渋谷直角氏が今回の記事のために書き下ろしたイラスト(提供画像)

 ライターで漫画家、コラムニストの渋谷直角とイラストレーターのたなかみさきが7月29日、都内で、漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)の映画化を記念してトークセッションを開催。1時間半に及ぶトークのなかで、たなかは映画について「原作はもともと読んでいたのですが、映画はだいぶエンターテインメント性が強くなっていて面白かった。あと、やっぱり水原希子ちゃん。ミューズが際立っています」とした。

 『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』は2015年に渋谷が発表した漫画作品。「狂わせガール」に翻弄されて、もがき苦しむ主人公を中心に展開するストーリーが大きな反響を呼んだ。この作品が、主演・妻夫木聡、ヒロイン・水原希子で映画化が決定し、9月16日に全国公開される。

 今回のイベントにたなかが登壇したきっかけは、もともと水原がたなかのイラストのファンで、水原のプロデュースでたなかのイラストを起用した映画グッズ制作が決まった事と、原作を初版から読んでいた事であった。

 渋谷とたなかのトークセッションは、その後、絵の話へ。渋谷が「絵の上手い女性に対するコンプレックスがあって。美術の専門学校に通っていたんですけど、最初から『敵わないな』という憧れがあった」と明かすと、たなかは「でも、上手ければ良いというものでもないですよね。上手くてもつまらない絵もあるし、技術的に至らない点はあっても惹きつける絵もある。不思議ですよね」と述べた。また、渋谷が絵を描くペースについてたなかに問うと「全然時間はかかりません。いまはとにかく描くのが楽しくて仕方ない時期なのかも。1日何枚も描いて、できたらすぐにインスタグラムに上げたり」と答えた。

サイン会の一景(提供写真)

 最初は探り探りだったトークセッションは段々と、作品内容に触れながらグルーヴしていく。その様子に参加者は引き込まれている様子だった。この映画化に際して発売された漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版』に関しては、渋谷が「初版では最後までわからない箇所を残すという意図でヒロインについてはあえてあまり描き込まなかったんです。でも、映画化にあたり、大根仁監督が脚本を書くために、もっとヒロインについてのエピソードを加筆してほしいと言われて。そのときに加筆したものが完全版の元になっています」経緯を説明。すると、たなかは「完全版を読んで、あかり(ヒロイン)がよりミステリアスな印象になりました。妄想する余地がある初版も楽しかったけど、完全版も面白い」と感想を述べた。

 また、インスタグラムのフォロワーが20万人いるたなかに対し、渋谷が「なぜそんなに増えるんですか?」と質問すると、たなかは「特別なことをしているわけではなく、シンプルに、皆さん絵を観てくださっているのかなあと思っています。自分が手応えのある絵を載せると、フォロワーが少しずつ増える。その繰り返しでいつのまにか、という感じです」と応答。続けて「イラストを見てくれている人への感謝と謙虚さを忘れずにいたい」と真面目な意見を重ねた。それを受けた渋谷は「僕が絵を描いても、フォロワー減りますよ……」と自虐で笑いを誘い、「たなかさんの絵は、80年代っぽいテイストに一見思われがちだけど、ちゃんと今の絵に昇華されていて、自分独自のモノになっているのが凄いと思う」と感想を述べた。

 互いの過去の話については、渋谷が「たなかさんはいま24歳ですよね。僕が24歳のときは、まだライターとして駆け出しで、失敗ばかりしていました」と振り返ると、たなかは「学生のころは版画をやっていたんですけど、なかなかオリジナリティのある作品はつくれないでいました。『このままやったらダサいかも』と思って。まずは雑誌の挿し絵になれるような絵を描いたほうが良いと思って、ガラッと絵柄を変えたんです。それが大学3年生。その時から誰かの真似ではない自分の絵だという自信が付きました」と自身のターニングポイントを紹介した。

イベントの一景(提供写真)

 さらに映画や、劇中のヒロイン役である女優・水原希子についても2人は言及。たなかは、映画版について「原作とは違って、エンターテインメント性が強く出ているのが面白い。映像化するとこんなにギャップがあるんだなと思いました。かなり華やかな感じ。ポスターもギラギラしていますよね。あと、やっぱり水原希子ちゃん。ミューズが際立っています」と発言。渋谷も「たぶん、観た人の98%の人は『水原希子ヤバイね』という感想がまず最初に出るくらい気持ちを持っていかれると思う。大根監督は最初から『いける!』というのがあったんでしょうね。『水原さんはお尻が良い!』とも言っていて、映画では水原さんのバックショットもたくさんありました」と興奮ぎみ。

 実際に、「狂わせガール」に翻弄されてしまった経験もあるという渋谷は「好きな女の子がほかの男に会いに行くのを見送ってから自分は家に帰って、『ぷよぷよ』をやりながらオリジナル・ラブの『フェアウェル フェアウェル』という曲を聴いて泣いたりしていました」とユーモア交じりに明かした。この様な経験について「妻夫木さんも『自分にも似たような経験がある』と話していたので、みんな何かしらそういった思い出はあるんだな、と。大根さんももちろんあるでしょうし、皆『あのときの気持ちを形にしよう』という想いもあったのかもしれません」と述べた。

 また渋谷は、奥田民生について問われると「最初はサザンオールスターズが好きで、その後ユニコーンも好きになりました。そして、ソロになってからますます奥田民生の存在が目立ってきましたよね」と述べ、「だんだん力を抜いた感じのキャラクターになっていって、皆の憧れになっていったと思うんです。自分は民生一筋というわけではなかったですけど、発売日には必ずCDを買っていました」と振り返った。

イベントの一景(提供写真)

 さらに渋谷は、奥田民生へのインタビュー経験を振り返り「自分が若い頃は、民生さんの飄々とした感じが掴めなかったです。『桃が好き』『桃がまだ固い、みたいなのがいい』とか最初はおっしゃってて、でもだんだん、『まあ、別に桃じゃなくてもいい』みたいな話になっていって。最終的に『何でもいいんだよね』みたいな結論になるんです。聴いていると超面白いんだけど、原稿にまとめるのがとても難しい。ライターはどうしても強い言葉を求めるから。なので、当時はこういう人には決してなれないんじゃないかって思っていたけど、自分も歳を重ねていってお話を聞くと、民生さんのその感じがだんだん理解できるようになって。あらためてその存在が大きく感じられるようになりましたね」と回想した。

 様々な話題を経て、1時間半に及ぶトークセッションが終了。その後は渋谷・たなかによるサイン会もおこなわれた。(取材・撮影=小池直也)