あれ、追っかけてこないじゃんという状況に…

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恐竜の中でもメジャーなのが肉食恐竜のティラノサウルスだろう。「ジュラシックパーク」シリーズを始め、フィクションの世界でもしばしば象徴的なキャラクターとして登場する人気の恐竜だ。

しかし、その知名度とは裏腹に、化石からしか判断できないためにその生態には謎が多い。かつてはゴジラのような直立型だった姿勢が、尻尾を地面に付けず体を水平にしたバランス型となったのも比較的最近だ。

他にも皮膚の色や体毛の有無などさまざまな議論が存在するが、英マンチェスター大学から移動速度に関する新説が、2017年7月18日に発表された。

カーチェイスは無理?

ティラノサウルスの移動速度は歩幅や正確な筋肉量がわかっていないため、複数の説が唱えられている状態だ。現在、有力とされるのは最高で時速50キロ近いとするものだが、他にも30キロ程度だったとするもの、走ることは不可能だったとするもの、長距離移動が得意だったとする主張まで幅広い。

そんな中、「最高で時速20キロ程度」という新説を発表したのは、英マンチェスター大学のウィリアム・セラース教授をはじめとする研究チームだ。

セラース教授らは2007年にもティラノサウスの移動速度を発表している。この時は化石から推測されるティラノサウルスの骨格のコンピュータ・モデルを作成。諸説ある筋肉量や体の動かし方、体重の中間値を入力し、精密な歩行シミュレーションを行った。すると、非常に筋量が多く体重が軽い場合は時速50キロ、体重が重くても時速20〜30キロとする数値が算出されたという。

その後もセラース教授らはこのシミュレーションの検証を続けていたが、ある問題点に気がついた。巨大な生物には加速時間に制限があるという点だ。つまり理論的には時速50キロで走れるだけの筋肉や骨格を持っていることと、実際にその速度に到達することができるかは別の問題になる。

どんな生物でも走り出した瞬間からいきなり時速50キロになるわけではなく、ある程度の加速時間を経て最高速度に達する。体が小さい動物は比較的迅速に加速し理論最大速度に達することができるが、大きい生物では当然加速時間が長くなるという。セラース教授は次のようにコメントしている。

「体のサイズが大きくなれば体重や足の動かし方、空力学的な影響を受け、当然加速時間は長くなります。運動可能なエネルギー量の面から時間制限もあります。再シミュレーションの結果、理論最大速度時速50キロに到達する前にティラノサウルスはエネルギーを使い果たしてしまうことがわかったのです」

また、時速50キロで走るには足の骨の強度が足りないこともわかったという。少なくとも時速50キロ以上で走る車を後ろからティラノサウルスが追いつく、というのは無理があるようだ。

必ずしも足が速い必要はない

ではティラノサウルスは走って他の草食恐竜などを狩ることはなかったのかというと、必ずしもそうとは限らない。セラース教授は今回の数値はティラノサウルスの成人のものであり、比較的体が小さく若い個体の場合は異なると指摘する。

近年ティラノサウルスが家族などを中心に一定の規模の群を形成し、集団で狩りをしていたのではないかとする説も存在しており、例えば比較的足の速い若い個体が獲物を追い込み、大型の成人個体は獲物を仕留める役割を担っていた可能性もあるだろう。

また、大型草食恐竜は時速20〜30キロすら出ない種もいたと考えられ、そもそもティラノサウルスがそれほど高速で走る必要がなかったとも考えられる。

現物を確認することができない以上すべては推測でしかないが、万が一ティラノサウルスに遭遇した場合、車に飛び乗って走り去ることが逃げ切る方法だろう。