お気に入りのプラモデルを手にする石坂浩二

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 ◇夢中論 石坂浩二

 息をのみ、ルーペ越しにごく小さな部品と対峙(たいじ)する。俳優の石坂浩二(76)は60年以上、プラモデル作りを愛してやまない。完成した時の達成感のみに満足するのではなく「夢中とは、自分そのものを探ること」と語るように、己の生き方をも投影する。人生において“夢中になる”ということがいかに尊いか。その意義を語る。

 先月26日、東京・池袋の東武百貨店。石坂は組み上げたばかりのプラモデルを携えて現れた。第2次世界大戦中の英戦闘機「スーパーマリン スピットファイア」の、今にも飛び立たんばかりの精巧さ。「エンジン部の部品はかなり小さいんですよ」と話すと、満足げに陳列棚を眺めた。

 会長を務めるプラモデルクラブ「ろうがんず」が参加する、同百貨店の展示「タミヤモデラーズギャラリー」(きょう1日まで)に2作品を出品。7月中は仕事に区切りを付け制作に専念した。

 「朝から3時間くらいやって、飯と犬の散歩。午後に少しやって本番は夜。8時から深夜1時くらいまではやりました」。これを20日以上繰り返し、ようやく2作だ。

 まずランナー(枠)から部品を切り離し切り跡を徹底的に磨く。部品は、最も細いもので太さ0・5ミリ。破損しないよう仕上げる。小さな部品はピンセットで接着。「小さな部品はよく消えてなくなる。制作時間の半分は捜し物」と笑う。仕上げは塗装。「ここに個性が出る」。油絵の具や鉛筆まで使い、本物らしい風合いを出す。

 プラモデルとの出合いは高校時代。当時主流の木製模型にない、透明のパーツに心引かれると、すぐ奥深い世界に魅了された。

 「不思議なもので、実機をそのまま縮小すると実物らしくならない。だからプラモデルは、機体の特徴をデフォルメしてあるんですよ。そこに型を作る人の個性が出る。だから同じ機体でも、いろんなメーカーのものを作りたくなる」と話す。組み立て作業は「型を作った人や、箱の絵を描いた人との対話だと思っています」。無機質なプラスチックの中に、血の通った愛情や温かさを見いだす。

 プラモデル以外にも多趣味で知られる。料理は、カレーをスパイスから調合する腕前。絵画は東郷青児氏の手ほどきをうけ、二科展入賞経験も。「どれも極めてなんかないですけど、極めていく方向には向かっている」と自身の傾向を語る。

 「数学も好き。素数って、ありますよね。今や二十何兆ケタまで探されているが、その法則性にたどり着いた人は誰もいない。こういう好奇心にひっかかるものを、長年忘れず突き詰めている」

 時には趣味が仕事の窮地を救ったことも。セリフが出てこず、スランプに陥ったとき、弓術にヒントを得た。「矢を放つ瞬間が難しい。一瞬に集中しなければならず、だらだらやればやるほどダメというのはセリフ覚えと共通する」。矢の軌道がよくなるとともに、スランプも消えた。

 どんな事柄でも、追究すれば奥深い。「プラモデルにしても、完璧というものができることはない」。むろん「最も奥深いのは人生そのもの」と話すが、「夢中な事を突き詰めていくと、やがて人生と一体化する」と趣味の力を力説。「趣味を通じて自分のことを探っていくというのが夢中」と持論を語った。

 昨年7月には公私に親交の深かった大橋巨泉さんが亡くなった。シニア向け昼帯ドラマとして話題の、テレビ朝日「やすらぎの郷」(月〜金曜後0・30)で共演した野際陽子さんも6月に死去した。「死という現実が、より身近に感じるようになった」と振り返りつつも「人生観は変わらない」という。

 戦時中だった4歳ごろ空襲を経験。前の日に遊んだ子が亡くなるなどした。死の瞬間なんていつ来るかわからない。そんな観念が根付いた。「人生には区切りのつけようがないという答えに落ち着いた」。巨泉さんも、還暦を過ぎてから美術に開眼するなど人生を謳歌(おうか)した。石坂のプラモデルには人生賛歌が詰まっている。