橋下徹“実践!僕の危機管理ノウハウ”

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■改革をやろうとすれば、不利益を被る者は徹底して改革者を攻撃する!

安倍政権にとって負のスパイラルが続いている。僕も8年間の政治家活動においては何度もピンチに陥った。特に僕自身の不祥事ではないのに僕が率いる組織の一員の不祥事で、僕に対する信頼が低下する事態のときは辛かった。

僕はできた人間じゃないから「俺のせいじゃないのに」と正直思ったけど、トップとしてはそんなことは微塵たりとも表には出せない。部下の責任、仲間の責任にした時点でトップとしてはジ・エンド。トップである以上は組織の信頼低下の責任を一身に負わなければならない。それがトップというものだ。

また僕は賛否が激しく割れる問題提起をし続けてきた。反対の声が激しく挙がる改革も断行し続きてきた。日本の人口は1億2000万人。教育レベルも高い。こんな国において全員が賛成する政策・改革などあり得ない。改革には反対の声が必ず付いてくる。為政者が行う改革に対して、有権者から反対の声が挙がる方が健全だ。

ただ反対派は、改革の中身を攻撃するよりも、僕自身に対して攻撃してくることが多かった。

まあこれが学者や自称インテリが交わしている議論とは決定的に異なるところで、これこそが政治そのものだから仕方がない。学者や自称インテリ同士の議論は、それによる社会への影響はほぼ皆無なので、社会から反対の声も上がらない。せいぜいプライドやメンツをかけて学者同士、自称インテリ同士が罵倒し合うぐらいのかわいいもの。僕も今はこっちの領域で議論させてもらっているけど。

政治の場合には社会に直接影響を与えるから、不利益を被る者は徹底して改革者を攻撃してくる。そしてその攻撃は、政策や改革の中身の批判を超えて、人格攻撃からちょっとしたミスの揚げ足取り、スキャンダル、情報リークまで何でもありだ。

もちろんそういう反対の声が挙がらない大人の(?)政治、つまり強烈な改革をやらずに万人受けすることばかりやる政治、さらには毒にも薬にもならないことだけをやる政治をしていれば、そこまでの攻撃を受けることはない。そんな政治家はだいたい任期満了までつつがなく政治家を務めることができる。

でも僕みたいなスタイルで政治をやれば、山ほど敵ができるから、ちょっとした隙やミスで一気に失脚させられる。こんなスリリングな経験ができたのも、今振り返ってみるとありがたい限りだけどね。

週刊誌を含めたメディアは徹底して僕をチェックしていたに違いない。北新地のオネーチャンたちがいる飲み屋さんに、記者が取材攻勢をかけていたという話も聞いた。政治資金収支報告書などは、公開した途端に記者が一斉にチェックしていたらしい。大阪府庁や大阪市役所の職員、そして僕の周辺の者に対して、僕の不祥事や不適切な行動がないか記者は聞き回っていたらしい。役所の庁舎を離れても、尾行されることなどしょっちゅうあった。

加えてメディアや自称インテリが僕に人格攻撃をしてきたり、人を見下したような態度をとってきたときには、僕は奴らと徹底して言論によるケンカもした。その中で相手を激しく罵倒したこともしょっちゅうだった。だからメディアや自称インテリも「橋下の揚げ足をとってやろう」「なんとか橋下の不祥事を暴いてやろう」と必死だった。

まあこれはこれで、政治権力とメディアの緊張・抑制関係としてはよかったんだろうね。当時はコンチクショーと思っていたけど、今は権力側から離れ、権力を行使される一国民の立場になってみると、権力に対してそれくらいチェック・歯止めが効く社会の方が安心だね。

こんな激しい政治の中で、僕は8年間、知事・市長という職を務めることができ、政党代表も5年間務めることができた。今回、民進党の蓮舫さんが辞任したけど、政党代表をやるってほんと大変なんだよ。

僕が政治家を引退したのは、大阪都構想の住民投票で敗北したから。不祥事やスキャンダル、支持率低迷、リーダーシップの欠如で引退したわけじゃない。

このようにメディアから厳しくチェックを受ける中で、8年間の政治家人生を思う存分まっとうできたのは、自分なりの危機管理のやり方が功を奏したところが大きいと自負している。

これは政治家になる前に弁護士として顧問先に対して危機管理のアドバイザーをやっていたことが大きい。危機管理については徹底的に勉強して実践を積んでいたからね。

■「ここまでやるか!」というレベルであたらないと事後挽回はできない

危機管理には大きく分けて2つある。事前予防と事後挽回だ。その骨格を述べると、

(A)事前予防としては

1、まずい・やばい情報ほど先に出せ。隠して後からバレるのが最悪。まずい・やばい情報を出せば批判を受けるが、情報を出した上で、丁寧な説明・真摯な反省・心からの謝罪・徹底した原因究明・大胆な抜本的改善策をきちんと打ち出せば、致命的ダメージまでは被らない。とにかく隠した後にバレるというのは致命的。

2、不正があるかどうかの真実は関係ない。不正が疑われる環境を徹底的に排除する。

というのが柱。

(B)事後挽回としては

事前予防の1、2と基本は同じだけど、不祥事が発覚した後だから、事前予防のときよりも「姿勢・気迫・意気込み」を強烈に示す必要がある。そこまでやるか!! と皆に思われるくらい徹底した挽回策を講じることが重要。普通の淡々とした対応策、対応姿勢、意気込みでは全くダメなんだ。

(B)の「不祥事が発覚した後」、「ピンチに陥った後」の挽回の仕方が、危機管理アドバイザーとしての腕の見せ所。僕はこの点に絶対的な自信がある。

不祥事発覚後の挽回のための事後挽回の危機管理は、「姿勢・気迫・意気込み」が全て。この辺りのことをやっておいたらまあいいだろうレベルじゃ全然ダメ。そこまでやるとは思わなかったと皆が感じるレベルの挽回策を講じなければダメなんだ。

この「姿勢・気迫・意気込み」をもって事前予防の1、2と同じ内容を徹底して実行するということが事後挽回の危機管理の黄金測。

まずい・やばい情報は全て出す。そして認めるところは全て認める。一般的に疑念を抱かれるような言い訳は一切しない。謝るところはきっちりと謝り、不祥事の原因究明もしっかりやる。それに対する今後の対策もちょっとした改善策ではなく、抜本的な改革を打ち出す。

これはある意味当たり前のことで、不祥事が発覚した時点で信用がマイナスになっているのだから、そのマイナスを0にする、ましてやプラス回復するというのは、とんでもないエネルギーが必要なんだ。

そしてここまでやるか! と皆に感じてもらえる事後挽回策を講じると、それに併せて自分たちの主張にも周囲は耳を傾けてくれるようになる。

事後挽回の危機管理で失敗する多くのパターンは、事後挽回策がほどほどのものであるにもかかわらず、自分たちの主張だけはしっかりとするやつ。これは自分勝手な言い訳にしか聞こえない。最悪な事後挽回の危機管理となる。

今の安倍政権の対応は、この状況になっている。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.66(8月1日配信)からの引用です。もっと読みたい方は、メールマガジンで!! 今号は《上西議員、森友、加計学園、陸自日報……プロとして危機管理の問題点を論じます!》特集です。

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)