ロベルト・バウティスタ・アグート【写真:Getty Images】

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反響を呼んだバウティスタ・アグートへの非難、テニス界では以前から問題に…

 男子テニス界はロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダルという二大カリスマの復活によって、世界的に熱を帯びている。しかし、その一方で、7月29日に行われたスイス・オープン準決勝で敗れたロベルト・バウティスタ・アグート(スペイン)がネット上で心ない批判を受ける悲しい出来事もあった。毅然とした立ち上がった姿勢が話題になったが、選手に対する“攻撃”は、テニス界で大きな問題になっている。

「アグート選手だけでなく、プロテニス界ではどのレベルの選手でも、試合直後に誹謗中傷のメッセージがたくさん届きます。あまりに内容がひどく、それが原因でSNSのアカウントを閉じた選手もいます。精神的なトラウマになったり、パフォーマンスに影響を及ぼすことも少なくない。実は、テニス界では以前から大きな問題になっていました」

 こう実情を語ってくれたのは、プロテニス選手の綿貫敬介だ。

 世界ランキング16位のバウティスタ・アグートは、敗戦後に自身のSNSに殺到した厳しいメッセージの数々を公開し、大きな反響を呼んだ。

「残念なことだけど、スポーツの世界は賭け事のせいで汚れつつある。全てを出し尽くした挙句、選手はこれに耐えなければいけないのか」

試合結果に賭けた人々の怒りの“はけ口”、人種差別的なものから家族への発言まで…

 怒りとともに、心ない人々に反論したバウティスタ・アグートは、勝利に持ち金を賭けていた人々が怒りの“はけ口”として、選手のツイッターにメッセージを送って憂さを晴らしていると主張した。これは、綿貫ら他の選手の身にも降りかかる。ツイッターやフェイスブックのメッセンジャーなど、SNSには見るのも嫌になるような声で溢れるという。

「テニスをやめろ」

「お前はガンだ」

「世界一番の負け犬だ」

 綿貫の下にも、目を疑うようなメッセージが届いたことがあるという。ブックメーカーでその試合に持ち金を賭け、負けた人間がそういった行為に出たのではないか、と綿貫は推察する。

「世界各国からほとんど英語で送られてきます。UAEからもひどいメッセージが届いたこともあります。人種差別的な発言もありました。 個人的には、家族に対する罵詈雑言には怒りを覚えました。おそらく、僕の試合結果に持ち金を賭けていた人からのメッセージだったと思います。そこで損をした人ではないかなと。試合に勝ってもこの類の言葉は来ますから」

明確な対策がない現状…選手が目の前の戦いに集中できる環境の整備が必要

 SNSの閉鎖も対策法のひとつだが、そう簡単に踏み切れない事情もあると綿貫は話す。

「どの選手にも契約メーカーが存在し、PRなどのメリットもあります。閉鎖には経済的、そしてブランディング的にもリスクはあるのです。専属のPR担当が付くトッププレーヤーはメディア担当が迅速に対応しますが、それができるのはツアーでほんの一握りではないのでしょうか。現在のテニス界では、誰もが対応しなければいけない問題なのです」

 男子プロテニス協会(ATP)と女子テニス協会(WTA)は、選手を守るためどのような対策を講じているのだろうか。

「現時点では対策はされていません。アグート選手の発言はスペインの新聞でも取り上げられていましたが、これがきっかけで何かが動けばいいかもしれません。このようなことは今後なくなってもらいたいです」

 正々堂々と戦った先に、「勝利」と「敗北」の結末が待っているのが勝負の世界の常。選手が目の前の戦いに集中できる環境を整える必要があるだろう。