写真:中西祐介/アフロ

 終身雇用から転職の時代へ。とはいえ二の足を踏む人も多い。40歳にして9回仕事を替えた男が語る転職とは?

 先入観かもしれないが、IT関係の仕事に就く人には転職をする人が多い。

「転職回数はこれまでで9回。これだけの回数になると、もう空気を吸うように転職できますね」

 欧米人並みの太い声で笑うのは武田哲也さん(40)だ。
 大学卒業後は就職活動をせず、フリーのデザイナーとしてキャリアをスタート。節目、節目でフリーに戻りつつ、ベンチャー企業を中心に経験を積んだ。そのなかには「有線ブロードネットワークス」や、後の「ライブドア」になる「オン・ザ・エッヂ」といった時代の脚光を浴びた企業もあり、また起業の経験もある。

 事件後のライブドアでは事業再生の一翼を担い、さらに外資系出版社を経て現職へと転身した。「メインのスキルがITなので、どうしてもその関係の会社が多くなる」ということだが、2014年に執行役員として入った「エイド・ディーシーシー」では経営企画の重責を担っている。

「キャリアのスタートにコンピュータを使う仕事を選んだのは、人と接するのがとにかく苦手で、意思疎通を図ることがなにより難しいと思っていたからです。それに対しコンピュータは融通がきかないけれど、とりあえず自分が命令したとおりに動く。自分が間違っていなければ間違うことがありません。

 転職の理由は、若いころはネガティブな面で人との問題、ポジティブな面ではスキルとキャリアを考えてというのが多かった。転職するとだいたいゼロからのスタートになります。使える能力は減らないが、結局会社の中で物事を進めていくときには、ほぼ100パーセント人間関係が出てきます。

 私は、今ではアウェーが得意ですが、 人間関係が常にゼロに戻るので、腕に自信がないとパフォーマンスを出すのは難しいかもしれませんね」

 9回の転職で武田さんが転機だと思ったのは2回だ。1回めは「サムライワークス」という会社を5人で立ち上げ、クリエイターとして自分が一番の会社を作るつもりでいたとき。

 創業して1年ほどで、自分と同じクリエイティブの方向性を持った優秀な若者が入ってきた。この時点で、この若者と戦っても勝てないし、彼や多くの若手の成長につながることが結局会社や自分の未来のためになると思い、企画提案やディレクションにキャリアを変えていった。会社の経営へと視点が移っていったのが26歳のときで、これが現在につながっている。

 2回めは「VOGUE JAPAN」などを出版している「コンデナスト・ジャパン」という外資系出版社への転職だ。3度めのフリーランスに戻って半年ほどたった矢先、東日本大震災が発生。当時クライアントだった同社の社員への対応が素晴らしかった。グローバル企業ならではの対応力で、社員や仕事関係者の安全を確保するために手を尽くす企業姿勢に心を打たれ、数カ月後には同社に籍を置くことを決めた。

 ここでもキャリアが変わり、テクニカルディレクター。日本の技術領域のトップとして各国支社の同じ序列の人間とやり合った。これがとても大きな刺激になった。

「手がけたのはデジタル技術、電子出版と印刷出版の継ぎ目をなくし、無駄を省くためのシステムの刷新、ウェブ関連、スマートフォンのサイト制作。多くの部下も抱えることになりました」

 仕事が認められた武田さんは2012年、2013年の2年連続で、同社の世界の全社員から選ばれるベストパフォーマーに選出された。

「基本的に管理職以上は毎日無理ゲー(苛酷な条件設定のためクリアが非常に困難なゲーム)。40歳を過ぎれば立場的に無理ゲーが始まる段階。無理な力がかかればかかるほど、それを超えるときは新しい力が身につく。ゲームと一緒で敵を倒せばさらに強い敵が出てくる。これの繰り返し。いつこの状態を経験しておくかは大事だと思う。私の場合は若いときにものすごい大きさの失敗を経験し、大変でした。でもその程度では人は死なない。そんな失敗を二度としないように力をつけてきました」

 仮に60歳定年とすると武田さんにはまだ20年あり、これまでのキャリアよりも長い。

「これからは経営に近いことをやっていくと思う。起業や社長をするかもしれない。自分がいる場所で、しっかりとパフォーマンスができるようにしてきたことで今の自分がある。だから、あせって何かをしなければとか、何かをしないようにとは思わないようにしています」

 仕事人間だった武田さんが30歳過ぎに見つけた趣味が、ハウスミュージックのDJだ。月一回ほどのペースで、馴染みのレストランでイベントをおこなっている。仕事仲間やクライアントも来るから仕事の延長でもある。曲と曲を絶妙のタイミングでつないでいくDJのように、キャリアをどのように次につなぐのか、またITの新しいテクノロジーの波を乗り切るのか、お手並み拝見だ。
(週刊FLASH 2017年8月8日号)