ソウル市内に設置された慰安婦像(写真/AFLO)

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 かの国の国語辞典には「約束」という言葉がないのだろう──。韓国メディアは7月24日、康京和外相が朴槿恵政権時(2015年)に「最終的かつ不可逆的に解決」したはずだった慰安婦問題の「日韓合意」の見直しを表明したと報じた。文在寅政権になった途端のちゃぶ台返しだ。それと軌を一にするように、新たな“反日モニュメント”がつくられようとしている。ジャーナリストの竹中明洋氏がレポートする。

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「日本が過ちを認めない現実を変えるために像を設置します」

 7月20日、韓国南部の済州島で地元市民団体が記者会見を開いた。今年10月、済州市にある日本総領事館前に強制徴用労働者(徴用工)の像を設置すると発表したのだ。

 戦時中、多くの韓国人徴用工が日本本土の炭坑や工場などで労働に従事した。韓国では徴用工は強制連行されて過酷な労働を強いられたとされており、損害賠償や未払い賃金を求めて日本企業を相手取り訴訟を起こすケースが相次いでいる。

 設置されれば、外国公館の保護を求めるウィーン条約に抵触し、日韓関係の新たな火ダネとなることは必至だ。これは一団体の暴走ではない。設置計画は他にもある。

◆安倍人形を“連行”

 活動の先鞭をつけたのは、韓国の2大労働組合である全国民主労働組合総連盟(民主労総)と韓国労働組合総連盟(韓国労総)が中心をなす「強制徴用労働者像建設推進委員会」だ。

 韓国の独立記念日である3月1日、ソウル市内のターミナル駅の一つ、龍山駅前の広場に徴用工像を設置するというものだった。が、この時は広場を管轄する韓国政府が許可を出さなかった。

 この時、私はソウルに飛び、民主労総の統一局長である嚴美京(オム・ミキョン)氏を直撃した。

「韓国政府の判断は誤りです。日帝時代の歴史には事実が解明されないままとなっているものがあり、強制徴用の問題はそのひとつなのです。この問題の清算のために私たちは日本による真心のある謝罪を求めています。そのため、8月15日の光復節(韓国の終戦記念日)にもう一度、龍山駅前に像を設置するつもりです」

 嚴氏は続けて「真相が究明されれば賠償も求めていく」とも語った。

 さらに徴用工とその遺族らが作る「日帝強占期被害者全国連合会」も同様の動きを見せていた。4月末に8月の光復節に向けて、ソウルの日本大使館前に徴用工像を設置することを発表。すでに設置されている慰安婦像と並ぶことになる。先の推進委とは目的が異なると、事務総長の張徳煥氏は語る。

「我々は未払い賃金を受け取りたい、それだけです。補償金や慰労金などは求めていない」

 そう“正当性”を主張するが、行動は推進委より強硬だ。徴用工への未払い賃金の支払いに応じない日本の「戦犯企業」のうち、韓国国内に拠点を持つ企業には、数百人規模でデモ活動を行なっている。

 その場では、安倍首相をかたどった人形の首に縄を括り付けるなどの過激なパフォーマンスが行なわれていた。

◆「大統領は動いてくれる」

 彼らの計画通りなら8月中に像が相次いで韓国各地に設置される予定だが、現地を取材すると、自治体からの許可が下りなかったり、像の制作の遅延などで、スケジュール通りには進んでいないことが分かった。

 それにしても、なぜここにきて彼らの活動が活発化しているのか。5月に就任した文在寅大統領は、労働組合を有力な支持母体としている。徴用工像設置を目指す団体はほとんどが労組が中心となって組織されている。とくに韓国二大労組を母体とする推進委の活動は無下にできないだろうと見られており、一方の連合会の張氏もこう言う。

「先の大統領選で我々は徹底的に文氏を支持した。文氏もきっと我々のために積極的に動いてくれるはず。もし政府が像の設置に許可を出さなければ、デモなどの実力行使も辞さない」

 文政権の“支援”を確信する言い方だった。だが徴用工問題にしても慰安婦問題と同じく日本が対応する道理はない。

 1965年の国交正常化に合わせて締結された日韓請求権協定では、日本が韓国に無償3億ドル、有償2億ドルを供与することにより、「両締結国及び国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」とされており、外交的なルールにおいて問題は明白に解決済みとの立場だ。

 しかし、こうした約束を何度も反故にしてきたのが韓国外交の“交渉術”である。日韓問題に詳しい神戸大学大学院教授の木村幹氏はこう語る。

「慰安婦像問題が典型的ですが、韓国では像建設は“ビジネスモデル”になっています。一体建てるだけで日本政府が騒ぎ、それにより韓国政府もリアクションを取り、圧力団体が存在感を増していく。外国公館の前に建てるのであれば、『韓国政府はウィーン条約を守る義務がある』と粛々と冷静に対応するしかない」

 その世界共通の「道理」が通じないところが何とも厄介である。

※週刊ポスト2017年8月11日号