ノールック気味でしたけど、久保選手とは普段のトレーニングから感覚を共有できている部分が多いですからね。パスを出したら、『得点を奪ってくれるだろう』という期待に応えて、素晴らしいゴールを決めてくれた。僕に1アシストを付けてくれて感謝しています」
 
 小林は謙虚に、照れ臭そうに笑った。
 時計の針は83分を指していた。静寂がスタジアムを包み込む。ペナルティスポットに置かれたボールを挟んで、小林と相手GKの河畑光が対峙していた。
 
 このPKを決めることは、トドメとほぼ同義。逆に止められでもしたら、後半から攻勢に出ていた浦和ユースの反撃の炎に油を注ぎかねない。天国か、地獄か。確実に決勝戦のターニングポイントのひとつだった。
 
 その場面で、小林がキッカーとして立っていた理由は簡単だった。「自分のクロスがハンドを誘ったので蹴る権利があるかな、と」。ボールが近くにあり、拾ってそのまま向かった。この時、「変なことを特に何も考えずにいられた」という。本人の言葉を続けよう。
 
「ボールをセットした時には『右に蹴ろう』と。ゴール裏を見れば、たくさんのサポーターがいる。なので、自分の考えていた方向へ思い切り蹴れば入るんじゃないかなと。いろんな人の想いを乗せて打ったシュートですから」
 
 チョン、チョンと左にステップしてから助走を始める。そしてボールを蹴り込む。ゴールネットが揺れた。ガッツポーズをひとつ入れると、ゴール裏に向けて人差し指を向けてアピールした。
 
「ここまで決定的なチャンスを外していましたから、ホッとしました」
 
 小林は88分にピッチをあとにしている。交代した小林真鷹、そして戦う仲間たちに闘志は託してきた。そして、タイムアップ。ひとまず、昨年のベンチ外選手が抱いた野望は結実した。
 
「佐藤(一樹)監督には『決めるのが遅いな』って終了後に言われたんですけど、決め切れない自分を最終盤まで使ってくれたことに感謝しています。まだまだ監督の求めているレベルには達していないと思うんで、もっと頑張らないといけませんね。
 
 チームとしては、昨年の先輩方が成し遂げられなかった3冠(高円宮杯U-18プレミアリーグ、Jユースカップ)を目指したい。個人としては、J3(FC東京U-23)やこのチームのどちらでもプレーすることになると思いますが、与えられた場所で常に100パーセントを出すだけです」
 
 小林の終着駅は遥か彼方だ。道程はきっと険しく、一筋縄ではいかない困難にぶつかることも多々あるだろう。それでも、負けずに突き進んでほしい。「結果にこだわりたいです」。最後にそう残した男がスケールアップする姿を、また見せてもらえることを願っている。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)

【日本クラブユース選手権決勝PHOTO】久保の決勝ゴールでFC東京U-18が2連覇!