Performers smeared with clay demonstrate during the art action "1000 Gestalten" on July 5, 2017 on a street in Hamburg, northern Germany, where leaders of the world's top economies will gather for a G20 summit./


 私は企業の経営を心理的側面から分析して経営改善を行う経営心理士として、経営コンサルティングを行っている。その中で多くの経営者から、「若手社員は欲がなく、強いやる気が感じられない。どうやって彼らの心に火をつけたらいいのかが分からない」という相談が寄せられる。

 こういったこともあり、私は20代の人たちに会うと、給料や出世についてどのように考えているかについて聞くようにしている。

 また、大学で講演をさせていただくこともあり、講演後は学生との懇親の場を設けてもらうようにしているが、そこでも同様のことを聞いている。

 その答えとして大勢を占めるのが、「そんなに稼ぎたいとも思わないし、出世したいとも思わない」という答えである。

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稼ぎたい、出世したい人は少数派に

 もちろん中には「バリバリ稼ぎたいし、出世もしたい」と答える人もいるが、その意見は少数と言わざるを得ない。

 そのため、大学生や20代の社会人に関して言えば、稼ぎたい、出世したいという欲は決して強くはないと感じている。

 この世代の人たちの多くは1990年代生まれとなるが、この世代の人たちのことを「さとり世代」と呼んだりもする。さとり世代の特徴として一般的に「欲がない」や「恋愛に興味がない」といったことが挙げられている。

 では、そのことをもって「彼らは欲がない」と言い切っていいのかというと、私は決してそうは思わない。私は彼らとのやり取りの中で、物欲や出世欲以外の欲を持っていると感じている。

 それは「人や社会の役に立つ仕事をしたい」という欲である。

 こういう言葉を聞くと、「綺麗ごと」のように感じるかもしれないが、この世代の人たちはそれを単なる「綺麗ごと」とは捉えない純粋さのようなものを感じる。

 貢献感という言葉がある。

 これは他者や社会のためになることをすることで得られるものである。人間はこの貢献感を感じることで、自分の存在意義を感じるという性質を持っている。

 いくらお金はあっても、人の役に立っている、社会の役に立っているという感覚が得られなければ自らに価値を感じることは難しくなり、時に精神を病むこともある。

 そのため、人間は人や社会の役に立ちたいという欲求を持っている。これを貢献欲求と呼んでいる。

知名度や給与よりCSR

 自分がいい思いをしたいという私欲よりも、貢献欲求に関心がある。さとり世代の人たちにはそういった傾向があるように思う。知り合いの採用コンサルタントの人からこんな話を聞いた。

 「今の若い人たちを採用しようと思ったら、給料の良さや会社の知名度をアピールするような戦略はもう古い。今はそれだけじゃなくて、自社の仕事がどのように社会の役に立っているか、そういったCSRの要素を入れることは必須です」

 冒頭の「若手社員は欲がなく、強いやる気が感じられない。どうやって彼らの心に火をつけたらいいのかが分からない」という相談に対して、効果的な提案をすることは決して簡単なことではない。

 ただ、1つの切り口としては貢献欲求を満たす関わりをするという方法がある。例えば、今やってもらっている仕事の社会的意義を伝える。

 社会的意義を伝えるというと難しそうに聞こえるかもしれないが、お客様からの感謝の声、喜びの声を伝えるという方法でも社会的意義を感じてもらうことはできる。

 「君が作ってくれた資料をお客様に渡したら、分かりやすいと喜んでいたよ」

 「昨日、お客様と飲みに行ったんだけど、お客様が君の対応はいつも素晴らしいと喜んでいたよ」

 そんなふうにお客様が若手社員の仕事ぶりに対して喜んでくれている事実を知ったならば、そのことを伝える。それは貢献欲求を満たすための重要なコミュニケーションとなる。これは多くのクライアントで効果が出ている方法である。

 勤務態度が悪い、あまりやる気が感じられない。

 そんな若手社員に悩んでいた社長や管理職の方にお客様からの感謝の声、喜びの声を伝えてもらうようにしたところ、「若手社員がとても嬉しそうな反応を示したので驚いた」、「それ以降、勤務態度や仕事ぶりに変化が見られた」。そんな報告をいくつも受けている。

 また、お客様に対して何かをするといった仕事をしていなければ、社内の人間からの感謝の声を伝えるのでもいい。

横並びを好む傾向も顕著に

 「あなたの仕事は誰かの役に立っている」「あなたの仕事で誰かが喜んでいる」

 そんなメッセージを伝えることが若手社員の貢献欲求を満たし、やる気を刺激するきっかけになる。

 また、出る杭になりたくない、皆と横並びでいたいという価値観を持っているのもこの世代の特徴である。

 出世したいと思わないという理由も、出世することによって責任を負わされるのが嫌だという答えと、出る杭になって打たれたくないという答えが多数を占める。

 出る杭になりたくないという意識が強い背景には、学生時代から友人間でSNSを使用してきた経緯があり、出る杭はSNSで叩かれるというリスクを感じてきたことも一因として挙げられている。

 売り上げと給料が比例する完全歩合制のある会社では、各営業パーソンの営業成績が社内に貼り出され、入社2年目の社員が社内でトップの成績を取り続けるようになった。その成績は月に100万円以上の給料を得るほどの成績であった。

 ある時、その営業パーソンが社長に相談があると申し出てきた。

 何の相談かと話を聞くと、「営業の仕事は楽しいんですが、自分は出る杭になりたくないんです。自分は他の人よりもたくさんの給料をもらっていますが、周りからそう見られるのがつらくて仕事がしづらいんです」とのことだった。

 それで社長が「じゃ、君だけ固定給にすれば仕事がしやすくなるか?」と聞いたら、「えっ!いいんですか!?」と喜んでいたという。

 そこで固定給にするとやる気が半減するのではないかと心配しながらも月40万円の固定給にすると、以前にも増して営業を頑張るようになったという。

出世しないため手柄を同僚のものに

 嘘のような本当の話であるが、これに似たような話はほかにも聞く。知り合いの社長の会社では、ある若手社員が出世したくないからと、自分の営業成績を同僚の手柄にしているという不正が発覚したという。

 これを不正というのも違和感があるが、そういった行動を取る背景には、仕事は面白いから頑張るけれども、出る杭にはなりたくないという思いが存在している。

 40代以上の世代の人たちからすると全く理解できないと思われるかもしれないが、彼らにとっては切実な悩みなのである。

 また、物を所有することに対する欲よりも、心を動かす体験や思い出に対する欲の方が強く見受けられる。

 知り合いの大学講師が学生を対象に、「クリスマスに欲しいものは何か?」というアンケートを取ったところ、「彼女の手料理」「彼氏、彼女からの想いのこもったものであれば何でもいい」「彼氏・彼女との楽しい時間」といった答えが多く、具体的な物を書いた答えは少数だったという。

 この世代について書いた書籍や記事を見ていても、こういった記述が見られる。これらのことを総合的に見てみると、「お金よりもハート、出世よりも居心地のよさ」、といった価値観が彼らの中には根づいているように感じる。

 ただ「欲がない、やる気がない」と嘆くだけではなく、彼らのそういった背景と価値観を理解し、ハートを揺さぶる関わり方、居心地のよい職場環境の提供を模索することが、若手世代とうまく付き合うために求められることではないだろうか。

筆者:藤田 耕司