35歳くらいまでに自分の子どもを持つ人生を選ぶのか選択を

高齢出産には体力や持病の問題があるが、経済力・精神力では有利。無痛分娩と助産院での分娩についても紹介

「子どもはそのうち」とはいつのこと?

担当していた38歳の妊婦さんが無事に出産しました。かわいい赤ちゃんを抱いて、とてもうれしそうです。この女性は37歳の子宮がん検診のときに、「40歳が近くなると妊娠が難しくなる」ということをお話ししたら、すぐに気持ちを切り替えて妊娠に向かって準備したそうです。運よくすぐに妊娠できて、無事に出産もできました。しかし、このようにうまくいく人ばかりではありません。高齢妊娠や高齢出産にはさまざまな問題があります。

40歳代の芸能人の出産がニュースになるためか、「子どもはそのうち」と思って、後回しにする女性が多くなっているようです。仕事やプライベートでやりたいことをやっていると、結婚や出産が後回しになるのは当然ではあります。もちろん「子どもは要らない」とはっきり決めているなら何の問題もありませんが、「いずれは子どもが欲しい」と考えている人は、考えているよりは少し早めに行動に移したほうがいいでしょう。

さすがに常識になっていると思いますが、30歳頃から妊娠率は徐々に低下を始めて38歳頃からは急に低下します。産婦人科医としては遅くとも35歳くらいまでに、自分の子どもを持つ人生を選ぶのか、子どものいない人生を選ぶのか、じっくりと考えて選択をしてもらいたいと思います。
仮に35歳から妊娠に向けて行動すれば、数年たって子どもができなくても、まだ38歳くらいですから、不妊治療を行えば十分に妊娠の可能性があります。しかし、不妊治療の開始が40歳くらいからだと、治療を行ったとしても、妊娠は困難となり費用もかかることが多いのです。どんなに医学が進歩しても、過ぎ去った時間だけはどうしようもありません。

幸せは人それぞれです。子どもがいなくても人生は楽しいですが、子どものいる人生もとっても楽しいものです。どちらを選んでも正解だと思いますが、自分(たち)でしっかり考えて選ぶことが大事です。

高齢出産のいいこと、悪いこと

人間を動物として考えたとき、妊娠・出産に適しているのは20歳代であることははっきりしています。私自身は現在40歳代後半ですが20歳代の頃に比べれば、明らかに体力は低下しています。女性の妊娠・出産についても、統計では25〜30歳がもっとも安全であることが示されています。現代においては、出産は仕事のキャリアなども考慮すれば30歳くらいがいいのではないかと考えています。
そもそも、ほんの30年ほど前までは20歳代で出産するのが当然で、40歳を超えてから初めての妊娠・出産をすることは、珍しいことだったと思います。その頃の40歳代は孫の世話をする年代でした。子育ての経験もあるし体力も十分ありますから、子育ての強力なサポーターになってくれていました。先日も42歳で初孫を抱いている人がいて、若いなあと思いましたが、もともと40歳代と言えば孫がいてもおかしくない年代だったのです。

また、35歳以降に初めて妊娠をする人たちには、子宮筋腫や卵巣のう腫など子宮や卵巣に問題を持つ人が多くなります。「困った症状がないから婦人科系の問題はない」という根拠のない自信から、20歳代では婦人科を受診せず、妊娠して初めて産科を受診する人もいます。初診のときに妊娠とともに大きな子宮筋腫が見つかって大病院に紹介することもありました。妊娠を先延ばしするなら定期的なチェックをしておいたほうがいいですね。
また、生活習慣病が増え始める年代でもあるので、高血圧、糖尿病などを合併する確率も高くなります。母親の持病が悪化してはおなかの赤ちゃんも危険ですから、必要な内服薬がある場合などは、持病を診ている医師と相談しながら妊婦健診をしていくことになります。持病の治療をしつつ無事出産できる人のほうが多いので、そんなに心配する必要はないですが、やはり合併症がない若いときの妊娠のほうが安全であることは事実です。

一方で、精神的、経済的には高齢妊娠の方が有利な部分もあります。若いときの妊娠・出産では、独身の自由な時間を満喫することができなかった、仕事でもっとキャリアを積みたかったが妊娠のために中断せざるを得なくなった、などマイナスの気持ちで妊娠・出産に臨むことになることもあります。しかし、30歳を超えてからの出産は、経済力や精神力などは若いときよりは身についているはずですから、高齢出産のほうが有利です。こういう有利な点を活かすようにしたいですね。

次に、高齢出産に臨む妊婦さんからわたしがよく質問を受ける「無痛分娩」と「助産院での分娩」について書いておきましょう。

無痛分娩のほうがいいのか?

無痛分娩は、うまくいった場合は痛みが少なくてお産ができるので、とてもいい方法です。その一方で、うまくいかない場合もあり、結果的に「無痛分娩を選ばなければ避けられたであろう」帝王切開になることがあります。あたかも経腟分娩がやりやすくなるかのように書いている本もありますが、そうとは限りません。

無痛分娩は主として硬膜外麻酔により行われています。これは背中を通る太い神経の近くに細い管を挿入して、そこから歯医者で使うような局所麻酔薬を少量ずつ流して痛みを軽くするものです。全く痛くないわけではありませんが、うまく効くと普通に話をしながら産むことができる程度の痛みですみます。
しかし、体の危険を知らせる役目のある「痛み」をとってしまうので、安全なお産にするためには、赤ちゃんの心音モニターなどの医療的な管理が必須で、人手が必要となります。よって、人手のある日中のお産にするために人工的に陣痛を起こして計画分娩にする場合が多くなります。計画分娩は、予定日の1〜2週間前に予定を組みます。予定が早すぎると体がまだお産の用意ができていなくて、うまくいかないことがあります。だからといって、予定日に近い日程にすると、無痛分娩の予定日の前に自然に陣痛が来てしまって、予定通りの無痛分娩にできなくなることがあります。

また、無痛分娩には10万円程度の追加料金がかかります。妊婦健診の内容はどちらでも変わりませんが、無痛分娩のほうが血液検査の項目などが多くなることもあるため、妊婦健診の費用が多めになります。

助産院での分娩はどうなのか?

助産院での分娩は家庭的で、健診中に仲良くなった助産師が付きっきりで世話をしてくれるので、無事に終わればとてもいいお産になります。しかし、最後まで何が起こるのかわからないのがお産です。経腟分娩を予定していても、分娩途中で帝王切開になる人も10%程度いますし、出産後に出血が止まらずに輸血や手術が必要になる人もときどきいます。
そのような場合、助産院では対応が限られており、病院に搬送する必要が出てきます。しかし、赤ちゃんやお母さんが病院に搬送される数十分の間に状態が悪くなってしまうことがあります。よって、「病院だったら助かっていたかもしれないのに、障害が残ってしまった」ということが起こりえます。よって、そのような結果になったとしても、それは自然な流れで運命だったと受け入れられる覚悟のある人しか助産院は選んではいけないと思います。そういうときのためにも、提携している病院ははっきり確認しておきましょう。ただし、提携していても、いざというときに受け入れてもらえない場合もあります。そういう場合の対応はどうしているのかも、しっかりと確認しておきましょう。

助産院での分娩方法はそれぞれの助産師によっていろいろですが、共通しているのは病院よりゆっくり長く待つお産になることです。病院だと異常を発見しやすいので、早め早めに医療的な対応をすることができます。もちろん、そのおかげで母児が無事で帰れるという場合も多々ありますが、「結果的に」不要な処置がされる場合もあります。助産院と病院のそれぞれの特徴を考えて選びましょう。

後悔のない選択をするためにも、30歳くらいで自分の人生をどうするか、家族をどうするか、仕事をどうするか、そして子どもをどうするのか、考えてもらいたいと思います。

(編集・制作 (株)法研)
※この記事は2013年3月に配信された記事です