嘉徳川の河口から広がる嘉徳海岸には、手つかずの自然が残っている

写真拡大

 奄美大島(鹿児島県)に、“ジュラシック・パーク”とも呼ばれる秘境がある。「嘉徳」という小さな集落に広がる海岸で、渓谷から流れる清流と自然のままの河口と砂浜が、美しい海岸をつくっている。

 この嘉徳海岸がいま、何十億円もの税金をかけた公共事業によって破壊されようとしているという。その理由は、海岸の砂の激減だ。これ以上の侵食を食い止めるため、瀬戸内町はコンクリートの防波堤を建設することを決定した。

「嘉徳海岸の砂の減少は、海砂採取との関係が第一に考えられます。奄美大島周辺では海砂採取が盛んで、これが海岸の劣化に多大な影響を与えていると考えられます」

 こう語るのは、嘉徳海岸で生物調査を今年実施した日本自然保護協会の安部真理子氏。国交省は「海砂採取と砂浜浸食との因果関係はない」としているが、海砂採取の盛んな地域で砂浜の侵食が起こるのではないかということが経験的に示唆されている。

◆海砂採取のほか、河川改修も砂浜破壊の原因?

⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1372483

 第二の理由としては、「嘉徳川の改修が行われていることも原因の1つとして考えられます」と安部氏は言う。

「嘉徳海岸は特に貝類が豊富で、わずか2時間の調査で60種以上、そのうちレッドデータ種6種が発見されました。オカヤドカリ類や陸貝類がアダン(海岸近くに生育する常緑小高木)林の中に多数生息していることが明らかになっています。今後、詳しく調査する必要があると思っています」(同)

 また、この嘉徳海岸はアカウミガメやアオウミガメの貴重な産卵場所であり、2002年にはウミガメの一種のオサガメが産卵に上がったとの記録がある。

「オサガメの上陸・産卵の記録は、日本ではここだけです。オサガメは2億年前の恐竜の時代からその形を変えていない古代的なウミガメで、現在は世界で厳重な保護が求められています。防波堤建設によって、これらの生態系が崩れてしまうのではないかという懸念があります」(同)

 嘉徳海岸の美しさに魅せられて奄美大島に移住して7年になる、日系フランス人のジョン高木氏はこう語る。

「嘉徳の河川工事は、2013年から毎年2回ほど行われています。最も砂が川から海へ流れ出してしまうのは梅雨の時期なのですが、それより前に1回目の工事が行われます。重機で河口の砂を動かし、川の方向を海まで真っ直ぐにしてしまうんです。その影響で、集落の前に砂が溜まらない状態になっています。

 2回目の河川工事は毎年7月末あたり、ちょうど台風シーズンが始まる頃に行われています。瀬戸内町によると『嘉徳の区長さんからの要望で工事を行っている』とのことです。しかしこの河川工事は、ほかの住民の意見も聞かず、環境の影響調査もせずに4年間行われている。工事が始まってから1年後の2014年、今までに一番ひどい砂浜の大侵食が起こりました」

◆人工的な防波堤をつくる以外にも、砂の流出を止める方法はある

 今年も台風シーズンが始まった。嘉徳のサンドバンク(砂洲)は波から嘉徳海岸の砂浜を守れるのだろうか。

「見た感じでは、サンドバンクはあまりなさそうです。嘉徳海岸は、太古からそのままの自然の営みが感じられる場所です。人間が自然の一部だと感じられる場所なんです。ところが、その地形がどんどん変わっていってしまいました。

 私は、世界でも奇跡的に残されたこの美しい海岸を何とか残していきたいと思い、『奄美の森と川と海岸を守る会』を作りました。人工的な防波堤をつくるのではなく、アダンの植林を進めるなど、砂の減少を食い止める方法はほかにもあります。

 この貴重な環境を失ってから気づいてももう遅い。自然を壊さなくても、嘉徳海岸は守れるのです」

 「奄美の森と川と海岸を守る会」ではアダンの植林をはじめ、嘉徳海岸の自然を守るための協力を広く呼び掛けている。

 8月1日発売の『週刊SPA!』掲載記事「日本から砂浜の9割が消える!」では嘉徳海岸のほか、中田島砂丘(静岡県)、茅ヶ崎海岸(神奈川県)、小泉海岸(宮城県)、泡瀬干潟(沖縄県)などの現状をリポート。世界第6位の海岸線を持つ日本の危機的状況をお伝えする。

取材・文/北村土龍 写真/日本自然保護協会