ご近所トラブルに多いのが、ペットの糞尿。

犬の場合だとマーキングのために、近隣の電柱や塀などを尿で汚してしまいがち。

「縄張りを主張するための本能だから仕方がない」という考えもある一方、「さすがに、それはどうかと思う」という事例もあります。

飼い主がマナーを忘れる?

トラブルは知らない間に発生していた

「犬のおしっこで近隣住民とトラブルがあった」と語るのは、大学に通うある女性。

一軒家に家族と住んでいる女性はある日、玄関の階段から駐車場の中にまで、白い粒がまかれていることに気が付きます。

家族に尋ねてみると、「近所の犬が、我が家にマーキングをするようになった」とのこと。

女性は、玄関前にマーキングされたのだろうと思ったのですが、母親の口から語られたのは意外な事実でした。

「うちの駐車場の一番奥まで入って来てマーキングさせている、『おじいさん』がいるのよ」

これには、女性もびっくり。

なぜなら、女性の住んでいる一軒家は、1階部分が「ピロティ」と呼ばれるタイプの駐車場。

複数人で使用する「月極駐車場」ではありません。

1階部分の片側が玄関で、もう一方の空間に、道路側に頭を向けた状態で車を止めていました。

車の前に柵を設置していないとはいえ、『家の下にある駐車場』なのですから、個人の敷地なのは分かります。

また、普段は車と自転車が止まっています。駐車場の奥まで入るには、1人分の狭い隙間をすり抜ける必要があります。

そこまでして、奥へ入っているのでしょうか。

「お父さんが車を使って駐車場が空いている時、奥に入るみたいなの。車があって、駐車場の奥に入れない時はポストの柱にするんだけど」

どうやら、女性の家は2か所にマーキングされているらしいのです。

駐車場の壁を見に行ってみると、コンクリートに水が散ったようなシミができていました。

家に長い時間いて、玄関周りを整えていた女性の母親は、すぐに異変に気が付きました。母親によると、飼い主が犬を連れて、駐車場の奥に入り込んでいるのを注意したことがあったそうです。

けれども、「犬が行きたがるんだからしかたがないだろう」などと文句をいって歩いて行ってしまったとのこと。

「注意してもまだ犬にマーキングさせるから、しょうがなく犬除けの薬をまいたの」

本来は、動物が大好きな一家。

しかし、犬の嫌がる臭いがする薬をまくことに。

申し訳なさそうな態度で謝られていたら、また違ったのかもしれませんが、悲しい対処方法を採らざるをえなくなりました。

昔はいい人そうだった『おじいさん』

女性は、犬の特徴を聞いて「あの家の犬と『おじいさん』だ」と、すぐ分かったといいます。

斜め数軒先の一軒家に、その『おじいさん』とおばあさんは住んでいました。

女性は、小学生のころ『おじいさん』と少しだけ話したことがあります。

友だちと遊び道具を持って公園を目指している時、テニスボールが落ちて、門の間をくぐって『おじいさん』の庭に入ってしまったのです。

庭にいた犬は大喜びしてテニスボールに飛びつき、一人遊びを初めてしまいます。とてもテニスボールを取り返せそうにありません。

そこで、恐る恐るチャイムを押して、『おじいさん』にことの次第を説明します。

すると、出てきた『おじいさん』が犬をなでて、笑いながらテニスボールを返してくれました。

女性は、目を輝かせて走り回る犬に申し訳なく、数回、犬にテニスボールを投げて遊んでやってから持って帰りました。

たったこれだけの交流でしたが、女性は「頑固で悪い人のようには見えなかった」といいます。

「私は大学生になって、容姿もずいぶん変わってしまった。それでも、『おじいさん』と話してみようか」と思ったそう。

でも女性は、遠目で『おじいさん』と犬が散歩しているのを見た時、「これは話し合いにならないかもしれない」と感じました。

『おじいさん』は犬と自分だけの閉じた世界にいるように見えたのです。

『おじいさん』の家に変化が

それからしばらく、『おじいさん』と犬の散歩は、女性の家をマーキング場所にしていました。犬除けの薬も効果がありません。

しかし、変化が訪れます。

『おじいさん』の家が建て替えられたのです。

どうやら『おじいさん』の息子夫婦が、高齢となった両親のことを思って同居することになったようなのです。

キレイになった家で、息子夫婦と、その子どもと暮らし始めて、『おじいさん』の表情にも変化がありました。

暗く固まった顔が、柔らかくなっていました。目にも生気がみなぎっています。

『おじいさん』は、犬がマナー違反な場所にマーキングしそうになると、きちんとコントロールをして、近所トラブルを作らないようになりました。

犬が高齢で歩けなくなったころからは、新築の家のベランダで、芝生と洗濯物を眺めながら1人と1匹でのんびりするようになったそうです。

『おじいさん』は、なぜマナー違反をするように?

女性は、『おじいさん』を見ていて、こう思ったのだそう。

「寂しさが、人に身の振りかたを忘れさせていくのではないか」

近所トラブルを発生させる人は、何かしら心に問題を抱えているのではないでしょうか。寂しさのほかに、悲しさ、怒りなど、人の心を荒れさせる感情が芽生えるような環境があると、人は自分の世界に閉じこもってしまいます。

自分の世界に閉じこもってしまった人が、再び「良好な人間関係を構築していこう」と思えるようになるのは、大切にしたい人ができた時。

『おじいさん』は、息子が結婚して家を出てから、犬に話しかける日々を送っていたと想像できます。

寂しさを埋めるように、やがて犬優先の生活となって、人の目線が気にならなくなってしまいます。

『犬の自由を奪う人は敵』という感情も芽生えていたかもしれません。

しかし、『おじいさん』は息子夫婦と暮らすようになってから、「息子夫婦の評判を落とすようなことをしてはいけない」と思ったのでしょう。

「自分は近所からどう見られているか」「社会の一員として、守らなければならないことは何か」などを、考えて行動することを思い出します。

大切な人の存在が、『おじいさん』に変化をもたらしたのです。

トラブルが起こっている時、もしかしたら原因は『その人の置かれている環境』かもしれません。

迷惑な行為はやめてほしいもの。でも、注意しただけでは聞き入れてもらえないことがあります。

そんな時、「この人は常識がないんだ」と決めつける前に、「この人をそうさせる環境があるのかもしれない」と考えることも大切なのでしょう。

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[文・構成/grape編集部]