『わにとかげぎす』TBS

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 水曜深夜に放送されている『わにとかげぎす』(TBS系)が面白い。

 深夜のスーパーマーケットで働く38歳の富岡ゆうじ(有田哲平)は、孤独な日々に不安を覚えて、流れ星に「友達をください」と願う。そんな富岡の元に同じアパートで暮らす美女・羽田梓(本田翼)が現れ、富岡の人生は一変していく。

 本作は、90年代に大ヒットしたギャグ漫画『行け!稲中卓球部』や暗黒青春漫画『ヒミズ』の作者として知られる古谷実の同名漫画をドラマ化したものだ。

 古谷はコメディとシリアスの間を横断することで、哲学的な要素を描く漫画家だ。この『わにとかげぎす』も、笑いの中に怖さが、怖さの中に笑いがあり、その往復によって人生の深淵を表現している。

 染谷将太と二階堂ふみの荒々しいぶつかり合いと、物語を震災直後に変更して被災地の風景を取り込んだ園子温監督の『ヒミズ』や、森田剛が演じる連続殺人鬼の怪演が話題となった吉田恵輔監督の『ヒメアノ〜ル』など、近年、古谷作品の映像化は増えているが、傑作が多い。

 どの作品も漫画のビジュアルやストーリーを単純になぞるのではなく、原作の良さを残した上で、現代の物語に脚色している。そして、役者の魅力を最大限引き出し、実写映像ならではの面白さを生むことに成功している。

 本作も、放送前は、くりぃむしちゅーの有田哲平が主演とあって、イメージが違うのではないかと不安だったが、思った以上にハマっている。

 水曜日のカンパネラのコムアイや、ラッパーのDOTAMAなど、普通のドラマでは見られないユニークなキャスティングも功を奏している。中でも一番健闘しているのは、羽田梓を演じている本田翼だろう。

 本田が演じる羽田はモデル体形の美女でありながら、38歳のさえない中年男性の富岡のことを好きになり、ストーカーみたいにつきまとう。

 古谷の漫画には、不細工でさえない男のことを無条件に好きになってくれる女性が必ず登場する。その多くは、スタイルの良いモデル系の美人なのだが、本田は古谷のヒロインそのものだといえる。

 羽田は、トランプに描かれたジョーカーのイラストのおじさんが初恋の人で、富岡のことも顔が理由で惚れたのだが、クールなたたずまいで富岡につきまといながら、そんな自分の変態性に恥じらいを感じている。恋愛となると必要以上に照れて狼狽するのは古谷作品の特徴で、それはどんな美女でも例外ではない。羽田も富岡を前にするとデレデレで、クールな外見とのギャップがすさまじくカワイイ。
 
 モデル出身の美女がテレビドラマや映画に出演すると、演技がヘタとか棒読みとかボロクソに言われる。「non-no」(集英社)の専属モデルとして活躍する本田も例外ではない。個人的にはそんなに悪いとは思わなかったが、2年前に主演を務めた月9の恋愛ドラマ『恋仲』(フジテレビ系)での演技も、散々な言われようだった。

 おそらくこれは本田やモデル出身の女優の問題というよりは、そういうモデル系のクールな美女を生身の人間としてちゃんと描ける作家が、極端に少ないことが問題なのだろう。決して彼女たちの責任ではない。
 
 そんな中、『わにとかげぎす』は、本田の魅力をこれ以上ない形で魅力的な人間として描き出している。第3話では、彼女が富岡に、かつての彼氏に、隠しカメラでトイレ姿を盗撮されて、動画をネットに流出させられたという悲しい過去を告白。「汚れてますよね。終わってますよね、私。変態ですよね」と言いながら、なげやりに笑う表情はとても素晴らしかった。

 ともすれば、男に都合のいい記号的な美女になりかねないが、きちんと生活感のある、一人の人間として描かれているのだ。

 もちろん、ビジュアルの見せ方も完璧で、長い脚を惜しみなく披露している。

 劇中ではショートパンツのボタンが外れて下着が少しだけ見えているカットが何度か入るのだが、はっきり言ってナマ脚のほうが100倍エロい。「本田翼といえばナマ脚」というイメージは、本作で決定付けられたと言っても過言ではない。おそらく本田にとっては、女優としての転機となることは間違いないだろう。
(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。