関連画像

写真拡大

法務省は、海外からやって来た留学生や技能実習生が、難民申請の制度を偽装して利用するケースに対処するとして、新しい対策の導入を検討中だ。

現行の制度では、在留資格がある人が難民申請をおこなった場合、難民申請から6カ月すると、就労が許可される。読売新聞(6月30日付)によると、この制度の濫用・誤用が増加していることから、法務省は、留学や技能実習の在留資格を持つ申請者について、在留期限後に入管施設に強制収容する案を検討しているという。

法務省・入国管理局の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に「(難民申請の濫用・誤用は)真に庇護を求める人の迅速な保護に支障を生じかねない。現在も、濫用・誤用的な難民申請に対して、就労・在留を制限するなどの対策をとっている。その効果も検証しながら、読売新聞にあった案も含めて、さらなる対策を導入すべきか検討している」とコメントした。

法務省によると、まだ対策は検討している段階で、具体的なものは現時点で定まっていないという。一方で、これまでも、日本の難民認定ハードルが高いことや収容施設の問題が指摘されている。はたして、今回の対策案をどう見ればいいのか。難民問題にくわしい駒井知会弁護士に聞いた。

●「留学・技能実習だから『難民でない』といえない」

「今回の『対策案』については、明確でない部分がありますので、あくまで仮定の話としてお話させていただきます。

仮に、留学生や技能実習生が難民認定申請をした場合に、原則として、新たな在留資格を与えず、難民認定手続の期間中、就労許可も出さない、さらに、従前の在留資格の期限が切れたところで、原則として収容するーーということになりますと、非常に大きな懸念を抱かざるをえません。

留学生が、留学先(たとえば日本)で、民主主義や基本的人権について学んだり、あるいは自由や平等の理念に共感したりする過程で、本国の体制に疑問を覚えて、留学先で政治活動を始めたがゆえに、帰国後に迫害に晒される危険が想定される場合、彼らは、『後発難民』と呼ばれます。これは、典型的な難民類型の一つです。

今回の『対策案』によって、このような留学生が、その政治的意見やそれに基づく政治活動を理由に『いま帰国しては危ない』と感じて、難民認定申請をしたところ、在留資格を与えられずに、「留学」の在留期限後にオーバーステイ状態になってしまい、原則収容されてしまうとすれば、その人にどれだけの重荷と苦痛を負わせることになるでしょうか。

また、『難民申請者』『難民手続を行う者』のためのビザがない以上、本国での迫害の危険から逃れて来日する難民たちは、観光・留学・技能実習を含む、何らかのビザを得て入国しなければならない場合が多く、日本における在留資格が『留学』だから、『技能実習』だから、『難民でない』ということは到底いえません。

現に、『留学』『技能実習』の在留資格をかつて有していた人々が、実際に難民認定されたケースもあると聞いています。『留学』『技能実習』の在留資格を有する人の難民該当性は、あくまで一つひとつの事案を、個別に審査して判断すべきであり、一律判断が極めて危険なことは明らかです。

なかには、来日後すぐに難民認定申請すること自体に躊躇を覚え、『留学』や『技能実習』で日本に滞在しながら難民認定申請することなく、まずは数年間、本国の様子をうかがい、留学や技能実習の年限が終わっても、危なくてどうしても帰れる状況に戻っていない場合に、仕方なく難民認定申請を手段として考える人たちもいるだろうことは、容易に想像がつきます。

そういう人たちも含め、やはり、今回の『対策案』によって、不当に重い負担を背負う人たちが出て来かねないと考えます」

●「収容施設」の問題点

「現在、一度収容されてしまうと、東京入国管理局や東日本入国管理センターの場合、仮放免許可申請をして、2〜3か月は、(どのような結果でも)結論を待たされることが通常です。

そして、何か月も待たされた結果、仮放免許可が認められなかった場合も、不許可理由はほとんど何も示されませんので、仮放免申請した側からしてみれば、申請内容の何を直せばよいのかもわからないのです。

結果、一度収容されてしまうと、難民認定申請者が、6か月〜1年以上も収容されている例が多く、また、その被収容期間に、体調を崩していく人々が少なくないにもかかわらず、被収容者に対する医療体制の深刻な問題点が、多く指摘されています。大型収容施設のひとつである東日本入国管理センターでは、今年3月にも、ベトナム国籍の被収容者の死亡事件が起きたばかりです。

また、収容施設内では、外部との連絡手段も制限されており、難民認定申請者が、難民審査手続を受けるなかで、みずからの難民該当性を示す証拠を収集する手段、インタビュー手続等のために適切な準備をおこなう手段も、極めて限定されてしまいます。

現在、日本において、0.3%前後しか難民認定率がありませんが、この難民認定申請手続は(かつての異議申立手続・現在の審査請求手続期間も含めて)、3〜4年以上かかることもめずらしくなくなっているのが昨今の状況です。

今回の対策案が実現しますと、彼らは、極めて長期間にわたって、収容されているか、さもなければ仮放免などの極めて不安定かつ不自由な状態で、在留資格なしに日本に暮らさなければならなくなってしまいます。在留資格がないということは、仮放免許可を受けて社会に暮らすことができたとしても、就労許可もなく、健康保険にも入れない生活に突入することを意味します。

食料を買うお金、入国管理局や弁護士事務所に行くための数百円の電車代さえ捻出が困難なほどに生活苦に喘ぐ仮放免者も多いなか、仮放免中の難民認定申請者たちが、入管でおこなわれるインタビューの順番待ちだけで、3年近く待たされている例はいくらでもあるのです。

仮放免中の難民認定申請者のなかには、『生活保護の3分の2程度』といわれる難民事業本部による経済支援を受けられる人々もおりますが、みながそうだというわけではありません。

仮に難民事業本部から支援を得ていたとしても、『健康で文化的な最低限度の生活』をおこなうことが、ときに困難であり、多くの難民申請者たちは、長期間にわたって極端な耐乏生活を強いられることになるのです」

●日本の「難民不認定率」は圧倒的に高い

「当たり前のことですが、難民認定申請者は『人』です。それぞれに大切な家族や、ささやかな人生の目標を持っています。幾年もインタビューを待ちながら『教育を受けたい』という若者もいれば、『認定後の第2の人生』につながるキャリアを持ちたい人もいます。また、なかには、本国に残した(もしくは第三国に避難中の)家族の生活を心配し、働いて仕送りをしたい人たちもいて当たり前です。

何年も難民認定手続がかかるなか、人生に『空白の時間を作れ』というのは、申請者にとっても、申請者の暮らす社会にとっても大きな損失です。また、申請者が難民認定され、呼び寄せてくれる日を一日千秋の思いで待つ本国や第三国の(申請者の)家族が餓えた場合、その数年を生きて乗り越えるため、申請者が稼働した収入から仕送りをおこなっていたからといって、『仕送りをした』という理由で、申請者の難民該当性を否定する議論は、説得性を持ちません。彼らは『偽装難民』ではありません。

『難民と認定しえない人々』が、難民申請者の一部を占めていることは、私も決して否定しません。ただ、申請者の99%以上が『偽装難民だ』とする主張があるのだとしたら、それは、現実とは完全に遊離しており、実際の『偽装難民』は、現在、日本で『不認定』とされている人々よりはずっと少ないというのが、現場の率直な感覚です。

日本の難民条約の解釈(特に保護されるべき「難民」の解釈)は、諸外国と比較しても際立って狭いと言われています。また、難民認定審査を担う者の専門的知見や審査における姿勢についても、時に疑問が呈され、あるいは、問題提起されることがあります(全国難民弁護団連絡会議や関東弁護士会連合会のHPなどを御覧下さい)。

いわゆる『偽装難民対策』が、『真に庇護を求める人の迅速な保護』を真に狙ったものであるのであれば、まずは難民条約の解釈を国際基準まで引き上げ、国際難民法に精通する専任の審査員を揃えた独立の認定機関の設置を含めた『難民認定制度の整備』をおこなうことによって、まず、『真に庇護を求める人を確実に保護』する努力から始めるべきでしょう。

ドイツもイギリスもカナダも、きちんと『真の難民』と『偽装難民』を選り分けていますが、それでも(2015年の数字ですが)、それぞれ、全申請者のうち約59%、33%、68%は『認定』しています。日本だけがなぜ、圧倒的な難民不認定率を叩き出しているのかという点が、申請者の実情から見ても、現状、まったく納得がいかないのです」

●「政府は政策転換を」

「『偽装難民』対策を考えるときに、私たちが最も忘れてはいけないのは、(1)そもそも、現状、国際基準にしたがって『真の難民』を不認定にしない方策が十分にとられているか、(2)『偽装難民』対策を実施した場合に、そのことによって『真の難民(と認定されるべき難民申請者)』が不利益を受けることがないかという点です。

いたずらに『偽装難民』対策を先行させると、真に保護されるべき人に多大な不利益を及ぼしかねない場合が想定されうるからです。

たとえば、先に述べた『後発難民』の(元)留学生が、在留資格のない極めて不安定な状況で、経済的にも困窮しながら、精神的にも極度に追い込まれながら、何年も審査等の終わるのを待ち続けるというのでは、ときにあまりにも残酷です。

実は、確実に『偽装難民』を減らし、『真の難民(と認定されるべき難民申請者)』に多大な負担や苦痛を与えず、さらに日本社会のニーズに応える解決策があります。日本社会で極めて需要が多く、『求められている』にもかかわらず、現状、正面から受け入れができていない『非熟練労働に従事する者の受け入れ』をおこなうという政策転換です。

たとえば、現に、韓国は技能実習制度を廃し、雇用許可制を採用しています。日本社会が多数の分野で人手不足で喘ぐなか、『非熟練労働』に従事する人を正面から受け入れることで、一定数の『偽装難民』は雲霧消散するはずです。

そして、この『偽装難民対策』は、日本社会において技能実習制度の歪みから生じる理不尽な人権侵害に苦しむ被害者を減らし、同時に、日本列島に蔓延する人手不足産業を救うという薬効も有しています。しかも、『真の難民』を傷つけることがありません。

今、政府と法務省に求められているのは、『真の難民』に犠牲を負わせる可能性の高い『偽装難民対策』ではなく、真摯に難民認定を願う申請者に負担をかけず、技能実習生などの被搾取者をともに救い、人手不足に苦しむ分野で『労働者を雇いたい』と考えている真摯な雇用主にも手を差し伸べることです。

求められているのは、難民認定制度を国際水準まで押し上げる努力と、いわば『グラウンド・プラン』の策定によって、結果的に『偽装難民』を確実に減らすという決断なのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
駒井 知会(こまい・ちえ)弁護士
東京弁護士会所属。関東弁護士会連合会・外国人の人権救済委員会元委員長、東京弁護士会・外国人の権利に関する委員会前委員長、日本弁護士連合会・入管法PT等所属。現在、東京女子大学・白百合女子大学非常勤講師。東京大学卒、東京大学・英国オクスフォード大学・LSE(ロンドン大学)で修士号取得。
事務所名:マイルストーン総合法律事務所
事務所URL:http://milestone-law.com/