なぜ女性は化粧をしなければならないのか?

写真拡大

先日「なぜ男性は化粧をしないのか?」という記事をリリースしたが、多くの読者から「なぜ女性は化粧しなければならないのか」という質問が寄せられた。そこには化粧をするのが面倒臭い、男性と比べて不公平だ、といった気持ちが透けてみえる。皆さんの期待に応えるべく、駒沢女子大学教授・資生堂客員研究員の石田かおりさんにあらためて話を聞いてみた。

■親や夫の社会的地位に応じた外見美

前回の記事で、国家レベルで男女の性別役割分担(ジェンダーロール)を決めた明治維新から男性が化粧をしなくなった歴史を紹介し、背景には「勤労のために装飾は不要」との考え方があったことを説明した。

女性が化粧をしなければならない理由にも、この役割分担が影響しているのだろうか。

石田さんは「お察しの通りです。男女の役割分担に応じて外見表現も分けられ、女性は勤労(お金を稼ぐ労働)以外の部分を担うことになりました」と述べる。

そして「財力のある男性に養われる女性は、そうした親や夫の社会的地位に応じたそれにふさわしい品格ある外見表現が求められるようになりました」(石田さん)。この外見表現に化粧も含まれるのだ。

やがて「トロフィーワイフ、玉の輿をめざして自己研鑽に励み、服装や化粧といった外見美を熱心に磨く人も出てきました」と石田さん。財力のある男性の“ステイタスシンボル”として選んでもらえるよう努力する女性たちが現れるのも自然の成り行きだったのだろう。

■「化粧は成人の礼儀」という風習

石田さんは、女性ならではの事情として「かつて男女ともに化粧した貴族の時代に確立した『化粧は成人の礼儀』という風習」を挙げる。この風習は化粧の社会的意味として貴族階級から次第に下々の階級に広がり、明治になるまでには全国民的なコンセンサスになったそうだ。

「江戸時代から次第に男性が化粧をしなくなっても『化粧は成人の礼儀』という意識は根強く続きました」と石田さん。「とくに江戸時代には儒教(朱子学)の教えに基づいた為政者(政治を行う者)が推奨する女性道徳と結びつき、『化粧は成人女性の礼儀』が武家や町衆の間で確立します」と史実を紹介する。

女性道徳とは、江戸中期に女子教訓書として広まり、「女三界に家なし」の語句で有名な、未婚のときには父親、結婚したら夫、夫が隠居したら長男への服従を説いた『女大学』がその代表例になるとのことだ。

石田さんは「明治維新の近代化で男女の社会的役割分担により明確に女性だけが化粧する時代になっても『化粧の意味は成人女性の礼儀』が続き、現代でも生きています」とみている。

■就活メイクが典型的な事例

さて、現代に目を移そう。

石田さんは「1995年頃から化粧開始年齢が低下し始めたことから『化粧は成人女性の礼儀』の中から『成人』の部分が抜けてしまいました」と話す。同時に「化粧は自己表現」という意識もその頃から急上昇したそうだ。

一方、「現在では礼儀作法が化粧の第一義ではない」と断ったうえで、「『なぜ化粧をするのか』と尋ねられた女性の回答に、礼儀作法は根強く残り続けています」と明かす。

典型的な例として、石田さんは「就活メイク」を挙げ、「求職者はスッピンでも派手な化粧でも面接に行かれません。職種や職場に応じたメイクが求められます」と理由を説明。なるほど、説得力がある。

複数のファンデーション、チークを駆使して顔の陰影を強調。眉毛を抜いて細筆で描き直した上、アイシャドーでパッチリとした目に……。眺めているだけでも、実に大変な作業であることが分かる。

TPOに合わせた化粧ができなければ、礼儀知らずになってしまうとは、なんとも気の毒な話だ。手先が不器用な筆者は、男に生まれて本当によかったと思ってしまったが……。

石田さんが「男性もTPOに合わせた髪型・服装や、デオドラントなどのエチケット行為が求められており、それでも足りずに美肌を求めてエステやスキンケアに励む人が増えているように、女性の化粧を他人事だと言えない時代になっています」と指摘する。

考えてみればその通りだ。これからは女性を見習ってより一層身だしなみに気を使いたい。

●専門家プロフィール:石田かおり
駒沢女子大学教授・資生堂客員研究員。お茶の水女子大学大学院修了。学習院女子大学、日本女子大学、早稲田大学の非常勤講師も務めた。専門は哲学的化粧論・身体文化論。著書は『おしゃれの哲学』(理想社)『化粧せずには生きられない人間の歴史』(講談社現代新書)など多数。

(武藤章宏)

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)