結論を先に書くと、できるだけ大きなスクリーンで、なおかつ、できるだけすごくよい音響設備を整えている映画館、要するにIMAXで見る価値が「ダンケルク」にはあります。今回、完成披露試写会を「109シネマズ大阪エキスポシティ」のシアター11、日本で唯一のIMAX次世代レーザーで見たのですが、映像もさることながら、まさかここまで圧倒的に「音」で魅せてくる映画だとは予想外でした。

以下、一切ストーリーの詳細なネタバレはないのですが、そもそも我々はダンケルクの戦いの後の時代に生きており、戦いの結果、どうなったのかは世界史を学校で学んだ者ならば知っているはず。というか映画のストーリーとかキャッチフレーズに「史上最大の救出作戦」と明記されています。「救出」であって「全滅」ではないのです。だから、大きな意味ではネタバレを最初から喰らいまくった状態で映画を見ることになると言っても過言ではなく、ダンケルクに追い詰められたイギリス・フランスの兵たち40万人を完全包囲された状態から可能な限り脱出させる、そういう物語だからです。

つまり、以下の予告編は極めて正しい。あまりにも度を超えてネタバレ満載の予告編の場合、初見の「未知の楽しみ」を奪うことになりかねないのですが、ダンケルクにその心配は無用。むしろ最初からネタバレ済みの結末に至る「過程」を味わう映画となっています。

映画『ダンケルク』本予告【HD】2017年9月9日(土)公開 - YouTube

が、わかっている部分はあくまでも歴史的な大枠、要するに「マクロ」的な視点に立った場合であって、実際にダンケルクにいた全員が助かったわけではないのです。「ミクロ」的視点で見れば、無事に脱出できた人もいれば、そうではない人もいます。歴史的な視点で見れば「●●万人が生き残り、●●万人が死んだ」となるのですが、実際に誰が生き残り、誰が死ぬのか、それは「ダンケルク」を見るまではわからないという仕掛け。そういう「実際に誰が死んで誰が生き残るのかがまったくわからない」というのが「ダンケルク」はとにかく徹底しており、どれぐらい徹底しているのかというと、大きく以下の4点にまとめられます。

1:冒頭の包囲網からヤバさしかない、絶望的な戦場に叩き込まれる

2:絶望の原因は「海」と「空」、迫り来る「顔の見えない敵」

3:セリフが徹底的に絞られ、「状況」を積み重ねることでさらに絶望

4:徹頭徹尾、音響と曲の効果で次から次へと絶望が押し寄せてくる

以下、一体どういうことなのかを解説していくのですが、その前に大前提となる状況をざっくりと理解しておく必要があります。世界史に詳しくなくても大丈夫、林修先生が3分で解説してくれるというナイスなムービーがYouTubeにアップロードされています。ワーナーもわかっているということですね。

林修先生が解説!3分で分かる映画『ダンケルク』【HD】2017年9月9日(土)公開 - YouTube

◆1:冒頭の包囲網からヤバさしかない、絶望的な戦場に叩き込まれる

クリストファー・ノーラン監督の映画はよくできた小説の出だしのように、最初の一連のシーンがとにかく超印象的なことが多く、今回もすごい。最初は「あー、包囲されているのか、大変だなー」程度だったのが、ものの数分後には「もうダメだ、生き残れるわけがない」というぐらい「包囲」されていることを実感させてくれるシーンが怒濤のごとく押し寄せ、やっとこさ安心できる場所にたどり着いたと思ったのもつかの間、「ダンケルク」が眼前にどどーんと広がり、「あ、これはもうだめかもしれんね」という絶望的な気分に。

最初のシーンがコレ



「お前たちは包囲されている、降伏せよ」というチラシ



突然の銃撃



なんとか生存



ようやく友軍と合流、ダンケルクの海岸へ走ります



40万人の兵士たちを何とかしてこの海の向こうに運ばなければならない



敵の攻撃は激しく、こんなに何もかも丸見えで遮蔽物のない海岸では伏せることしかできない



容赦ない爆撃が雨あられと続きます



こうやって伏せて耳を塞ぎたい気分にさせてくれます。手の甲の痛々しい傷がこのダンケルクに来るまでの戦いの激しさを物語っています。



ダンケルクの海岸をざーっと見回すだけで、「これはかなりまずい」というのがわかるようになっており、さらにここから「ダンケルクの海岸で脱出を図る兵士たち」の視点から、「イギリスからドーバーを渡って助けに行く一般人の船」、そして「空から爆撃するドイツ軍を迎撃すべく戦う空軍」を見せ、以降はラストまでこの3つを軸にし、入れ代わり立ち代わり、時には時間軸をも飛び越えて、互いの視点からこのひとつの「ダンケルク」を見ていくことになるという感じ。なんというか、この「3つの視点がくるくると入れ替わりながら構成されている」というのが、ものすごくうまいところで、異なる視点を組み合わせることで「絶望的な戦場」というものをくっきりと浮かび上がらせることに成功しています。

◆2:絶望の原因は「海」と「空」、迫り来る「顔の見えない敵」

軍隊は「陸・海・空」というイメージなので、3つの視点を軸にしていると言うことは、陸海空のそれぞれの視点から描くのかな?と思いきや、実際には以下のようになっています。

・「ダンケルクの海岸で脱出を図る兵士たち」:海、とにかく海がやばい。そして空からも襲われてやばい。











・「イギリスからドーバーを渡って助けに行く一般人の船」:船から見た海がやばい、船から見た空もやばい。







・「空から爆撃するドイツ軍を迎撃すべく戦う空軍」:空から見た海はやばすぎる、空にもやばいのが飛んでいる。





「やばい」しか言っていないような気もするのですが、それぐらいやばい。特に「海」の恐ろしさは異様で、段々と「海」を見るだけで絶望的な気分になってくるほど。

こういう顔になります



一体このシーンはどうやって撮れば、こんな恐ろしい海になるのだろう?と疑問に思うはずですが、そこはさすがクリストファー・ノーラン監督、またしても「それを実写で撮るのかよ!」というのを実行していることが以下のメイキングでわかります。

Dunkirk - Weathering the Storm Featurette - YouTube

ディカプリオにちょっと似ている監督



嵐の海はCGではなく本物



あちこちに積んであるのも本物



このとんでもない天気の中、スタッフ総出で撮影





キャストも総動員



普通なら撮影中断するレベル



しかしだからこそあえて撮る



するとこうなります



足元まで海にじゃぶじゃぶ浸かっていても機材さえ無事ならオールオッケー



風もすごい



破壊されるほどの悪天候



監督直々に撮影



どっぱーん



これだけでなく、GIGAZINEでクリストファー・ノーラン監督に実際に質問を送って答えてもらったインタビューによると「実際に映画を観る前は、空撮のシーンはCGだと予想する人が多いのではないかと思います。ところが、実際に映画をみれば、現実的な空中映像を目の当たりにして無意識にも本物として認識できると思います。今までにも、ドッグファイトと呼ばれる空中戦闘のシーンは映画で再現されていますが、実際に飛ぶ飛行機にカメラを乗せて、飛行機同士が戦闘し合う様子を撮影した本物の映像はきっと観た事がないはずです」となっており、空戦シーンもマジで本物です。

そして、実は最初から最後まで「ドイツ兵」の「顔」は見えません。敵の姿も出てきません。「降伏を促す大量のチラシ」「銃撃の音」「砲撃の音」「爆撃の音」「爆弾」「魚雷」「爆撃機」というようにして「顔の見えない敵」による有象無象のプレッシャーは山のように描かれるものの、実際の敵の人間としての姿はすべて排除されています。

視線の先に敵がいますが、映りません





そのため、戦争映画と言うよりは、サスペンスやスリラー映画のような雰囲気に貫かれており、一番近いのはSF映画「エイリアン」で姿の見えない敵に翻弄されるあの感覚です。実際、「エイリアン」もSF映画と言うよりは、SF設定のスリラーと呼ぶ方がしっくりくる展開であるのと同じで、この「ダンケルク」も戦争映画の設定のサスペンスと呼んだ方が適切です。監督へのインタビューでも「この物語への取り組み方を考え、人間の戦いを描いた映画を観て、『ダンケルク』をユニークなものにするのは、戦闘ではないと思った。これは撤退の物語であり、サスペンスであり、時間との戦いだ。そこで私はサスペンスとして、サバイバルとしてアプローチすることにした。それが、『ダンケルク』を、ほかの戦争映画と異なるものにしてくれる要素だった。そしてサスペンスで語ることに自信を感じた。戦争で戦ったことのない人間が戦争映画を作ることにどれほどの自信がもてるのか。自分では経験していないことを観客に経験してもらおうなんて厚かましい考えかもしれない。でも、サスペンスとして描くことに、私は心地良さを感じたんだ。」と語ってくれています。

◆3:セリフが徹底的に絞られ、「状況」を積み重ねることでさらに絶望



「ダンケルクの海岸で脱出を図る兵士たち」と「空から爆撃するドイツ軍を迎撃すべく戦う空軍」、この2つの視点ではセリフがものすごく少なくなっています。ちゃんと会話のシーンもあるにはあるのですが、「話すこともできないほどの状況」という事態にとにかく次から次へと陥るため、緊張感が半端ではないレベルになっています。



ズブズブズブ……



セリフができるだけ抑えられているため、セリフは重要ではないのかというとその逆。すべてのセリフが重要で、余計なセリフや冗長な説明台詞は一切無し。映像で説明するのではなく、映像の中に観客を放り込むことによって、「仮想体験」させている感じです。とにかく入れ代わり立ち代わり、次々ととんでもない状況を示す映像が積み上がっていくことによって、段々と「状況」をイヤというほどよく理解できるようになっていき、しかも「あ!このシーンはさっきのあのシーンとつながるのだ!ああああああ!らめえええええ!」みたいなのが中盤以降は起きまくり、しかも各シーンに集中させるかのように、そういう極めつけの状況を描くシーンになればなるほど口数は減り、寡黙になり、「やばいやばいやばい」というシーンだけがうずたかく積み上がっていくわけです。おそらく映画の演出的に、台詞を聞かせるとそっちに観客の集中力が割かれてしまうため、できるだけ台詞を絞って集中を促すことで、圧倒的な映像美の迫力を強く感じて欲しいのだという意図なのだと思うのですが、あまりにも成功しすぎです。

◆4:徹頭徹尾、音響と曲の効果で次から次へと絶望が押し寄せてくる

台詞が少ない、しかも状況によっては「?」というシーンのはずなのに、「やばい」「絶望」ということがなぜ実感できるのかというと、それが「音」。とにかく最初のシーンも「音」が重要で、それからあとも延々と「あの曲」が手を変え品を変えるようにして流れ続け、感情を不安定にさせてくれます。爆撃があれば重低音が響き渡り、神経を逆なでする曲が「ほーら、段々と状況が悪くなっていくよー、もっともっとやばくなっていくよー、どうしようもなくなっていくよー、ほーらほーら」というメッセージを全力で伝えてくれます。「悲しい」という文字を読んでも悲しい気分にはそう簡単にはなれないものですが、「悲しいっぽいメロディー」を聞くとなんとなくわかるように、とにかく曲が緊張感満点。基本的には「カチコチカチコチ」という「時を刻む音」がベースになっており、そこへ矢継ぎ早に爆発音とか銃撃音とか重低音とか、よくわからないがとにかくやばそうな「ブオーッ」という音とか、何かを叩き続ける音だとか、「海」の音だとか、「空を飛ぶ爆撃機のエンジンの音」だとか、そういう感じであらゆる音が凶暴になって襲いかかってくる感じです。逆に考えれば、「音響が命」とも言えるので、音が小さかったり弱かったりすると、迫力が半減するのは確実。映画「マッドマックス」の「ドンドコドーン」を小さいボリュームで聴いてもよくはならないのと同じです。爆音であればあるほど、好ましいです。

なので、最初に書いた通り、できるだけ大きくて画質がよく、音響も万全なはずの「IMAX」で鑑賞するのが一番よく「ダンケルク」の真髄を味わえるのです。

どれぐらい「音」重視かというのは、以下の360度ムービーを見ると雰囲気がよく分かります。本当にこんな感じです。

SAVE EVERY BREATH: THE DUNKIRK VR EXPERIENCE - YouTube

そして「曲」については、なんと公式サウンドトラックの一部がYouTubeにて公開されており、一番「ダンケルク」の映画体験に近い曲は以下の「Impulse」です。「カチコチカチコチ」という神経質な時を刻む音、そして不安感を演出するストリングスが重なっていき、妙な盛り上がりを迎えます。さすがハンス・ジマー作曲なだけのことはあります。

Dunkirk - Impulse - Hans Zimmer (Official Video) - YouTube

公式のプレイリストもあるので、BGMに流しておくと緊張感が高まるため、締切り前に再生すると生死を賭けたパフォーマンスが発揮できるようになるはずです。

ほめてばかりで悪いところはないのかという話ですが、アメリカなどでは7月公開で2週連続興行収入ぶっちぎりまくり&高評価だというのに、なぜか日本での上映は9月9日(土)から。これはマジで最悪。おそらく「ダンケルクの戦いなんてマイナーなもの、日本人が見に行くはずがないから、海外ではヒットしても日本ではヒットしないだろう、日本史ならともかく世界史なんて誰もわからないし知らないし!」ぐらいの冷徹なマーケティングによってはじき出された公開日程だとは思うのですが、それにしても、もったいないことで、それだけが実に残念です。

あとは既に書いたように「最初からネタバレ」みたいなストーリーなので、予告編を見て「面白そう!」と感じないのであれば、見に行かない方がよいです。それぐらい、一連の予告編はどれもこれも映画全体の雰囲気を忠実に再現してくれています。特に、日本語字幕のない以下の60秒版公式予告編で映像と音にのみ感覚を集中させ、「OK」か「NG」かを判断すれば、それが正解です。

DUNKIRK - Never Surrender :60 - Special 70mm Engagements on Sale Tomorrow July 5 - YouTube