北朝鮮の核開発とミサイル発射に対する国際的な締め付けが強まる中、首都・平壌などの富裕層に、意外な形でその影響が及びそうだ。

韓国・仁川と中国を結ぶ国際フェリー10航路のうち、乗客数が最も多かったのが仁川港と中朝国境の丹東を結ぶ航路だったことがわかった。

売春と重労働

韓国の海洋水産省によると、2016年の1年間に仁川と中国を結ぶフェリーを利用した乗客数は92万2000人に達した。その中で乗客数が最も多かったのが仁川と丹東を結ぶ航路で15万4000人が利用した。以下、山東省の石島(15万人)、威海(13万9000人)、大連(9万1000人)の順だった。

朝鮮半島の西海岸沖を北上し、北朝鮮のピダン島をかすめるようにして丹東の東港に入港するこのルートは、白頭山に向かう韓国人観光客や、韓国に向かう中国人観光客の利用が多い。

このルートにはもう一つ、知られざる顔がある。韓国と北朝鮮の首都・平壌を結ぶ宅配ルートになっているのである。その仕組みは次のようなものだ。

中国朝鮮族の商人は、平壌の客から注文を受け、韓国で品物を購入し、午後6時仁川発のフェリーに乗る。翌朝8時(中国時間)に丹東に到着すると、品物は通関を経て、早ければその日のうちに平壌の客の手元に届くという具合だ。

丹東税関周辺には、同様のサービスを行っている運送業者が複数存在すると言われている。

近年、平壌の富裕層にとってこの宅配ルートは、なくてはならないものになっていた。とくにらは、当局が視聴を厳禁している韓流ドラマ・映画をこっそり見ながら、そこで描かれている洗練されたライフスタイルに憧れ、身の回りのものを韓国から調達して「韓流ライフ」を楽しんできたのである。

社会主義をタテマエとしてきた北朝鮮だが、国民経済が実質的に資本主義化する中で、人々の富の格差は拡大の一途をたどっている。

貧困層が重労働や売春でようやく食いつなぐ一方で、富裕層はぜいたく三昧を続けてきたのだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

しかし、それを支えてきた国際フェリー航路の先行きに、暗雲が立ち込めている。

北朝鮮の核・ミサイル開発を警戒する米韓は、最新の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」の在韓米軍への配備を進めている。これに対し中国は、THAADは実質的に自国へ向けられたものであるとして反発。報復として、自国民の韓国ツアーを事実上、禁止した。韓中カーフェリー協会の資料によれば、この措置を受け、仁川と丹東を結ぶ航路の乗客も半分以下に減った。

今のところ船は運航を続けているが、もし航路が廃止されれば、宅配サービスは運賃の高い航空便か、遠回りになる別の航路の利用を強いられることになる。そうなれば、韓国製品好きの平壌の特権階級に少なからぬダメージを与えることになるだろう。