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伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」



“最強のよそ者”として、数々の業界でビジネスに変革をもたらし続けてきた伊藤嘉明が、“趣味も仕事もフルスイングする価値”について考える連載コラム『伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」』。

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ポール・アレンは単なる

マイクロソフト創業者じゃない



この夏休みにマイクロソフトの共同創業者にして超資産家である、ポール・アレンの『フライング・ヘリテージ&コンバット・アーマー・ミュージアム』を訪れました。個人的には彼をビル・ゲイツよりもすごい偉人だと思っています。



なぜなら彼がハーバード大学在学中のビル・ゲイツを口説いた張本人で、一緒に仕事を始めたからマイクロソフトがあるわけで。それだけでもものすごい武勇伝ですが、プロバスケットボールNBAのポートランド・ブレイザーズ、アメリカン・フットボールNFLのシアトル・シーホークス、メジャーリーグサッカーNSLのシアトル・サウンダーズも所有し、クラブ運営にまで関わっています。地元の超名門大学であるワシントン大学にも多額の寄付を何回も行っているし、脳科学研究所の設立、宇宙事業への出資、音楽事業への出資など、その功績を挙げ出したら枚挙に遑がありません。

でも、今回我々日本人が彼について知っておかねばならないことは、実はそこではありません――。

旧日本陸海軍が誇った

戦闘機『隼』『零戦』がいつでも発進できる!?



ポール・アレンは飛行機や船などの乗り物が大好きで、世界大戦時の戦闘機や戦車を多数個人所有するツワモノなのです。



旧日本帝国海軍の戦艦『武蔵』を8年かけて探索し、2015年3月にフィリピン/シブヤン海で発見したのもポール・アレン。日本の当時の最先端技術が結集し、世界で唯一ほぼフルオリジナルの完全動態保存状態にある旧日本帝国陸軍一式戦闘機『隼』まで個人所有しています。この『隼』、海軍の『零戦』(零式艦上戦闘機)の次に多く(5700機)製造され、戦中・戦後と世界中で活躍をした機体であります。当時の友好国であるタイ王国軍は、垂直尾翼にタイ王室の象徴である“白い象”のシンボルマークが描かれた『隼』を使用していたくらいですからね。

一式戦一型丙(キ43-1丙)、連合軍のコードネームはオスカー(Oscar)Ki-43 type-Ib。

この機体は当時、帝国陸軍第11戦隊に所属し、戦後、ラバウルの滑走路近くの密林で発見され、着陸時の事故でプロペラやエンジンにダメージがあったものを、日本兵たちが修復した跡があったそうです。機体発見後にオーストラリアへと送られ、複数オーナーの手に渡った後、1999年、ポール・アレンの運営する私設航空博物館に所蔵されたといいます。ただでさえ『隼』は数えるくらいしか現存しないのに、世界で唯一、オリジナルかつ稼動状態の『隼』がここには現存するのです。

ただし、世界に一機しか残っていないという希少性から、今後飛行させることはもうないだろうとのこと。収蔵されているハンガーの窓から見える青空を眺める姿が、なんとも悲しそうに見えたのは気のせいでしょうか。



なお、この博物館は、基本的には戦車も飛行機もすべて稼動状態で収蔵されています。展示中の個体のエンジン下には、滴るオイルを受けるオイルパンが敷いてあるのが何よりの証拠。ちなみに我らが誇る世界の名機『零戦』も当然稼動状態でありましたよ。ここにあるのは二十二型、1990年代初期に、ニューギニアで戦闘機ハンター(こんな職業やってみたい!)が発見した3機のうちの1機だとか。レストアのためにロシアまで運ばれ、ロシアの職人たちによって復元されたとのこと。その後、稼動状態にするため、カリフォルニア州の戦闘機レストアのプロたちの手により、アメリカン・ラジアルエンジンを換装。最終レストア工程はワシントン州にて行われ、2011年、再び大空を飛行したのです。



世界中のいろんな国の人たちが、当時の日本の最高傑作である技術品、いや、芸術品を後世に残そうと一生懸命、めまいがするくらいの時間をかけて努力してきたわけです。こういったプロセスに、ぜひ日本の資産家たちにも参加していただきたいと心から願います。

終戦から72年の時が経とうとしている今、憎き敵国の象徴だった戦闘機『零戦』『隼』を、私財を使い後世に残すポール・アレンよ、あなたはやっぱり偉大です!

文/伊藤嘉明

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋

いとうよしあき/X-TANKコンサルティング 代表取締役社長。数々の外資系企業での事業再生、マネージメント経験を生かし、可能性のある組織や人材を有機的に結合させたり、資金を投入することで、日本国内はもちろん、生まれ故郷である東南アジアでイノベーションと変革を巻き起こす。著書に『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社)など。