北朝鮮で市場経済化が進むにつれ、住み慣れた農村を出て、都会へ向かう人々が増えつつある。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK情報筋によると、典型的な離農の舞台となっている地域が道内の定州(チョンジュ)市だという。十二三千里平野と呼ばれる北朝鮮最大の穀倉地帯の北端にあり、海と山に囲まれ交通の便もよく、本来なら非常に豊かな地域だ。

規制をかいくぐり

定州の国営農場で働いてきた50代のリさんは、農場での仕事の傍ら、市場でも商売をして生計を立てていたが、都会へ向かうことにした。

情報筋によると、このような離農は数年前から増え、日照りにより作況が悪い今年は急増している。定州では若い男性の半分以上が、家族を食べさせるために故郷を離れた。女性も同様だが、地方政府の幹部は対策を立てることができていない。

離農の最大の原因は、市場経済化の波にうまく乗った都会と、立ち遅れた農村との経済格差がますます拡大していることにある。

幹部はぬくぬくと

北朝鮮では本来、当局の許可なくしては都会への引っ越しはおろか、道の境を越えて移動することすらできない。それでも首都に対する憧れやカネを儲けたいとの心理から、当局の規制をかいくぐって平壌に住む「違法居住」が増加しているという。

とくに平壌に住むには当局の厳格な選別を受けなければならないのだが、賄賂を受け取って違法居住を黙認する取り締まり機関の腐敗が、これを有名無実化させているのである。

そのようにして都会へ出て、建設現場で1ヶ月働けば、それなりの給料がもらえる。しかし農場で1年間懸命に働いても、秋の収穫の時期にもらえる分配は都会の1ヶ月分の給料にも満たない。

金正恩党委員長は、農地の一部を農民個人に任せて、収穫に応じて秋の分配量を決める圃田担当制を導入した。しかし、約束された量がもらえないこともあり、成功とは言えない状況だ。

平安北道は兵士の数が多い地域であるため、定州の農場からは多くのコメが軍向けに供出させられ、あまり残らないことも分配量が少ない理由の一つだ。

地域によっては、農場より個人耕作地での換金作物の栽培に一所懸命になっている人もいる。情報筋は言及していないが、定州では何らかの事情でそれも難しいようだ。また、大規模農地での集団作業が多いため、農場員が市場で商売することは公には認められていない。

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現地においても、都会でひと儲けしてきた人は家を建て替えている。

幹部は不正を働き、ぬくぬくと暮らしている。だからと言って、不満を口にすることは許されない。そこで、消極的な抵抗として農場を離れ、都会に向かうのだ。

都会に向かう以外にも、行商人になって全国を転々とする人、漁港や金鉱で働く人もいるという。

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