宇宙は今、再利用性の時代だ

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著:Matthew Richardson(東京大学 Doctoral Candidate in Aeronautical and Astronautical Engineering)、Michael Smart(クイーンズランド大学 Professor of Hypersonic Aerodynamics)

 宇宙で、大規模な計画が進行中だ。

 投資銀行は小惑星を採掘し、希少価値の高い金属を手に入れたいと考えている。日本は宇宙太陽光発電システム建設を望んでいる。ビリオネアの大物実業家は、地球を周回する軌道上に宇宙旅行者向けのホテルを建設したい。

 我々の目の前で、宇宙ビジネスが右肩上がりに動き始めているのかもしれない。しかし、これまでのところ、これらのアイデアは絵に描いた餅の域を越えられていない。その行く手を阻んでいるのは何なのか?

◆ロケットの再利用
 何よりもまず、宇宙で利益を上げることはむずかしい。地球から宇宙に「物」(貨物、機材そして人)を運ぶプロセスには多くのコストがかかる。これも、我々がロケットのリサイクル方法を知らないからだ。

 60年前、スプートニク打ち上げで宇宙時代が幕を開けて以来、打ち上げられた宇宙船のほとんどは使い捨て型ロケット(ELV)であり、一度飛んだら終わりだ。ペイロード(観測機器など)を運び終えた宇宙船は地球に墜落するか、大気圏で焼失するか、単に「宇宙ゴミ」として軌道上に残るか、のいずれかの運命をたどる。

 新たにペイロードを宇宙へ送る必要性が生まれるたびに、新たなELVを建設しなければならず、それには数百万ドルのコストがかかる。想像してほしい。もし、ウーバー(Uber)の運転手が毎回新しい車を購入しなければならない、となったら、一体いくらかかることになるか!

 ロケットを再利用すれば簡単に解決する、思われるかもしれない。再利用ロケット(RLVs)という考え方は以前からあったが、ロケットの再利用が一筋縄ではいかないことは過去に証明済みだ。

 初めてRLVに挑んだのは、NASAのスペースシャトルプログラムだった。

 そもそもスペースシャトルは、その一部を再利用することで宇宙輸送のコストを削減するためのものだった。しかし、実際はコストを下げるどころか、このプログラムによってさらに経費がかさむことになってしまった。スペースシャトルは複雑でリスクがあるため、維持や運用に高額の費用がかかった。そして、2011年に30カ年プログラムが終了し、RLVの議論も終わったかのように思われるかもしれない。

2003年、ケネディ宇宙センターでメンテナンス中のスペースシャトル、アトランティス。NASA

◆回収とリサイクル
 しかし、RLVを支持する者たちは、そこで引き下がらなかった。

 最後のスペースシャトル打ち上げから数カ月後、テック業界のビリオネア、イーロン・マスク氏が設立したスタートアップ企業のスペースX(SpaceX)は、同社のロケット「ファルコン(Falcon) 9」を再利用可能にする計画を発表した。スペースXは、ロケットの最大にして最も高額な「ブースター部分」を回収し再利用するための作業を開始した。

 その2年後、同社はミッション完了後の使用済みブースターを海に降下させ、回収しようとした。何度か大きな失敗を乗り越えた2015年後半、スペースXは初のブースター回収に成功した。

 その後15カ月間にわたりスペースXはさらに多くのブースターを回収し、中古ロケットの在庫は増えていった。しかし、それでも再利用に至ったロケットはひとつもない。

 状況が変わったのは2017年3月だ。回収されたブースターの1つが改修され、通信衛星の打ち上げに使われたのだ。ロケットが再利用されたのは初めてのことではない。その栄誉は、スペースシャトルプログラムのものだ。しかし、スペースシャトルとの違いは、再使用されたファルコン9のほうが安価だったということだ。

 歴史上初めて、リサイクルロケットがビジネスに使えるという手ごたえを得たのだ。

中型リフトロケットの打ち上げコスト。データ元:米連邦航空局

 再利用されなくても、上記のチャートを見ればファルコン9が、同タイプの中型ロケットよりもずっと安価だということがわかる。再利用が増えればさらに安くなるだろう。

 スペースXの競争力を受けて、一連の開発事業はどのような反応を示しているのか?

 アメリカのロケット業界の重鎮で、ボーイングとロッキード・マーチンの合弁会社であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は、ロケットの再利用計画を発表している。しかし、3月にスペースXの再利用フライトが成功した後になっても、ULAのトリー・ブルーノ最高経営責任者(CEO)はRLVについて懐疑的だ。

 ヨーロッパのロケット会社、アリアンスペース社(Arianespace)は、RLVを完全に無視しているようだ。

◆探求の旅
 ロケット業界の伝統的な企業や団体がRLVを相手にせずとも、再利用性を追求するスペースXが孤軍奮闘するわけではない。

 マスク氏が業界を手中に収めるのを他のビリオネアたちが静観するわけがない。世界第二位の資産家であるジェフ・ベゾス氏は、スペースXのライバル社となるロケット会社、ブルー・オリジン(Blue Origin)のオーナーだ。同社の小型弾道ロケット「ニュー・シェパード」は、2018年にはテストを終え、乗客を乗せて宇宙に飛び立つ予定だ。

 さらにブルー・オリジンはさらに大きな再利用型ロケット「ニューグレン(New Glenn)」を開発中で、将来的にスペースXの直接的な競合相手となり得る。

 ヴァージングループの創設者、リチャード・ブランソン氏もまた旅行客を乗せて弾道飛行を行いたいと考える一人だ。ブランソン氏はバージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)を設立し、再利用可能なスペースプレーン「スペースシップ・ツー(SpaceShipTwo)」で乗客を宇宙に飛ばす予定だ。バージン・ギャラクティックは2018年に就航予定だが、すでに数百人もの搭乗希望者から25万米ドル(約2825万円)もの手付金が集まっている。

 同時に、ビリオネアでなくてもRLVというゲームをプレイできることを証明するため、世界中のグループが動き始めている。イギリスでは、リアクション・エンジンズ(Reaction Engines)社が革新的なSABREハイブリッドエンジンを搭載した再利用可能スペースプレーン「スカイロン(Skylon)」を設計している。

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、再使用可能な観測ロケットの研究をおこなっている。そして、インド宇宙研究機関もまた再使用可能なスペースシャトル型のスペースプレーンのテスト中だ。

 オーストラリアでは、クイーンズランド大学が最先端のスクラムジェットエンジンを使用した小型RLV、「スパルタン(SPARTAN)」を開発している。

 これらの取り組みのうち、一体どこが成功を掴むのか、それは時間がたってみないとわからない。しかし、RLVの勢いが増していることは間違いない。RLVによって宇宙輸送の低コスト化が約束され、宇宙で新しい好機の世界を開くことができる。

 再利用化の時代が始まった。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac