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東京・日本橋の真上を走る首都高速道路を地下化するプロジェクトが動き出すことになりました。国土交通省と東京都、首都高速道路株式会社が共同で具体策の検討を始めることになったもので、2020年の東京五輪・パラリンピック後に工事を開始する見込みです。

○日本橋周辺の高速道路地下化プロジェクトとは?

日本橋はよく知られるように、江戸時代には東海道など五街道の起点で、周辺は江戸文化の中心地でした。現在の日本橋は1911年(明治44年)に建設されたもので、国の重要文化財にも指定されている歴史的建築物です。しかし1964年の東京五輪開催に向けて首都高速道路が建設された際、日本橋のすぐ真上を走る構造となったため、橋の景観が損なわれる状態となっています。

このため地元では以前から、日本橋周辺の高速道路地下化を要望する声が強く、経済界や有識者の間からも何度か提言が出されてきましたが、高額な費用が必要になることや技術的な問題などから、具体化されずにいました。しかし2014年に首都高速道路株式会社が日本橋周辺区間を含めた首都高の大規模更新計画を策定し、昨年には日本橋周辺で進むまちづくり事業が国家戦略特区の都市再生プロジェクトに指定されたことなどから、この機をとらえて地下化の具体化進めることになりました。

今後、国と東京都、首都高の3者が、地下化の対象区間や構造などについて具体的な計画案を作成するということです。報道によりますと、地下化区間は竹橋付近から日本橋を挟んで江戸橋付近とする案が出ているそうで、事業費は数千億円が見込まれています。完成までには10〜20年かかると見られます。

○高速道路地下化の重要な意義とは?

このように日本橋周辺の高速道路地下化は、日本橋の景観を抜本的に改善する大規模プロジェクトとなり、日本橋地域の再開発促進と活性化に大きな効果があることは間違いありません。と同時にそれは日本橋ローカルにとどまらず、東京と日本全体にとっても重要な意義が3つあります。

第1は、東京に根づく歴史と文化の価値を高め、国際観光都市としての魅力をアップさせることの重要性です。日本橋について言うなら、その地名はきわめて有名ですが、日本橋そのものの文化的・歴史的価値については意外と知られていないのが実情です。

現在の日本橋はルネッサンス様式の石造り二連アーチ構造で、橋上には青銅製の燈注6基が建ち、獅子像や麒麟像が橋の守護と東京の繁栄を表しています。橋全体が和洋折衷の造形美にあふれており、まさに重要文化財にふさわしいものです。橋の4隅のたもとにある銘板に「日本橋」と「にほんばし」の文字が刻まれていますが、これは現在の日本橋に架け替えられた際(1911年)に73歳となっていた最後の将軍・徳川慶喜が揮ごうしたもので、江戸時代から今日に至る橋の歴史をつないでいます。橋の北詰東側には「日本橋魚市場発祥の地」の石碑があり、江戸時代に栄えた魚河岸の名残をとどめています。

このような価値を持つ日本橋ですが、そのすぐ真上を高速道路が覆いかぶさるように走っているため、その魅力が十分に発揮されているとは言えません。高速道路の地下化は日本橋の観光価値を高めることは間違いありませんし、橋だけでなく周辺地域の魅力を高めることにもつながります。

現在、日本橋の下を流れる日本橋川の真上を高速道路が走っており、川の中には高速道路の橋脚が何本も立ち並んでいます。川の両岸は雑然としたビルの裏側のような風景で、川には多くのゴミが浮かんでいる状態です(それでも以前に比べれば、川はきれいになりましたが)。しかし高速道路の地下化によって、川沿い一帯を遊歩道として整備し、川岸にはテラス式の飲食店やカフェをそろえるなどすれば、日本橋周辺が東京を代表する観光地になるはずです。

東京を訪れる外国人の数は年々増加し、都内には江戸文化や歴史を楽しめる観光名所も数多くあります。また東京には橋の名がつく地名が多いことでもわかるように多くの川が流れており、水辺を生かした観光開発や都市づくりの余地がもっとあるはずです。日本橋の高速道路地下化は、東京が持つさまざまな観光資源をもっと深掘りして可能性をもっと広げる契機になるでしょう。

第2は、国際金融都市としての東京の魅力度アップです。日本橋周辺では近年、再開発で新しい高層ビルが次々と完成しており、現在も5つの都市再開発事業が進行中です。日本橋はもともと日銀本店や兜町に近いことから金融機関や証券会社が多く立地していますが、最近は外資系金融機関や新しい金融サービス化などの企業の進出が相次いでいます。日本橋の高速道路地下化と周辺地域の再開発を連動させることによって、日本橋地域は都心の新しい顔に生まれ変わることになります。それは同時に、東京の金融都市としての機能強化につながるものです。

実は、東京は金融都市の国際競争では後れをとっているのが現実です。ある調査によれば、東京の国際金融都市ランキングは5位で、ロンドン(1位)、ニューヨーク(2位)だけでなく、シンガポール(3位)、香港(4位)より下位に甘んじています。この調査はグローバルに業務を展開する金融機関で働く人3000人へのアンケートをもとに世界主要都市の評価を得点で表したもので、東京は上位4都市に比べてビジネス環境やインフラ整備などが劣っているという結果となっています。

こうした現状からの巻き返しを図るため、東京都の小池知事は、「国際金融都市・東京の実現」を重点政策のひとつとして掲げています。大手町から日本橋などを国際金融の中核地域を位置づけ、金融機関の誘致やフィンテック(金融とITを融合したサービスなど)関連企業の立地・育成をめざしています。当面は、2020年の東京五輪・パラリンピックを節目に想定していますが、その後も含めた息の長い政策であり、日本橋のプロジェクトはハード面から後押しすることが期待されます。

第3は、公共投資や都市整備の新しいモデルになりうるという点です。従来のインフラ整備では都市景観は二の次にされるケースが多くありましたが、これからの都市開発では景観が重要な要素となります。これは「電柱の地下化」とも相通ずるものがあります。小池知事は記者会見で「都政の情報については『見える化』を推進しているが、インフラではできるだけ『見えない化』をして、100年後にも誇れる東京の姿を未来に残していきたい」と語っています。

1964年の東京五輪は高度経済成長型の都市開発を推進しましたが、2020年の東京五輪・パラリンピックとその後の都市づくりでは、成熟化社会にふさわしい都市の姿を示し後世に残すことが求められています。老朽化したインフラの更新、環境への配慮、ダイバーシティ、グローバル化など、課題は数多くありますが、日本橋のプロジェクトはそれらすべてに対応する取り組みでもあると言えるでしょう。

問題は地下化工事の費用です。現在までに報道されている事業規模は数千億円。しかし具体化していけばもっと膨れ上がる可能性があり、国、東京都、首都高速道路の3社の費用分担が難題となりそうです。民間資金の活用も必要になるかもしれません。壮大なプロジェクトだけに関係者の知恵を集めることが必要になりそうです。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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