新橋のデ笋譴探厳歇奧イ世辰神藺緡い、美人への道をご案内。今日も一日、ささやかな心がけが美をつくり、福を招きます。『お多福 美人講座』

手書きの力

「千日供花(せんにちくげ)」という供養をご存知でしょうか。千日間絶やさず仏前に一花を供える行だそうで、一日十秒のストレッチですら三日も続かない私には、聞いただけでも驚愕の供養です。ところが元新橋芸者であり、のちに地唄舞の名手として文化功労賞を受賞した武原はんは、この供養を、想う人のために実際に捧げたそうで、お経に千日間お供えした花の名と色を写した写経が残っています。

はんはたいへん信仰心の篤い人で、各地の寺社に舞を奉納したり、新橋芸者をひき連れて十七回も御嶽詣をしたり、毎朝の水行に加え、深川不動での荒行を寒中にもしていたそうです。舞だけでなく、行いのひとつひとつに祈りを込めていたはんが書いた千日の写経は、大切な人への想いがどれほどまでに込められていたかと思います。

はんに限らず、書くという行為には、想いが映るものです。メールやLINEが普及した昨今でも、”手書きはいい”という声が消えることがないのは、手書きの文字に人の想いを感じるからでしょう。私自身も、東をどりやおさらい会の切符をお客様にお願いするのが苦手で、他の芸者衆のように気軽に言い出せず、窮余の策でお手紙を書いたところ、お客様方が思いのほか喜んでくださった経験があります。それがきっかけで、あまりご贔屓でなかった方がご贔屓くださったり、なぞり書きの本を出版することになったりと、書くことで世界が広がっていきました。ただし、手書きならなんでもいいとばかりに、想いを込めず書いたものは、次のうれしいことに結びつくことがありませんでした。短いハガキでも、心を込めて書くとき、そこに宿る心が届くのだと思います。便箋に綴るとりとめのない近況報告、出会いに感謝するカード、旅先からのハガキ…損得や計算ではなく、はんのように大切な人に想いを込めて、私も久しぶりに便りを出してみようかと思います。

参考文献 『武原はん一代』 著:武原はん 求龍堂

ちより
元新橋芸者。エッセイスト。現在は男女のコミュニケーションやおもてなしについて全国を講演で回っている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』『福ふく恋の兵法』など。一児の母。

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