けむり、あぶら、かわみどり。
 酔狂な道のりに、過去・現在・未来の交通をいくつも発見し、どこか心地イイ余韻に浸りながら、東北線の「軽快すぎる」E231系で戻っている…。
 埼玉、大宮。氷川神社の門前町、中山道の宿場町、そして東北・上信越へと延びる鉄道の要衝として賑わう町。
 この鉄道の街では、巨大な操車場や車両工場、機関区などが広がり、かつて憧れた鉄道員たちのカッコいい仕草、レールの油の匂い、ピーッとかピュッという汽笛、ダダダダガシャンちおう貨物列車が動き出す音など、鉄道五感を刺激するプレイを間近に体感できた。

欲しいのは思い出でなく非日常

思い出す。友だちとチャリで大宮の街にくり出した帰り、用もなく大宮操車場の電気機関車を見に寄り道する。下り出発線の貨物列車の機関士は、ハナタレ坊主の姿に気付くと、ヘッドランプをパッパッと灯して笑ってくれる。それだけではしゃぐガキたちは、その北行き列車に懸命に手を振ったりした。
 生ぬるい70年代生まれのトホホな回想はこれぐらいにして、上野から東北線の電車で土呂へ。変わり果てた大操や、流行りの鉄道博物館は、このさい思いっきりスルーして、蒸機の時代よりもずっと前、江戸時代の交通機関を体感する半日ラン鉄といく。
 東大宮操車場。ココも子どものころウチからチャリで1時間かけてよく見に行った、僕らの要塞的空間だったが、思い出ではなく、新発見にシビレた。
 東大宮操車場のまたの名、東大宮車両センターは、車輌の検修庫を新築中。品川にある田町車両センターが再開発の波に呑まれ大幅に縮小し、その機能をここ東大宮に移すらしい。東大操はいつの時代も尾久や品川のお助け的な仕事を物静かにこなしているようで。
 停留する電車たちは死んだように眠り、基地は静かでひんやり。両脇に芝川と見沼代用水が流れ、小鳥のさえずりと大宮工業高校野球部員のかけ声だけが聴こえて、イイ感じに脱力する。
 この見沼代用水や芝川に沿って、約6キロ、1時間半かけて、ダラっと歩く。そう、江戸時代にできた農業用水と、その水路網を活用した見沼通船の往来を想像、250年前の水運シーンを体感しながら歩くというワケだ。

江戸・昭和・平成の交通をトレース

 平坦な見沼の地に広がる豊かな緑、ホッとする水辺は、どこかリッチ。川辺に生える葦の脇をゆっくりとジョギングする夫婦がいれば、腰を曲げて小さな畑を手入れする古老の姿もある。
 見沼の土や川が発する森の匂い、畑で焼く煙や線路の油臭さが混じる空気を吸い込み、日ごろから身体に沈んでいたものをドバッと吐き出す。芝川を渡る東武野田線の8000系のどこか懐かしい足音や、男子女子の他愛ない会話を聞くと、なぜか笑いが出てくる。
「ちょ、ちょっと待ってマジきつい!」
「そんなんじゃ痩せないよ。走って」
 江戸時代の水運を担った人たちが川底からこちらを見ているような気がする。
 半日かけて江戸へ物資を運んだ時代から250年、舟運を追いやった鉄道が、東京と埼玉を数十分で結んでいる今を「想像できました?」。
 疲れた体にチカラを。1時間半かけ、昭和の残像といった雰囲気の東新井団地という地で乗り物へ。江戸時代から昭和、そして平成へと連れ戻す、謎の瞬間高速バスの時間を体感する。
 全国的にも極めて珍しい路線バスが、ここ東新井団地と、かつて大宮操車場のあったさいたま新都心を結んでいる。
 なんと、首都高速を一瞬だけ走るという曲芸を持つ路線バスなのだ。
 新高01系統・高速さいたま新都心駅ゆき。見た目はフツーの東武バスだが、昭和な団地空間から徐々に速度を上げ、首都高の近未来的なS字カーブをスーッとトレースし、ほどなくして新都心へ滑り込む。その10分弱は、まさにタイムマシン。
 帰りの東北線E231系上野ゆきは、昭和の大宮操車場や、江戸時代の見沼通船の余韻に浸らせてくれるわけもなく、一気に軽々と現代へ引き戻す。
「この妙に気持ちイイ疲労感は何?」
 見沼には、超時空のチカラがある、か。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2012年5月号に掲載された第2回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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