GINZA SIXのキーパーソンが描く「豊かな消費」の未来図

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4月20日、銀座に生まれた2500人もの行列。その先にそびえ立つ、ステンレスのひさしが輝く建物が「GINZA SIX」だ。松坂屋銀座店の跡地を含む2街区に誕生した、銀座最大の複合商業施設である。

そもそも銀座は、東京の中でも特別な街である。江戸時代に銀貨の鋳造所があったことから”銀座”と呼ばれるようになり約400年。日本で最も地価が高く、2017年は1m2あたり5050万円(銀座4丁目)と過去最高を記録した。オリンピックのパレードも行われるなど、まさしく日本の中心地だ。

開発区域内にあった松坂屋銀座店は1924年(大正13年)、銀座に初めて開業した百貨店だった。松坂屋は他社に先駆けて女性社員の制服を定めたり、土足入場に踏み切るなど、革新的なデパートだった。上野店では日本初のエレベーターガールも登場した。

GINZA SIXは、地上13階、地下6階で延床面積は148700m2に及び、銀座エリア最大規模の4万7000平方メートルの商業面積、241店舗を誇る。大規模オフィスや文化・交流施設「観世能楽堂」、観光バス乗降所なども備える大型複合施設だ。

基本設計は建築家の谷口吉生氏。「ニューヨーク近代美術館」などを手掛けた日本を代表する建築家でありながら、メディアにはほとんど露出しない「作品主義」で知られる。銀座のあらゆる路地から見てもGINZA SIXだとわかるように、オフィスが入る上層階ごとに「ひさし」をぐるりと巡らすことで、水平的な統一性を表した。GINZA SIXは、松坂屋の革新性を引き継いだ、新たなる銀座の顔と言うべき施設なのだ。

当プロジェクトを進めたのは、J.フロントリテイリング、森ビル、L キャタルトン リアルエステート(LVMHグループの不動産投資・開発会社)、住友商事の4社。その中から、J.フロントリテイリング取締役会議長の小林泰行氏、森ビル執行役員の栗原弘一氏、LVMHジャパンシニアヴァイスプレジデントの山海卓氏ら3名のキーマンを集め、GINZA SIX誕生の経緯からコンセプト、建物を作り上げていく過程まですべてを語ってもらった。


J.フロントリテイリング取締役会議長の小林泰行氏

小林:GINZA SIXのプロジェクトがスタートしたのは2001年です。16年も昔の話なので、非常に長い時間をかけた事業と言えるでしょう。当時、松坂屋銀座店がまだあったのですが、建物の老朽化が進み、建て替えについて森ビルに相談したのがすべての始まりです。このときは当社も大丸と経営統合したJ.フロントリテイリングではなく、松坂屋単体での事業でした。

栗原:松坂屋は当初、銀座店の建て替えを想定されていたのですが、我々は周辺の土地を巻き込んだもっと大きな街区を新たに形成して再開発することで、松坂屋の価値をより高めるご提案をしました。非常に大きな事業になるので、我々2社以外にも、より多様な知見やノウハウ、資金面も含めたパートナーを加えたほうがよいのではないかということで、LVMHと住友商事にも参加していただきました。

山海:我々は70以上のメゾンが集まったラグジュアリーブランドのグローバルコングロマリットですが、現会長兼CEOのベルナール・アルノーは、元々不動産開発会社を経営していました。それもあって、グループのビジョンの中で、複合不動産開発は大変大きな要素の一つです。

2009年ごろに森ビルから当社にお話があり、2010年に銀座六丁目地区の市街地再開発準備組合というものができ、ここで初めてJ.フロントリテイリング、森ビル、L キャタルトン、住友商事が一堂に会して、4社共同で新しい複合商業施設を作り上げていく枠組みができました。我々としても、国際的な見地やラグジュアリービジネスの視点をこのプロジェクトに持ち込む形で貢献できるのではないかという思いがありました。

小林:デベロッパーとしての森ビル、世界的なブランドであるLVMH、事業プランナーとしての住友商事、そしてリテーラーとしてのJ.フロントリテイリング。この4社がそれぞれの知見とノウハウを融合させて、世界に冠たる商業施設を銀座に作ろうとしたわけです。なので、施設のコンセプトやどのような建物にするのかということについては、4社で時間をかけて、何度も話し合ってきました。

山海:4社のトップが集まってGINZA SIXの事業の方向性について語り合うステアリング・コミッティという枠組みを作り、協議を重ねました。2013年から始めて、3カ月に1回程度のペースで計18回。多忙な方たちがそれだけの回数集まって、今後について徹底的に協議するというのは、なかなかないことだと思いますね。

栗原:我々は様々な会社と一緒に再開発事業を進めていくのが本業なのですが、業種の違う複数の会社が対等な立場で協議してプロジェクトを進めるという経験はなく、どうなるのか正直想像がつきませんでした。しかし、考えていた以上に話し合いはスムーズに進み、大きな方針を固めていくことができました。

J.フロントリテイリングはブランドを始めとするリテーラーや小売業の方々とのネットワークが非常に強いし、LVMHには世界的なラグジュアリーブランドの立場から、またグローバルな視点からの知見、アドバイスをいただいた。住友商事は事業の成立性、組み立てについて的確な指摘をいただき、我々は開発のノウハウやプロモーション、アートの組み込みなどを得意としています。

4社それぞれの強みが異なり、互いに補完し合うことができたからこそ、GINZA SIXのプロジェクトを前に進めることができたのだと思います。ステアリング・コミッティがトップ同士が本音ベースで語り合える場として機能したことも大きかったですね。

山海:とはいえ、松坂屋跡地の周辺の街区を巻き込んで規模を拡大するという点は、森ビルなくしてはできなかったことだと思います。

栗原:地権者の承諾を得るのは、それなりに苦労はありました。なんといっても銀座ですから、皆さんビルのオーナーで、容積率もきちんと使って、収益も上げている。そこを取り壊すわけですから、それ以上に権利が返還される物件にするということを約束できないと合意は得られません。

また、銀座はすべての通りに商店街の連合会があり、皆さん古くから銀座で商売をされてこられた方々で、銀座の街を非常に大事にされています。その方々の考え方と、我々が志向するもの、そのすり合わせを行う話し合いは、時間をかけて丁寧に進めましたね。

小林:我々としても、銀座松坂屋という名前がなくなることについて、寂しさがなかったとは言いません。それだけの歴史がある店でしたからね。しかし、百貨店という業態に固執していたら、GINZA SIXのような、オフィス機能や観世能楽堂のような文化施設も備えた革新的な複合施設を作ることはできなかった。我々は、店舗を核として地域とともに成長していくアーバンドミナンド戦略をとっていますが、今回のGINZA SIXはまさに銀座の街と共にいかに発展していくかを考えました。

栗原:森ビルは「東京の磁力を引き上げる」ことがミッションの会社です。今は都市間競争の時代で、経済や社会の発展の元となっているのは国家より都市。そして銀座は東京のまさに中心地です。銀座の魅力を高めることが、東京、ひいては日本に人を引き付ける磁力を高めることになる。そういうマインドでこのプロジェクトに取り組んだからこそ、商業だけでなくオフィス機能や文化施設、屋上庭園や観光センターまで融合した複合施設という発想も生まれました。

そして4社で共同して作り上げたのが、「Life At Its Best 最高に満たされた暮らし」というコンセプトであり、「Where Luxury Begins世界が次に望むものを」というブランドスローガンでした。


森ビル執行役員の栗原弘一氏

山海:コンセプトにもスローガンにも共通しているのは、人々の生活を豊かにする真のラグジュアリーを追い求めていく姿勢です。これまで日本では、個人向けラグジュアリー関連の商品は7、8割がた百貨店が取り扱ってきました。これは国際的に見れば少し特殊で、グローバルには路面店やショッピングモール、空港など、もっと多様なリテールフォーマットがあります。

それを考えれば、日本のラグジュアリーリテールはもっと様々なチャレンジができる余地があるはず。GINZA SIXがその先駆者となれるかどうかは今後の運営次第ですが、一つのモデルとなればいいと思いますね。

小林:「Where Luxury Begins」というスローガンには、次の新しいラグジュアリーの在り方、「New Luxury」を世界に発信していくという思いが込められています。ただ単に高価なものではなく、人生を豊かにしてくれる真に価値のあるモノや体験。それこそが真のラグジュアリーであると我々は考えています。だから、GINZA SIXに入っていただくテナントの条件としては、まずこういった我々のコンセプトに共感していただけることが第一でした。

つまり、次の世代につながる新しいプロダクトやサービスを生み出していく力、何よりも革新性と先進性があるかどうか。もちろん、実際にはそれだけではありませんが、これが大前提となっています。

栗原:ラグジュアリーという概念も、消費者の中で変質しつつあるのではないかと思います。これまでのラグジュアリーはどうしても一部のブランドの高級品というイメージでしたが、プロダクトに対してサービスの重要性が高まり、サステナビリティ、つまりこれからもずっと価値や品質が継続することや、何より消費者自身の価値観やライフスタイルにあったものであるかどうか。

そうしたことを消費者は重要視し始めており、ラグジュアリーとは必ずしも誰もが価値を認める一部のブランドの商品だけに留まらなくなってきました。いわばそうした”ポストラグジュアリー”とも言うべき現代のマインドを、GINZA SIXに入っているテナントには意識していただきたいと考えています。

山海:LVMHは、長い歴史を持つ数多くのラグジュアリーブランドを有する企業グループですが、どのブランドもそのDNAを守りながら時代に合わせ変化し続けています。常に挑戦し、未来に投資して、これまでにない新しい商品、経験をお客様に提供したいという気持ちでいます。GINZA SIXもそういうブランドの集合体になっていくということですね。

小林:GINZA SIXは、ワールドクラスのクオリティを備える、国内外のお客様をお迎えできる商業施設であり続けることを目指しています。数字的な話をすると、年間売上目標は600億円、目標来館者数は2000万人です。決して不可能な数字ではないと考えています(編集部注:GINZA SIXは開業当日に約9万人、開業18日目の時点で152万人を記録するなど、年間2000万人を超えるペースで集客している)。

さらに、我々リテーラーの立場から言えば、銀座を訪れる国内外のお客様に「銀座と言えばGINZA SIXだ」と思ってもらえる評価が欲しい。GINZA SIXに行けば、ショッピングはもちろん、アートもカルチャーも体験できるし、本物のサービスも受けられる。その評判が広まり、定着すれば、売り上げも来館者数も自ずと上がっていくでしょう。

栗原:世界には星の数ほど様々な施設があるわけですが、GINZA SIXはそれらの施設に関わるすべてのデベロッパー、リテーラー、テナントから目標にされる存在であってほしい。少なくとも、向こう30年間は超えられないような、そんな施設にしたい。そうすれば、消費者は銀座を訪れたときは必ずGINZA SIXに来てくれるようになります。

山海:現代の消費者はどんどん変化し、前に進み続けています。我々はその流れに遅れることなく、変化するニーズに高い水準で応え、ワールドクラスのクオリティを提供し続けていきたいと考えています。銀座は世界的に見ても非常にユニークな街。我々はそんな銀座と共に成長していきたいと思います。


LVMHジャパンシニアヴァイスプレジデントの山海卓氏

小林泰行◎1973年大丸入社、2003年に同社執行役員、札幌店長、東京店長を歴任し、2007年、J. フロントリテイリングの執行役員に就任。2017年より同社取締役会議長を務める。

栗原弘一◎1982年森ビル入社、2000年株式会社ヴィーナスフォート代表取締役副社長、2005年代表取締役社長を経て、2014年森ビル営業本部商業施設事業部執行役員就任。

山海卓◎2006年にLVMHジャパン ディレクター、2017年4月に同社シニアヴァイスプレジデントに就任。2010年からLVMHグループの不動産開発投資会社Lキャタルトンリアルエステートのパートナー/日本責任者を兼任。