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藤村岳の「男美均整のミナオシ」



「通常、男性がめったに触れないであろうコスメや身だしなみの最新情報や技術などを紹介し、日々の生活を新しい視点から見直せるようにしたい」という、男性美容研究家・藤村岳が、一流男子の所作や振る舞い、装いを身につけることの大切さを毎月綴る。

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香水と時計はよく似ている。クオーツか機械式か、エタブリスールかマニファクチュールかなど、買うときに考えるだろう。ブランドは? デザインは? 機能はもちろん重要だが、そのルックスやヒストリーが選ぶ上で重要。香水も似ていて、出自には大きく分けて、2つの種類がある。香調や香料の濃度での区分もあるが作るブランドによっても分けることができ、ここが時計と似ているのだ。

ファッションなどの香水以外をメインとするブランドが展開しているものと、香水専業ブランドのもの。後者を特にメゾンフレグランスと呼び、珍重する。

実は今、メゾンフレグランスが絶好調。今回は読者諸賢にとってはあまりなじみがないかもしれない、香水の世界へご案内しよう。

高級品が激売れ!

20万円超香水も登場



夏は香水の季節。薄着になり、肌を露出するとそこに香りを乗せたくなる。軽めのシトラスや水を連想させるアクアティックな香りは日本人にも似合う。長い間、日本では無臭信仰と思われてきたが、若い世代を中心に香りを楽しむ人が増えている。昨今の香り付き柔軟剤ブームは男性にも多くファンがいるし、何しろ香道という日本独自の香りを楽しむ文化さえある。

若い頃は香水を楽しんでいたという人も多いはず。20年以上前に出たジバンシイの「ウルトラマリン」は今でも人気だし、一世を風靡したカルバン クラインの「CK ONE」も健在だ。これらファッション系の香水はそのブランド力や広告力で広く人口に膾炙している。無論、香りが素晴らしいのは言うまでもないが。

そんな中で、メゾンフレグランスが売れている理由はなんだろう? 幅広い香水を扱う商社・ブルーベル・ジャパンの松塚雅代さんによると「性別や世代を問わず、本質的なもの好まれる方は、メゾンフレグランスの持つストーリーに高い関心と魅力を感じていただいているようです」とのこと。そう、自分だけが知っていると思わせる、ニッチさが魅力だと筆者も思っている。

実際、銀座シックスでは今もっとも注目を集めているメゾン系の旗手・フランシス クルジャンの「アクア ユニヴェルサリス エキストレ ドゥ パルファム」が20万円もすると話題に。またチャーチル英国首相が愛用したペンハリガンも好調な売れ行きだそう。



▲GINZA SIX内のフレグランスショップ、サロン デ パルファムでのみ販売されている『メゾン フランシス クルジャン アクア ユニヴェルサリス エキストレ ドゥ パルファム』20万円(70ml)。

カウンセリングで

似合う香水が見つかる



また、フレグランスアドバイザーのMAHOさんは「グローバルな評価を得ながらも、独自性や職人気質、限定性といった価値を併せ持つから」と分析する。たしかにメゾンフレグランスはファッション系と比べると大量生産をしないことが多い。小ロットであれば高品質で希少な香料を使うことも可能。そういう点もまた大人の所有欲をくすぐる。

さらに前述のMAHOさんはパーソナルカウンセリングを行っており、エグゼクティブが自分に似合う香りを求めて足繁く通っているそうだ。その時に先入観を与えないためブランド名を伏せ、ブラインドで香りを試してもらう。時として我々は擦り込まれたブランドイメージに邪魔されて香りに集中できなくなる。そうすると、こだわりの詰まったメゾンフレグランスを選ぶことも多いのだとか。



▲フレグランスアドバイザー・MAHOさん主宰するプライベートトワレ。「パーソナル フレグランス セレクト」は120分で1万800円。予約はこちらから。

最新の科学と南米の

伝統的な植物の融合



さて、筆者が今、もっとも注目しているメゾン系香水がアルゼンチン発の“フエギア 1833”だ。そもそもアルゼンチンの香水とはかなり異端で本場はやはり仏・伊を中心とした欧州。このブランドはインスピレーションや香料は南米から、そして生産及び研究所はイタリアでというハイブリッドな方式を採っている。ローカル色がありながらグローバルでもある。

そこで先日、来日した調香師のジュリアン・ベデル氏にインタビューをしてきた。彼にもなぜ、高価なメゾンフレグランスが人気なのかを尋ねてみると「この10年で“個”の表現が様々になされるようになりました。香りもそのひとつで、自分らしさを追究すると、他人とかぶらないものを求める人たちに響くのがそういう香り」とのこと。



▲来日した調香師のジュリアン・ベデル氏に筆者がインタビューを行った。日本で唯一の「FUEGUIA 1833」のフラッグシップショップはグランド ハイアット 東京の1Fにある。

以前も書いたが、嗅覚は脳の中でも生きることに直結する大脳辺縁系に作用する。纏う香りでその人となりが判断されてしまうこともある。だからこそ、欧米人はアイデンティティの表現として香水を利用する。

そんな状況を鑑みて、ジュリアンは新作を作った。それは“ムスカラ”というシリーズで、人間の原始的な欲求へと訴えかける。

この基になったのがクロアチアのノーベル賞を受賞した有機化学者のレオポルト・ルジチカの性ホルモンの研究。それに同じくノーベル医学生理学賞を取ったアメリカの生物学者リンダ・バックとリチャード・アクセルの嗅覚感覚の分子メカニズムの研究。この二つのリサーチに加え、ベデルは人類の経験的な知識により催淫効果を持つとされる南米の植物を研究した新しい香水を生み出した。

そう、ムスカラは女性も男性も性的な魅力を出すフェロモンを味方につけた。フェロモンを察知するヤコブソン器官(鋤鼻器)は人間では退化してしまったとされていたが、近年の研究では異なる説が唱えられている。フェロモンの可能性は未知数だ。飽くなき探究心やこだわりはメゾンフレグランスでなければなかなか実現できない。

最近、日常に追われて元気がないそんな我々のためにとっておきの1本を選んでもらった。「ムスカラ ボスウェリア」がそれ。この香気分子の構造は男性ホルモンのテストステロンに似ている。使っている原料はもちろん合成ではなく、神聖な香木として宗教儀式に使われていたもの。実際、香りを纏うと力強さが漲ってくるようだ。

たまにはブランドでなく香りを優先し、自分の嗅覚と鋤鼻器に任せてみよう。そこには貴方をアップデートする新たな出合いがあるかもしれない。



▲ベデル氏の意欲的な新作・ムスカラ。官能的な香料のムスクと仮面という意味のマスカラを合わせた造語。紹介した「ムスカラ ボスウェリア」3万4400円(100ml)の他にも多数ある。10月27日より発売予定。

文/藤村岳

藤村岳/大学卒業後、編集者を経て独立。シェービングを中心に据えた独自の男性美容理論で、総合情報サイトAll Aboutの「メンズコスメ」ガイドなどとして活躍中。最新著書に『一流の男はなぜ爪を手入れするのか?』(宝島社)がある。

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋

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男性美容研究所 藤村岳danbiken.net