<サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国は、カタールに対する国境封鎖を正当化する理由として出稼ぎ労働者に対する人権侵害を批判しているが、呆れて空いた口がふさがらない>

小国カタールをめぐるカタール危機の始まりは6月上旬、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどの湾岸諸国がカタールと断交を発表したことだ。最近はテレビ局や新聞などで政治的な論争が繰り広げられるなど、表立った舌戦へと変化している。

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断交により、それぞれの政府は国民に対しカタールから自国に戻るよう指示しているため、あちこちで家族が引き裂かれ、学生は学業を断念せざるをえなくなっている。こうした状況は人権侵害に当たるとして、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は非難している。

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カタール危機が生んだ最も顕著な変化の1つは、湾岸諸国の政府が突如として、カタールで働く出稼ぎ労働者の待遇に関心を示し始めたことだ。

カタールでは2022年に開催されるサッカー・ワールドカップ(W杯)の準備が数年前から進んできたが、出稼ぎ労働者の苦境を訴えてきたのはNGOや労働組合くらいだった。今、周辺国が政治的に対立するカタールへの新たな攻撃材料を探し求める中、カタールが抱える出稼ぎ労働者の人権問題が有効な手段として浮上している。

「カタールはいまだに沈黙、W杯スタジアムでのイギリス人労働者の死亡を受けて」という見出しの記事を6月に公表したのは、UAEに本部がありサウジアラビア政府が出資する中東の衛星放送アルアラビーヤだ。バーレーンのニュース局も7月、カタールが「すべての労働者の年次休暇」を撤回したと報じ、アメリカに本部を置くサウジアラビア・アメリカ広報委員会の公聴会では「建設現場の労働者を対象にしたカタールの現代の奴隷制度」が強調されたと伝えた。

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自国を棚に上げる湾岸諸国

カタールの出稼ぎ労働者の苦境を批判する湾岸諸国の政府やメディアの態度は、空いた口が塞がらないほど偽善的だ。忘れてはならない。UAEは、出稼ぎ労働者の労働環境の劣悪さが「世界的なスキャンダル」だと国際労働組合総連合(ITUC)に酷評された国だ。サウジアラビアでは昨年、数万人のアジアからの出稼ぎ労働者が賃金未払いで身動きが取れなくなる問題が多発した。インド政府は食料を空輸したり、出稼ぎ労働者の旅費を負担して飛行機で帰国させるなど、まるで災害救助さながらの対応を求められた。バーレーンは、労働法違反事例の捜査や訴追に向けた取り組みが「最低レベル」だと、米国務省が最近発表した報告書の中で批判された。

過酷さのレベルは国によって異なるにせよ、湾岸諸国に「カファラ」という雇用主が出稼ぎ労働者を支配する労働契約制度が存在する以上、労働者に対する劣悪な待遇はカタールだけの問題ではない。今回の危機ではサウジアラビアが事前の連絡もなく突然カタールとの国境を遮断したため、サウジアラビアで足止めされたカタールの雇用主からと連絡が取れない出稼ぎ労働者たちは、不安のただ中に置かれている。

ジェームズ・リンチ