韓国との関係ではない。米国に対して核の脅威などを突き付け、経済制裁の解除など北朝鮮にとって有利な条件を引き出すことが重視されている。突き詰めていえば、韓国の動きは関心の対象外ということだろう。

 本来であれば、韓国は国際社会との連携を強化して北朝鮮に圧力をかけるべきだろう。中国やロシアからの圧力にも接している韓国が自らの声で北朝鮮の脅威を国際社会に訴え、毅然とした行動を求める意義は大きい。

 韓国は安全保障面では米国との関係を基礎とし、日本をはじめとする主要国との連携強化を目指すべきだ。それが、中国やロシアにも、北朝鮮に対する一段の踏み込んだ対応を促すことにつながる可能性がある。最終的に、国際社会からの締め付けをきつくすることが、北朝鮮の自覚と自制を促し、朝鮮半島情勢の安定につながると考えられる。

 これが、韓国が持つべき戦略=対北朝鮮政策と考えられる。ある韓国在住の政治学者は、文政権がこうした戦略を提示できないことが中長期的な国力の低下につながりかねないとの懸念を示していた。その指摘は軽視すべきではない。

●中国との関係強化を重視する文政権
 
 文政権が戦略なき、矛盾した対北朝鮮政策を続ける背景には、中国への配慮がある。足許の韓国経済は安定しているが、この要因として、サムスンの業績が拡大していることは無視できない。その一方、現代自動車は中国での販売が減少している。これは、今年2月、韓国が米国のミサイル防衛システムの配備を進めようとしたことを受けて、中国が韓国企業への制裁を行ったことなどが影響しているようだ。

 韓国は構造改革を進め、競争原理が発揮されやすい経済体制を整備しなければならない。1997年のアジア通貨危機の発生以来、多くの経済の専門家がこの点に言及してきた。長い目で考えると、構造改革が民間企業のイノベーションを支え、財閥企業に依存し、支配されてきたとまでいわれる経済構造の刷新につながるだろう。一時的な痛みは避けられないが、それが経済格差の是正にもつながると考えられる。口でいうほど簡単なことではないが、文政権はそうした成長戦略を策定し、国民の理解を取り付けなければならない。

 現実の政策を見ると、文政権は構造改革よりも、今ある経済基盤の活用を重視し始めているようだ。大統領就任以降、財閥解体などに関する踏み込んだ発言などは出ていない。見方を変えれば、文政権は、まず中国との関係を強化し、その上で財閥改革などに着手すればよいと考えていると見ることもできる。

 加えて、米国は韓国とのFTA(自由貿易協定)の再交渉を求めている。それだけに、韓国にとって中国との関係を強化することの重要性は増しているとも考えられる。今後も北朝鮮は米国などを念頭に、軍事的な挑発を続けるだろう。それでも、韓国は対話を軸に北朝鮮問題の解決を目指す可能性が高い。これは、韓国の政治が自国を核やミサイルのリスクに晒していることにほかならない。

●長期化が見込まれる朝鮮半島情勢の混迷
 
 今後も韓国経済は財閥企業の経営動向に左右されるだろう。国内の経済格差が解消に向かうとは考えづらい。北朝鮮への懸念も高まる恐れがある。文大統領の支持率が低下し、政権運営が難しくなる展開は排除できない。

 中国が重視するのは、韓国の安定ではない。中国は北朝鮮に圧力をかけすぎた結果、金独裁政権が暴走し、半島の混乱が国内にまで及ぶことを避けたい。そのために中国は、北朝鮮への強硬政策を主張する米国と距離を置いている。短期間で朝鮮半島情勢が解決に向かうとは考えづらい。

 わが国にとって、この状況は対岸の火事ではない。自国の社会・経済の安定を支えるために、政府は国内の構造改革を進め、国際社会における発言力の向上にも取り組む必要がある。

 トランプ政権下、米国は内向き志向に走り、自国第一の政治・経済運営・安全保障を重視している。この状況が続くと主要国の利害調整は難しくなり、多極化が進む恐れがある。すでに、ドイツが中国との関係強化に取り組んでいるのは、その一例だ。

 このなかで日本は安全保障面では米国との関係を基礎としつつ、多国間の経済連携を進めて自由貿易や対外直接投資などの促進に向けた議論を進めるべきだ。まず、日本はアジア新興国との関係を強化し、経済連携に関する利害調整を行う必要があるだろう。そのなかで、日本の考えに賛同する国には積極的にインフラ投資などの支援を提供する。これによって、日本はアジア地域との関係を強化することができるだろう。

 それが、親日国を獲得するということだ。親日国が増えることは、日本を支持する国の数が増え、発言力が増すことを意味する。これが、北朝鮮への対応をめぐる各国間の利害を調整し、アジア・極東地域の安定にもつながるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)