世界的に急速な普及が進んだ携帯電話やスマートフォン。それらの端末を用いる「Apple pay」「LINE Pay」などの決済サービスも利用者を増やしているという。最近は日本でも目にすることが増えてきたこれらのサービスだが、諸外国を見渡すと、日本のモバイル決済の普及が遅れを取っている状況が見えてくる。

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先進国に比べてモバイル決済が進む新興国や途上国

日本銀行決済機構局が6月に発表した「決済システムレポート」によると、日本で携帯電話やスマートフォンを読み取り機にかざし、店頭でのモバイル決済を行う機能を「利用している」と答えた人は、調査全体の6%となっている。

一方、中国の都市部の消費者を対象に実施された調査によれば、回答者の98.3%が過去3ヶ月間にモバイル決済を「利用した」と回答している。また、ケニアでは、携帯電話加入者の約 76.8%(2015年6月)がモバイル決済を利用しているとの調査結果が出ており、日本のモバイル決済利用が進んでいないことがわかる。

代表的な先進国としてアメリカやドイツの例を見てみると、連邦準備制度理事会が 2015年11月に実施した調査、およびドイツのブンデスバンクが2014年5月に実施した調査によれば、アメリカでは5.3%、ドイツでは2%と、モバイル決済を利用していると回答した人の割合は日本同様に決して高くない結果となっている。先進国よりも一部の新興国や途上国においてモバイル決済が急速に広がっていることがわかる。

これらの国で急速に普及が進んだ背景には、銀行などの金融インフラや固定電話網の整備が十分ではなかったところに、携帯電話が浸透したことが挙げられる。

モバイル決済が普及しているケニアの「M-PESA(エムペサ)」を見てみると、通話やショートメッセージなどの基本的な機能しかない携帯電話でもSIMカードに口座情報が紐づいており、銀行口座の役割を果たす。送金はSMSで行い、受信したメッセージを取次店に持っていけば現金を入手できるという簡便な仕組みも普及が進んだ要因となっているようだ。

中国を例に見てみると、2016年のモバイル決済額が約627兆円に達したと英紙「フィナンシャル・タイムズ」が報じている。また、4月にBetter Than Cash Allianceより発表されたレポートによると、ECサイトAlibaba(アリババ)が提供する「Alipay(アリペイ)」と、中国人の6億人が毎日利用しているというコミュニケーションアプリのWeChat(ウィーチャット)が提供する「WeChat Pay(ウィーチャット ペイ)」の決済額だけで2016年には約320兆円を超えたとのデータもある。

どちらもスマートフォンアプリと連動した決済方法となっており、店頭でQRコードをかざすだけで決済が完了するという気軽さもこれだけの利用者拡大に寄与していると考えられる。

2016年には「Alipay」と「WeChat Pay」で約320兆円を超えた中国のモバイル決済額


観光立国を掲げる日本。失速するインバウンド消費の後押しとするために

2013年以降、爆発的に伸びている中国のモバイル決済だが、この勢いを活かしたいのが日本のインバウンド消費ではないだろうか。2020年の東京オリンピックに向けて、訪日外国人客数、インバウンド消費額は年々増えている。官公庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、2016年の訪日外国人旅行消費額は、前年の3兆4,771億円に比べ7.8%増加し、3兆7,476億円になったと発表している。

しかし、訪日外国人客1人当たりの旅行支出は15万5,896円と、前年に比べ11.5%減っているのだ。背景には中国人による“爆買い”の失速が考えられる。2016年の中国人における1人当たり旅行支出額は231,504円と、前年比18.4%のマイナスとなっている。

官公庁「訪日外国人消費動向調査」(2016年)


それでも国別の消費割合を見てみれば、日本における訪日外国人客全体の4割ほどの旅行支出額を占める中国からの影響は大きい。中国人1人当たりの旅行支出を増やす事が出来れば、全体のインバウンド消費額増加へ直結すると考えられる。

官公庁が行なった外国人旅行者に対するアンケートなどを見ると、両替やクレジットカード利用といった支払いに関する不満の声もあがっている。その対策として、中国で爆発的に増えている決済方法のモバイル決済を取り入れる事が、インバウンド消費を後押しする材料のひとつになるのではないだろうか。

古い体制を乗り越え、モバイル決済普及が日本の機会損失防止に

インバウンド消費を後押しするためにも重要なモバイル決済だが、日本におけるインフラは整備されていないのが現状だ。その背景には日本ならではの古い体制にも問題があると考えられる。日本の法律上、銀行以外は「送金」という行為そのものがNGだった。

2010年4月1日に施行された資金決済法によって「資金移動業」の届け出を行えば、一般企業でもインターネットやモバイルを通じた送金などのサービスが行えるようになった。

法的な部分では素地が整いつつあるが、送金された額を現金として引き出す際は、資金を受領したレシートなどの受取証書の交付が義務づけられているなど、諸外国のように簡便な仕組みとは言えず、普及への障害となっている事は否めない。

また小売店などがモバイル決済に対応する為にはQRコードを読み取るための端末を導入する必要がある。さらに消費者庁が2016年6月に行なった「オンライン決済、スマホ決済の動向整理」によれば、スマートフォンによる決済に関して「知らなかったし、利用したことはない」と回答した人が8割を超えているというデータもあり、認知度をあげる必要もある。

これらの課題を解決していくには、海外で普及しているモバイル決済に対応した端末の導入に補助金を出したり、モバイル決済に関する認知度を上げる施策を打ったりするなど、国を挙げた取り組みが必要になってくるのではないだろうか。観光立国を掲げる日本にとって、海外で急激に増えているモバイル決済の流れを無視し、機会損失を続けるか、上手くインバウンド消費を加速させるかは国策にかかっている。

筆者:IoT Today