<シリア内戦に関与して力を付けたヒズボラだが、イスラエルとの全面戦争は自殺行為になりかねない>

大柄な男が、重そうなマシンガンを構えて立つ。傍らにはミサイルの発射台。暖かい5月の朝で、一羽のチョウが男の顔をなでるように舞っていた。

場所はシリアの首都ダマスカスの南方。「神の思し召しで、われらは近くシリアを解放し、祖国へ戻る。だがその日が来るまでは、死んでもこの地を守り抜く」。ヒズボラの戦闘員ラビエ(仮名)はそう言った。

ヒズボラは「神の党」の意。レバノンを拠点とするシーア派の武装組織で、シーア派の盟主イランの意向を受け、シーア派の分派に属するバシャル・アサド大統領の率いるシリア政府を支援して、5年前からシリア反政府勢力やスンニ派系の過激派と戦ってきた。もちろん犠牲は大きかったが、彼らが得たものも大きい。得難い実戦経験を積めたし、イランやシリア政府、そしてロシアから、大量かつ強力な武器を提供された。

だが、それも長くは持たないだろう。天敵イスラエルとの緊張が高まっているからだ。そのためヒズボラは、シリアにいる精鋭部隊をレバノン南部のイスラエル国境付近に呼び戻しているという。

一方でシリア領内にあるヒズボラの拠点に対しては、米軍が何度も空爆を行っている。そのためヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララはアメリカへの報復を示唆している。しかしイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦では、ヒズボラもシーア派民兵組織と共に戦い、間接的ながら米軍の支援を受けている。

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なかなか複雑な関係だが、仮にイスラエルとの本格的な戦闘が始まった場合、ヒズボラはシリアとイラク、レバノン南部の3方面で同時に戦うことになり、全てを失う恐れがある。ベイルート・アメリカン大学のヒラル・ハッシャン教授が言うとおり、「イスラエルが全面戦争に踏み切れば、ヒズボラが勝てる見込みはない」からだ。

それでもレバノンの首都ベイルート郊外のダヒエに陣取る地区司令官とその副官は強気だ。「シリアに行って、われわれはずっと強くなった」と司令官は言う。「以前のヒズボラは基本的に守りの部隊だった。しかし今は攻めの戦術も学んだ」

「今のヒズボラには、以前なら考えられなかったほどの武器がある」と、副官が付け加えた。「シリアが平和だったら、こんな武器を、それも安値で手に入れることは不可能だった」

06年の対イスラエル戦争でも、ヒズボラは頑強に抵抗した。侵攻したイスラエルの地上軍にはロシア製の対戦車ミサイルで反撃し、最終的に停戦合意を受け入れさせた。

あの頃に比べてもなお、ヒズボラは格段に強くなった。昨年段階でヒズボラの正規軍は2万人、予備役は2万5千人を数える。中規模国の軍隊並みだ。またイスラエルの推定では、ヒズボラが保有するロケット弾は約12万発。EUのたいていの国よりも多い。

[2017.8. 1号掲載]

シュローム・アンダーソン