「金持ち県民、貧乏県民」ランキング

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金銭トラブルが多い山梨県民、消費者ローン利用1位の沖縄県民、老後の計画性がない秋田県民……。日銀のお金に関する全国調査で、貧困に陥りそうな県が明らかに。あなたの地元は大丈夫?

■お金の知識がないと下流老人になる時代

秋田県民の72.3%は老後の生活費の計画を立てていない……そんな衝撃的な調査結果がでた。実施したのは、金融広報中央委員会(事務局:日本銀行情報サービス局)。18歳から79歳までの全国2万5000人を対象にした「金融リテラシー調査」だ。年代、性別、都道府県分布を人口構成に合わせた大規模調査は世界でも例がなく、海外でも報道されている。

「国内外で金融リテラシー向上への関心が高まっています。一方で少子高齢化が進み、資産形成における自助努力の必要性も高まっている。振り込め詐欺やインターネット取引でのトラブルも、なお多い。お金との付き合い方は必要不可欠な生活スキルとなっています。そこで現状を把握する目的で調査を実施しました」。

と語るのは、「金融リテラシー調査」を担当した日銀・金融知識普及グループ長の川村憲章氏。確かに、幸せな老後を送るために、金融リテラシーは必須の時代になったと言えよう。

調査内容は「老後の生活費について資金計画はあるか」といった、お金についての行動特性や考え方を尋ねる設問が約半分。加えて25の正誤問題も出題された。読者には解けるだろうか?

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〈出題例〉
「人生の3大費用といえば何を指すか」
「金利が上がったら債券価格はどうなるか」
「預金保険制度で1000万円まで保護される預金の種類は」
「10万円の借り入れがあり、借入金利は複利で年率20%。返済しないと、何年で残高が倍になるか」

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こうした正誤問題の正答率と各種アンケート結果を組み合わせると、さらに面白いことがわかった。47位の山梨県ほか「金融リテラシーが低い」と判断された県ほど、金融トラブル経験者の割合が高く、また緊急時に備えた資金を確保している割合が低いのである。

これは県民性に由来するのか? 県民性研究の第一人者、矢野新一氏の答えは「イエス」。異なる気候風土や産業構造、地域文化が、47通りの「お金の県民性」を生み出しているのではないか。地方勤務の経験のある経済コラムニストの大江英樹氏も「全国を回ったわけではないですが」と断ったうえで「徳島は慎重で貯金好き、福井はチャレンジ精神旺盛と、肌で感じられる違いがあります」と語る。

今回、この正答率ランキングに県別の“収入”ランキングを加味することで「金持ち県民、貧乏県民」ランキングを算出した。上位の県ほど、よく稼ぎよく殖やす「お金に心配のない」県だと言えるだろう。

■知識もなければ、稼ぎも悪い沖縄と青森は、貧乏ツートップ

まずは「貧乏県民」。沖縄県、青森県、長崎県がワースト3となった。

沖縄県は、「金融リテラシー調査」の正誤問題正答率で46位。つまり、全国で下から2番目に金融知識がない県という結果が出た。また沖縄は「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」で最下位。沖縄には「門中」と呼ばれる父系の血縁集団があり、互助組織としての役割を担っている。困ったときは親類縁者に頼れるため、金を貯めたり殖やしたりすることには興味が薄いとか。また沖縄は、「消費者ローンを利用している人の割合」が全国トップ。なのに「請求書の期日に遅れずに支払いをする人の割合」も44位とかなり低い。細かいことは「なんくるないさー(なんとかなるさ)」と笑い飛ばしてしまう明るい県民性なのだ。

ワースト2の青森県は「金融リテラシー調査」の正誤問題正答率では44位。収入ランキングでは下から3番目とどちらもかなり低い。にもかかわらず「金融知識に自信を持っている県」ランキングでは1位となっており、まさに“井の中の蛙”。現実に目を向けないと大変なことになりそうだ。

「青森はテレビの視聴時間が日本一、カップ麺の消費量も日本一。長い冬を、家のなかでひっそりテレビを見て暮らしている。無駄も嫌いで、『お金を殖やす』商人気質は全然ない地域です。だから金融知識がなかなか身につかないのでしょう」(矢野氏)

長崎県は、「消費者ローンを利用している人の割合」で4位、「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」で36位と浪費家の一面を見せた。長崎といえば、鎖国政策がとられていた江戸時代、唯一世界に港を開いていた県である。名物料理「ちゃんぽん」よろしく、海外のものでもなんでも受け入れてしまう心の広さが育まれた。また江戸時代に貿易で得た利益の一部が県民に支給されたという過去もあり、「あくせく働かない」おおらかさと、「今が楽しければいい」浪費家の県民性が根付いたという。

■最も金融知識がないのは山梨県

ほかにも心配な県がある。正誤問題正答率で最下位につけたのは山梨県。「金融トラブルの経験者の割合」でも全国ワーストであり、「お金に弱い県」の烙印を押された格好だ。しかし山梨といえば甲州商人、むしろお金にはうるさいのでは? と矢野氏に聞くと、「無尽」の影響を指摘した。月1回程度集まり食事やゴルフをするグループのことで、金銭の互助組織を兼ねる。山梨では「無尽」に入っていないと選挙にも当選しないとも言われている。沖縄にせよ、山梨にせよ、“相互助け合い”の精神が根付いている県で「金融リテラシー」が低いとは皮肉な話である。

正誤問題正答率で下から3番目に低いのは山形県。米沢藩の時代には「日本一の貧乏藩」との誹りを受けるも、その後、名君の呼び声高い上杉鷹山の藩政改革により、清貧をよしとする県民性が根付いた。そのおかげか、損をするくらいなら投資をしない「損失回避傾向」は全国トップ。こうしたお金に関して冒険しない気質が金融知識の低さに結びついたと推測できる。

「山形は東北のなかでも一番お金にシビアなところ。1年間の収入に対する預貯金の割合が、全国13位。共働き率も全国1位。お金を殖やす意識は低くても、しっかり『貯め込んでいる』ということです」(矢野氏)

まじめに働くのはいいが、低金利時代に“貯めこむだけ”では非常に心配である。

一方、同じ東北でも秋田は、「老後の生活費について資金計画を立てている人の割合」が全国で最下位。そもそも秋田は「着倒れ、食い倒れ」と言われるほど享楽的な県民性。江戸時代に海運によって栄え、石高も高かったことから、着物など贅沢な品を持つことができたのだ。年金破綻が心配されている昨今、贅沢と遊びを優先させてしまう秋田県民は、東北きっての“先行き不安県民”といえるかもしれない。

正誤問題正答率42位と残念な結果に終わった鳥取県は、目先のお金に飛びつく「近視眼的行動バイアス」が強い。「すぐもらえる10万円と1年後の11万円だったら、どっちを選ぶか」の問いに対して、10万円を選んだ人が全国で一番多かったのだ。鳥取県は、消極的で地味な因幡(東部)と、商人気質の強い伯耆(西部)とで県民性が二分される。今回は因幡の気質が全面に出た結果と言えそうだ。

大阪は正誤問題正答率で38位。ケチでがめつい印象の“なにわ商人”が金融知識に欠けるとは意外だ。しかし、そこは大阪、「金融知識に自信を持っている人の割合」は14位とかなり高い。「自信過剰傾向」ランキングでは堂々の7位に。新しいものに敏感な半面、「せっかち」で目先重視の発想が強く、長期的な展望に欠ける商人気質が災いしたのかもしれない。

■金持ち県第1位は商才に長ける「福井県」

対して「金持ち県民」トップ3に輝いたのは福井県、静岡県、愛知県。

福井県は、年収ランキングで全国2位。正誤問題正答率で6位と好成績。「金融知識に自信を持っている人の割合」は8位、「お金について長期計画を立てる人の割合」も全国トップである。「越前商人」の伝統があり、みなカネ儲けが大好き。商才に長けるあまり、古くは「越前詐欺」と揶揄されたほどだ。地道に稼ぐよりも効率的に利益を追求するアントレプレナーの気風が根強く残り、帝国データバンクの調べによれば人口10万人あたりの社長輩出数で34年連続全国トップを誇る。参考までに、藤田晋サイバーエージェント社長、元谷芙美子アパホテル社長は福井県出身。

静岡県は正誤問題正答率で8位。もともと伊豆、駿河、遠州の3つの国からなる県である。大江氏も「浜松と静岡では性格が全然違う」と指摘する。

「浜松のやらまいか、静岡のやめまいかという言葉もあるように、浜松は森の石松のように、本当に博打好き。『やってやろうじゃないか』の心意気で、リスクテイカーが多いですね。ベンチャー企業が多いのもそのせいでしょう。対して静岡は『そんなのやめようよ』と消極的です」(大江氏)

愛知県は正誤問題正答率で14位、収入で4位につけた。「都市ブランド・イメージ調査」で「魅力のない街」「行きたくない街」第1位(8都市中)に選ばれてしまった名古屋を擁するが、お金について、矢野氏は「恐ろしいほど執着心がある」と評する。

「名古屋の人は銀行を全然信用してなくて、タンス預金が日本一多いと言われています。かつて伊勢湾台風で床上浸水したときは、そこら中に1万円札がプカプカ浮いたとか」(矢野氏)

尾張藩が勤倹貯蓄を奨励した歴史から堅実で実利性に富むが、言い方を変えればケチがとことん染み付いているということか。

ほかに、正誤問題正答率のランキング上位は、以下の面々だ。

正誤問題正答率の全国トップは奈良県。京都が着倒れ文化、大阪が食い倒れ文化とするならば、奈良は「寝倒れ文化」の県と言われる。大仏目当てに押しかける観光客を相手にしていれば、苦もなく生活できたからだ。「しかし、それは旧奈良県人の姿です」と矢野氏。近年、大阪のベッドタウン化が進んだことで、奈良県民像に変化が生じているという。

「今の奈良県民は、大阪出身の人、大阪に通勤通学する人が多く、彼らは買い物上手です。1年間の収入に対する預貯金の割合も全国4位で、よく貯め込んでいます」

正誤問題正答率2位の香川県は、抜け目のない「へらこい気質」。利己的でこざかしく、要領がいい。夏の降雨量が少なく大きな河川もないことから、慢性的な水不足に悩まされており、その備えとして多くのため池を築いてきた。当然、お金にもシビアで、「お金について長期計画を立てる人の割合」で3位、「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」で4位に食い込んだ。「出世欲も強いと言われ、人口あたりの東大卒業者は全国2位。そのための貯蓄も万全だというわけです」(矢野氏)

「四国は文字どおり4つの国で、4県の個性があります。道に1万円が落ちていたら、香川県はそのまま貯金、愛媛県は1万円で飲みに行く、高知県は自分の1万円も足して飲みに行く、徳島県は1万円を足して貯金すると言われています」(大江氏)

正誤問題正答率3位は京都である。「株式を購入したことがある人の割合」「投信を購入したことがある人の割合」「外貨預金等を購入したことがある人の割合」いずれも5位以内。また「金融知識に自信を持っている人の割合」は8位と高く、周囲の意見に流されがちかどうかを計る「横並び行動バイアス」は45位と弱い。「誰の意見も聞かず、自己責任で投資をしている」その姿に「かつては首都」だった京都人のプライドをのぞかせる。「京都人は昔からケチで有名。金利がコンマ数%変わるだけで銀行を変える、というぐらい。歴史的にみても、京都の街は戦で何度も壊されてきた。何かあったときの備えとしてのお金、という考えが染み付いている」(矢野氏)。

岡山県は正誤問題正答率で4位に。商業県である大阪とともに栄えた、昔からの「ものづくり」地帯であり、理知的・理論的な県民性で知られる。財布の紐がめっぽう固く、無駄なものは買わない職人気質だ。会社帰りにも同僚と「ちょっと一杯」がないくらい真面目な県民性。「老後の生活費について資金計画を立てている人の割合」でトップ、「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」が7位という数字がそれを裏付けている。

■年収が高くとも、「老後破綻」の危険が

とはいえ、金持ち県民でも油断は厳禁。日銀の川村氏は、「老後破綻、下流老人化は年収が低い人だけの問題ではない」と注意を呼びかける。

「金融リテラシー調査では、50代でも6割以上は老後資金の資金計画を策定していない、住宅ローンを借りている人の3人に1人は定年退職後も支払いを継続している等の課題が明らかになりました。ライフプランを十分考えずに過大な住宅投資を行い、老後資金の確保で苦労する人が多い。『ライフプランの下で、お金の管理や運用を考える』という基本をもっと重視したほうがいい」(川村氏)

自分は金持ち県民だからという過信も命取りだ。経済コラムニストの大江氏は過去13年間、企業のサラリーマン40万人を相手に確定拠出年金を勧めるセミナーを行ってきた。そこで痛感したのは日本人の「自立意識の欠如」だ。

「日本人は国や会社がなんとかしてくれると思っている。そこが危ない。セミナーを開いて知識を詰め込んでも、聞いてくるのは結局『何が一番儲かるか教えて』ですから(苦笑)」(大江氏)

ならばどうするか。大江氏が勧めるのは「知識より、実践」だ。もらえる年金額を日本年金機構のHPなどでおおよそ試算する。家計簿は妻任せにせず自分でつける。たったこれだけの手間で「老後足りない金額」が判明する。

「はやりの積立投資も確定拠出年金も、少額で始めて、上がった下がったと一喜一憂してみる。実践しないと身に付きません。水泳の本を100冊読んでも、水に入らなかったら泳げるようにならない。それと同じです」(大江氏)

金融リテラシーの底上げは、脱貧乏県民の必要条件。だが知識があっても自ら活かそうとしなくては宝の持ち腐れに。「誰かが何とかしてくれるだろう」という他者依存からの脱却が、一流県民入りのカギと言えそうだ。

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(写真左から)日本銀行 金融知識普及グループ長 川村憲章/ナンバーワン戦略研究所所長 矢野新一/経済コラムニスト オフィス・リベルタス代表取締役 大江英樹
 

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(東 雄介 撮影=和田佳久、山口典利 写真=AFLO、PIXTA 名古屋弁校正=川脇哲也)