「パワハラ降格」の店長が復活できたワケ

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ヘッドハンターがターゲットにするのはある種のエリートに限られるわけではない。倒産した会社にいた人、企業合併などでやむなく退職した人……。本来のポテンシャルを発揮できずにいる人も少なくない。そんな原石のような人材を発掘することも私たちサーチ型ヘッドハンターの仕事である。

■会社を“看取る”腹の座った責任感

皆さんは、私たちヘッドハンターがターゲットとするのは、企業においてそれなりのポジションにいる管理職や役員、あるいは優秀なスキルを持っている人に限定されると思ってはいないでしょうか。具体的には、盤石な経営を誇る大企業の重役クラスや急成長している新興企業のキーパーソン、あるいは誰もが知るヒット商品を世に送り出した開発担当者などなど。

けれども、当社が着目するのはそうした成功者だけではありません。例えば、倒産した会社にいた社員、企業合併など会社の大きな構造転換の節目でやむなく退職された人もいます。あるいは、社内での処遇に恵まれず、ビジネスパーソンとして不遇のときを耐えている人材さえいるのです。それでは、そうした人たちはどのようなところが評価されるのか。

私が関わった事案ですが、倒産会社に最後まで居続けた人物がいました。普通、倒産寸前の会社からは多くの人材が流出します。沈む船と運命を共にするよりも、若干の割り増しがある早期退職金をもらって、新しい就職先を探す選択を一方的に責めるわけにもいきません。

そうしたなかでも会社には多くの仕事が残っています。それは清算業務という苦しい役割です。それでも、その役目を引き受け、会社を“看取る”という仕事には腹の据わった責任感、強靱な精神力、そうした環境の中での事務遂行能力が必須になります。だからこそ私は、倒産しかかった、もしくは完全に倒産してしまった企業に最後まで残り、きちんとした幕引きに携わった社員の情報があれば、必ずチェックしています。

そのきっかけを作ってくれたのがFさんでした。1990年代のバブル崩壊後、金融機関が危機に陥り、次々と経営破綻していくなか、某証券会社で清算に携わっていた方でした。まだ私がこのビジネスに関わった最初の人材紹介会社(大手総合商社系)に在籍していた時代に知り合ったのです。

もともと、Fさんは人望のある方でした。そんな彼は清算業務だけでなく、部下の再就職先の世話までしていたのです。こうした心配りは、経営が比較的安定している平常時にはなかなか見えない人間としての「心」の部分にほかなりません。誰もが会社に見切りをつけるなか、外部に迷惑をかけないように粛々と業務を進め、部下の将来を心配する徹底した無私の姿には、私自身、非常に感銘を受けたものです。

よく「平時の能吏、乱世の英雄」などといわれますが、その働きぶりをクライアント企業に伝えたところ、その会社の経営陣もFさんの真摯な姿勢を高く評価され、清算をすべて終えた後、好条件での転職がかないました。現在もその会社に在籍し、管理部門の責任者として経理面を仕切っています。

■周囲には必ず見てくれている人がいる

もう1人は、優秀な人材にもかかわらず、不本意な降格人事で不遇な立場にあまんじていたMさんです。総合ディスカウントストアZ社からの依頼案件で「自社のホームファニチャー部門を強化するために、商品開発やバイヤーを経験した人材を事業部長として採用したい」というものでした。あらかじめターゲットとなる企業が限定されており、数社の有名企業が対象になっていました。私どもは、対象企業の組織調査を行い、候補者を絞っていきました。

第一候補との交渉がうまく進まず、次の候補としてアプローチすることになったのがMさんです。彼は勤務していた会社で商品開発部の事業部長を任され実績を積んでいたのですが、私がアプローチしたとき、降格人事で一般店舗の店長をしていました。多くのクライアントはこうした人物は敬遠します。ところが、よくよく調べてみると、Mさんの降格には同情すべき理由があったのです。

降格の理由はパワハラでしたが、彼を訴えた社員はクレーマーのような存在で、他の部署でも似たような問題を起こしていたそうです。しかも、そのことを人事部はMさんに伝えていませんでした。商品開発はスピードも要求され、レベルの高さも必要とされます。何も知らないMさんは他の部下と同じように厳しく接し、パワハラで訴えられてしまいました。

私はこの事実をクライアント企業に説明しました。同社はそれを理解し、むしろ、腐らずに店長という職責を果たしている彼を気に入ってくれたのです。たぶん、Mさんの我慢強さを買ったということでしょう。そこからはスムーズに話が進み、MさんはZ社に転職。現在は商品開発のトップとして活躍しています。

ビジネス人生には山あり谷ありです。順風満帆なときもあれば、この2人のように勤めていた会社が倒産するとか、思いもかけず降格の憂き目を見たりすることもあるかもしれません。しかし、そこで落ち込んでいてはだめです。そんな雌伏のときこそ自分を磨いてください。周囲には必ず、見守ってくれている人たちがいて、あなたに手を差し伸べるはずです。

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武元康明(たけもと・やすあき)
半蔵門パートナーズ 社長
1968年生まれ、石川県出身。日系・外資系、双方の企業(航空業界)を経て、19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加、08年1月に社長、17年1月〜3月まで会長就任。現在、 半蔵門パートナーズ代表取締役。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演などの講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』など。

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(半蔵門パートナーズ社長 武元 康明 取材・構成=岡村繁雄)