人気実力ともに若手トップレベルといえる女性声優・水瀬いのり

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今年で誕生から100周年を迎えた日本のアニメ−−。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーに、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。

第1回目は、声優で歌手の水瀬いのりさんが登場。現在、自身の新曲「アイマイモコ」がオープニングテーマの『徒然チルドレン』他、『キラキラ☆プリキュアアラモード』で念願のプリキュアを演じるなど、様々なアニメ作品に出演。

2015年公開のアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(以下、『ここさけ』)では、過去のトラウマから言葉が話せなくなった代わりに歌で自分の感情を表現する女子高生ヒロイン・成瀬順を見事に演じ切り、第十回「声優アワード」主演女優賞にも輝いた。まさに人気実力ともに若手トップのひとりといえる人気声優だ。

今回のインタビュー前編では、そんな今、もっとも多くのアニメファンを虜(とりこ)にしている彼女の原点について話を伺った!

■撮影では「どうして笑えるの?」と思ってました

―よくインタビューで「仕事が楽しい」って発言されてますよね。

水瀬 そうですね。元々、小さい頃からアニメが好きだったので、もはや仕事って感覚があんまりないんです。

―それは声優の仕事を始めた時から?

水瀬 最初は大変なことのほうが多かったかもしれないです。私はデビューしたのが14歳なんですけど、デビュー作の『世紀末オカルト学院』から3年くらいは次のお仕事が思うように決まらなくて。学生だったので、周りの友達が進路を決めていく中、「このままで大丈夫なんだろうか?」って悩むこともありました。

アニメに声をあてたり、曲を歌ったり、こうして取材を受けたりっていうことができない期間が長かったので、今は「やっとできる!」という気持ちで、ひとつひとつの仕事に向かっています。そういう意味で、働いているという感覚がないんだと思います。

―声優になりたての頃は写真を撮られるのも苦手だったとか。

水瀬 当時は自分の気持ちに正直なほうがカッコいいと思ってて。普通に生活している高校生の女のコだったので、声優雑誌のグラビア撮影で「はい、笑ってください」って言われても、楽しくないのに、どうして笑えるんだろう?と戸惑うばかりでした。

―そういう苦手意識が表情に出ちゃっていた?

水瀬 如実に出ていたと思います。撮影の時はいつもネガティブな気持ちになっていましたね。動画番組でカメラに抜かれるのとかもイヤだったんですよ。いつも引きつった笑いを浮かべていました。

―それが「仕事が楽しい」に変わるきっかけは?

水瀬 一番は自分らしさの幅が広がったことですね。デビュー当時は笑顔のバリエーションがなくて、自分でもどうしていいかわからなかったんです。でも、それがいろんな役をやり、いろんな声優さんにも出会う中で喜怒哀楽の表現の幅が少しずつ広がって。

あとはお母さんの影響も大きいです。よく「必ず笑顔でいなきゃいけないってわけじゃないんだよ」と言ってくれて。私は撮影=笑顔って思っていたんですけど、いろんな表情のバリエーションがあってもいいんですよね。それに気が付いてからは、もうちょっとやわらかく、いろんな表情に挑戦できるようになりました。

―そもそも声優のオーディションに応募したのも、お母さんの勧めだったとか。

水瀬 初めて声優になりたいと思ったのは5歳くらいで、その時は好きなものを好きって言うことに恥じらいがない年齢ですから、よくアニメの声がやりたいって言っていました。でも大きくなって学校に入ると、周りと自分は違うってことが気になってきちゃうじゃないですか。私は暗い性格ではなかったですけど、これといって目立っていた存在でもなくて。どんどん自己主張しなくなっていったんです。

―いわゆる“普通の女のコ“になっていったというか。

水瀬 はい。中学生になってアニメが好きな友達ができて、アニメ好きのグループみたいなものもできるんですけど、それでも声優になりたいとは思っていませんでした。

―最初はテニス部に入っていたんですよね。

水瀬 そうですそうです。『テニスの王子様』に憧れて。素振りの練習だけで辞めちゃいましたけど(笑)。それで次に演劇部に入るんです。

―やっぱり演じることには興味があった?

水瀬 興味はあったんですけど、私は当時から声が周りとは違っていて、ちょっと高い感じだったんです。それで宇宙から来た女のコとか、動物と話せる女のコとか、変わった役柄ばかり頼まれて。

―不思議ちゃんキャラというか。

水瀬 そうなんです。自分が一番やりたくないキャラクターを振られてしまい、すごく恥ずかしくて。それで「私がやりたいのはこれじゃない」と気が付いたんです。

―表に出るような人じゃない、と?

水瀬 お芝居は好きだったんですけど、自分は声のみで表現したい人間なんだって。だから声優さんに憧れたんだと気が付いて。どうしても自分が舞台に立っている姿が思い浮かばなかったんです。そういう話をお母さんにしていたので、ある時、声優オーディションの応募用紙を持ってきて、「これを受けてみたら?」と。

■人生をかけたオーディションで大反省

―水瀬さんが優勝したソニー・ミュージックアーティスツ主催の第1回「アニストテレス」ですね。

水瀬 まさか自分が合格するとは思っていませんでした。自己PR欄にも書くことがなくて、お母さんからは「声を使い分けられますとか書いたほうがいいじゃない?」と言われたんですけど、それ書いたら絶対にやらされるじゃないですか。だからマッキーの太文字で「私は絶対に声優になって、有名になるんです!」と書きました。

―すごいギラギラしたことを書きましたね!

水瀬 私を落としたら後悔しますよって。どうせ落ちるし、これくらい書いちゃえって! 文章だけはギラギラした感じで(笑)。実際にオーディション会場に行ったら大人がいっぱいて、隣には順番を待ちながら練習している年上の人とかもいて、「私には無理だ」と落ち込んでしまい…。結局、よくわからないことをひたすら喋ったオーディションでした。

―でも受かったわけですよね。

水瀬 そうなんですよね。

―そんな状態でオーディションをして、「どうして自分が?」と思いませんでした?

水瀬 思いました。まだ14歳だから、長い目で見て伸びしろがあると思われたのかなとか、コミュ障っぽいオドオドした感じが珍しかったのかなとか、(合格したと聞いてからは)いろんなことを考えました。

―その理由を聞いてみたことはあるんですか?

水瀬 マネージャーさんいわく、「他と違うものがあった」とは言われました。特にアニメのワンシーンを演じるお題の時、普段との変わり様が印象に残ったって。

―そこでは何をやったんですか?

水瀬 『さよなら絶望先生』をやりました。

―そのチョイスは絶対に珍しいですよ!

水瀬 本当に何をやったらいいのか思いつかなくて。自分の部屋にあったマンガからぱっと選んだんです。一応、女のコのキャラクターがいっぱい出ている作品なので、それを演じ分けられたら印象に残るかなとは思いましたけど…。そのあとは歌のPRもあって『WHITE ALBUM』で水樹奈々さんが声優を務めていた緒方理奈のキャラクターソングを歌わせてもらいました。ものすごく緊張していたんですけど、全力でやりきりました。

―水樹奈々さんのファンクラブに入っていたくらいの大ファンだったんですよね。

水瀬 だから、その時はオーディションに合格したいっていうよりも、「自分がどれだけこの作品を好きかってことをアピールしなくちゃ!」という思いがいっぱいで。私はガチガチのアニメオタクでしたから、アニメの話をし始めると変な方向にスイッチが入って、ものすごく饒舌になってしまうんです。それがオーディションでも出ていて。そういう時って、頭で喋っているわけじゃないんですよね。だから止まらないし、「やっちゃったなー」と思いながら帰ったのを覚えています。

■憧れの人と対面して「浄化されるかと…」

―でも、それがいい方向に作用したんですから、結果的に良かったじゃないですか。今やオーディションの曲に選んだ水樹奈々さんとも共演されて。

水瀬 自分でもまさかこんなことになるとは思っていなかったので、びっくりしています。初めて共演させていただいたのは『戦姫絶唱シンフォギア』の1期(2012年)ですけど、私は当時、モブ(女子生徒など)役だったのでご挨拶以外には特に話かけにいくことはできずで。奈々さんのライブのパンフレットをバックに入れて現場に行ったんですけどね。こっそりトイレで読みながら、「この奈々さんと一緒にいる!」ってニヤニヤしていました。

―そのあと、奈々さんとぐっと距離が縮まる出来事があったとか。

水瀬 それは3期(2015年)の時ですね。一緒に共演していた(声優の)茅野愛衣さんが奈々さんに「いのりちゃんが奈々さんのファンクラブに入っているんだって」と伝えてくださり、奈々さんも「じゃあ、もっと喋ろうよ!」とおっしゃってくださって…。その時はもう、浄化されるかと思いました。

―浄化される!?

水瀬 後光が差しているように見えて。

―ああ、神様が降臨されたっていう。

水瀬 そうです。愛衣さんも本当に優しいあこがれの方で、私からしたら後光が強いタイプなんですね。だから一気に二大後光が目の前に来て、天に召される気持ちでした。

―憧れの人とは普通に喋れました?

水瀬 いやいやいや…。たぶん、相当に気持ち悪い感じだったと思います。

―昨年末のラジオ(『水瀬いのりMELODY FLAG』)では、奈々さんから誕生日メッセージを送られていましたよね。

水瀬 もう号泣しました。なんか、こんなに幸せでいいのか、ファンの人に怒られたりしないかなって心配になるくらいです。

―同じ声優仲間なんですから怒られるわけないですよ!

水瀬 もちろん、自分なりに悔しいことやツラいことはあったんですけど、それでもあんまり恵まれていることが多すぎて、あとは下るだけかな…って思っていて。徐々に徐々に近付けたらいいなと思っていたのに、今は同じレーベルの先輩後輩にあたるのも信じられないですし…。以前は取材で奈々さんのことを聞かれるのがイヤな時期もあったんです。自分はまだまだなのに奈々さんのことばかり喋って、なんて図々しい奴なんだって思われないかなとか、奈々さんの話をすることで本人に会おうとしていると思われるんじゃないかとか、いろいろ考えすぎて「うわー!」となっていました。

■『ここさけ』が当たり役だった理由

―そうやって考えすぎるエピソードを聞いていると、『ここさけ』がいかに当たり役だったかってよくわかります。あの成瀬順っていうヒロインは水瀬さんとそっくりですよね?

水瀬 そうなんですよ! まさに心の中ではいろいろ考えているけど、周りの反応を気にしたら何も喋れなくて、結果的に(お腹を押さえて)「うー」って全部抱え込んじゃう。

―台本を読んだ時に「私のこと?」って思いました?

水瀬 「わかるわかる」ってところはいっぱいありました。順の場合は幼少期のトラウマが原因ですけど、言いたくても言えない感じとか、言ったあとのことをすごく考えちゃう感じとかは、まさに自分の学生時代とそっくりでした。

―しかも順も水瀬さんも演劇部ですからね。

水瀬 自分という存在を消して、何かに憑依してお芝居する場所なら感情を表現できるなんてところも、すごく私とリンクしていて。ラストは主人公の拓実くんにかなり暴言を吐くんですけど、そういうせき止めていた思いがあふれてしまう感じも自分だなって。

―それだけ自身と重なるキャラクターだったからこそ、演技にリアリティがあったわけですね。

水瀬 私はクールな人間だって思われることが多いんですけど、仲良くなったらすごく話すタイプなんです。だから順にとって私は一緒に成長していけたらいいなと思えるキャラクターであり、すごく大切な存在でした。

●後編⇒人気声優の水瀬いのりが意外なプライベートを告白「マカロンが好きとか言えたらよかったんですけど…」

(取材・文/小山田裕哉 撮影/井上太郎)



■水瀬いのり(みなせ・いのり)

1995年生まれ、東京都出身。2010年にソニー・ミュージックアーティスツの「第1回アニストテレス」でグランプリを受賞後、同年にTVアニメ『世紀末オカルト学院』で声優デビュー。以降、『ご注文はうさぎですか?』のチノ役、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のヘスティア役、『がっこうぐらし!』丈槍由紀役や、劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』成瀬順役などヒット作に出演。2013年にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で劇中アイドルの一員、成田りな役を演じ、年末の紅白歌合戦にも出演。歌手としても活動し、今年8月9日には4thシングル「アイマイモコ」をリリース