臨時閣議に臨む安倍晋三首相(中央)ら=8月3日、首相官邸(写真=時事通信フォト)

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8月3日、安倍晋三首相は内閣改造を行った。だが、閣僚の一新で、はたして支持率が上向くだろうか。安倍政権の支持を支えていたのは「経済」の力強さとの声は根強い。行き詰まる「アベノミクス」をどう押し進めようとしているのか。そのヒントが田原総一朗氏の「進言」に隠されている――。

■8%から5%への「引き下げ」

7月28日、安倍首相と昼食を共にしたジャーナリストの田原総一朗氏が、安倍首相に対して「政治生命をかけた冒険をしないか」と進言したことが話題になっている。「政治生命をかけた冒険」とは一体何なのか? 田原氏は複数のメディアに登場して、会談の事実を認めているが、「解散総選挙や内閣改造人事ではない」としながら、進言の具体的な内容については一切明かしていない。その一方で、田原氏はヒントとして、「日本の政治家で安倍首相にしかできないこと。自民党や民進党の一部は反対するかもしれないが、基本的に民進党も共産党も小沢一郎氏も反対しないもの」と説明している。

これらのヒントに当てはまるものは何か? これまでの安倍政権のあゆみを踏まえ、筆者は「消費税率の8%から5%への引き下げ」と推測している。これは、2013年秋、安倍首相が消費税率の5%から8%への引き上げを決断した時の事情を思い返せば、容易に推測がつく。

その当時、筆者はみんなの党代表の渡辺喜美衆議院議員(当時)の政策担当秘書の任にあり、党代表の国会対応、政策対応からメディア対応を担っていた。みんなの党は消費税増税に一貫して反対していたが、その理由は、増税は景気を腰折れさせるのみならず、デフレからの脱却を遠のかせることになる、というものであった。そして、行政改革などによる無駄の排除や成長戦略の着実な実施によって経済成長を後押しし、税収を増加させる。そうすればプライマリーバランスは改善し、消費税増税は必要ないという考えであった。

この考え方は、安倍政権の経済政策である「アベノミクス」の基本的な考え方と同じである。要は、アベノミクスを進めていけば消費税増税は必要なくなる。そして、実は本心では安倍首相も5%から8%への引き上げを実施したくなかったようだった。だが、霞が関、特に財務省からの強い抵抗により、安倍首相は渋々引き上げを決断してしまった。

■消費増税で景気や消費は低迷した

さて、この時に、みんなの党は単に増税反対を唱えるのみならず、実際に増税してしまった場合のマイナスの影響の回避・緩和策も主張していた。具体的には、所得税率引き下げ等により増税額と同額の減税を行うことや、8%に引き上げ後に3ポイント引き下げることだ。要するに実質的に増税を凍結するか、増税したとしてもその分を別の税の減税によって国民に還元せよ、ということである。無論これは当時の安倍政権に受け入れられることはなく、翌2014年4月に消費税率は8%に引き上げられた。

それ以降、景気や消費は明らかに低迷した。例えば、家計の消費支出は、2014年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要で3月に一時的に大幅に増加したものの、それ以降は、ボーナス支給月等の一時的な増加を除き、対前年同月比でマイナス傾向が続いている。「プレミアムフライデー」のようなキャンペーンをやったところで消費が一気に増加するわけもなく、焼け石に水である。

景気や消費を刺激するには、抜本的な措置が必要になる。それが、かつてみんなの党が提唱し、取り沙汰された「消費税率の引き下げ」である。2014年当時、安倍政権はこの案を受け入れることはなかったが、状況は変化している。

この「消費税率の引き下げ」の理論的な根拠は、経済学者の高橋洋一氏が打ち出しているものだ。簡単に言えば、消費税を引き下げて経済成長を後押しすれば、プライマリーバランスが改善し、消費税を引き上げる必要性もなくなるというもの。高橋氏は、みんなの党のブレーンを務めただけでなく、2006年から08年まで第一次安倍政権で内閣参事官を務めている。また、第二次安倍政権になって以降も、経済・財政政策に関連して数々の助言を行っているようであり、高橋氏のアイデアを、安倍首相が検討する可能性は十分にあるはずだ。

■「政治生命をかけた冒険」に出るか

そして、野党のなかでも、消費税率の引き下げに反対する勢力は少数派だ。反対するのは民進党の一部にとどまり、それは党の半数にも満たないだろう。「引き下げ」は内閣総理大臣にしかできない決断である。まさに田原氏のヒントに当てはまる。

この筆者の推測が本当だとすれば、財務省は「安倍降ろし」に動くだろう。ここが「政治生命をかけた」というところだ。この「冒険」は、下手をすれば政権の命取りになる。

消費税率の引き下げは、国民の消費を喚起するだろう。それは公共事業への財政支出よりも効果の大きい景気対策になりうる。前年比上昇率2%という「物価安定の目標」の達成にもつながるはずだ。もしそうなれば、アベノミクスの行き詰まりを打開することになる、そう安倍政権が考えてもおかしな話ではない。

しかし「消費減税」に踏み切ったとしても、目論見通りにいくとは限らない。これのみをもって、マクロ経済の先行きを見通すのは難しいからだ。経済で結果を出し、支持率の大幅回復につなげるために、安倍首相は「政治生命をかけた冒険」に出るだろうか。内閣改造の「次の一手」に注目が集まる。

(政策コンサルタント 室伏 謙一 写真=時事通信フォト)