北朝鮮の米国への軍事対抗姿勢が強まるにつれ、トランプ政権の内外で、北朝鮮のレジームチェンジ(政権交代)作戦が再び真剣に論じられるようになってきた。

 米国の歴代政権が長年、目標の1つとしてきたのが、金政権を崩壊させるレジームチェンジ策である。現時点では成功の確率はまだ決して高いとは言えないが、北朝鮮の軍事脅威の高まりはトランプ政権にこれまでにない強い危機感を抱かせ、北朝鮮人民軍の最高幹部の反乱を煽ることで金政権を打倒するというシナリオが浮上してきた。

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金正恩を「権力の座から切り離す」

 トランプ政権が北朝鮮レジームチェンジ作戦を実行する可能性は、マイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官の7月下旬の発言により注視を集めるようになった。

 ポンペオ長官はコロラド州アスペンで開かれた国際安全保障に関するフォーラムで、次のように発言した。

「北朝鮮の核問題に関して最も危険なのは、核兵器を管理する人間の特殊な性格だ。だからトランプ政権の対処としては、核兵器とその特殊な人物とを分離してしまうことが重要だ。核兵器自体の能力と、その核兵器を管理して実際に使うかもしれない危険な人物とを切り離してしまうことだ」

 ポンぺオ長官のこの発言は、金正恩労働党委員長を核兵器から引き離す、つまり「権力の座から切り離す」というトランプ政権側の意図として解釈された。北朝鮮の核問題に対処するために金政権を打倒してレジームチェンジを図るという戦略目標である。

中国をあてにしたのは間違いだった

 トランプ政権内部でこのレジームチェンジ作戦志向が急に強くなったのも無理はない。北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の脅威が予想以上のスピードで高まり、その一方で、中国に要請していた北朝鮮への圧力強化策が結果をもたらさないことが明白となったからだ。

 北朝鮮は7月4日と28日に、米本土に届くと称するICBMの発射実験を強行した。米側ではこの弾道ミサイルが本格的長距離弾道ミサイルかどうかはいまだ疑問視されているが、北朝鮮のミサイル開発が米側の予測を越える速度で進んでいることは明らかとなった。

 他方、トランプ大統領は4月上旬に習近平主席との米中首脳会談に臨んだ際、北朝鮮への大規模な経済制裁の実施を要請した。北朝鮮が経済的に最も依存している国は中国である。その中国が北への石油の輸出の停止に踏み切れば、金正恩氏も核開発を断念、あるいは中断せざるをえないだろうという期待が米側では大きかった。

 だが、トランプ大統領が求めた「100日間の猶予期間」が過ぎても、中国は北朝鮮に画期的な経済制裁を課そうとはしなかった。

 このためトランプ大統領は、7月上旬から中国への失望や批判を表明し始めた。実際の政策でも、南シナ海で中国への抗議の意味を込めた「航行の自由作戦(FONOP)」を再開したり、北朝鮮との取り引きを続ける中国企業への制裁措置、台湾への兵器売却など、中国政府の嫌がる動きを再び始めるようになった。

 その結果、トランプ政権としては、北朝鮮の核武装を阻止するためには、もはや中国に頼ることはせず、韓国や日本という同盟諸国とともに独自の対応策をとるという政権発足当時の立場に引き戻される形となった。

いよいよ一瞬も目を離せない段階に

 トランプ政権にとっては、最後の手段とも言える軍事手段に頼らず北朝鮮内部での争いによって金正恩政権が倒れれば理想的、ということなる。では、具体的にどのようなレジームチェンジを考えているのか。

 この点で参考になるのは、元CIA長官の特別顧問で朝鮮情勢にも詳しいハーバート・メイヤー氏が7月下旬に一部の米国メディアに語った言葉である。メイヤー氏は共和党のレーガン政権時代に国家情報会議の副議長を務め、トランプ政権にも近いという。

 メイヤー氏の発言の内容は、主に以下のとおりである。

・金正恩委員長の独裁体制を軍事面、政治面で実際に動かしているのは、合計二十数人から三十数人の要人たちである。米国情報機関は、その要人たちが誰であるかを知っている。要人たちへの個別かつ秘密の接触は技術的に可能である。

・それらの要人たちのうち特に軍部を動かす人民軍の最高幹部の特定の将軍たちに、トランプ大統領の意向として、北朝鮮の国家体制の保持を条件に金正恩氏の打倒を促す。

・北朝鮮が金体制下でこのまま核やミサイルの開発を進めれば、やがて米国には軍事攻撃以外の選択肢がなくなる。それは朝鮮民主主義人民共和国の国家体制の消滅を意味する。

・トランプ政権はこうした見通しを北朝鮮の一部の将軍に知らせて、国家を救うための金正恩氏への反乱とその打倒を促す。その場合には、金政権の打倒や崩壊に中国も同意したことを北側の将軍たちに伝えられるようにする。

 トランプ政権内では、こうしたレジームチェンジ作戦が具体的に計画されているようである。北朝鮮情勢はいよいよ一瞬も目を離せない段階に突入したと言ってよいだろう。

筆者:古森 義久