『おんな城主 直虎』公式サイトより

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 柴咲コウが主演するNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の第30回が7月30日に放送され、平均視聴率は前回から0.6ポイント減の11.3%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。ここ数話は井伊家が戦国の荒波に翻弄される大河ドラマらしい展開が続いているが、いっこうに視聴率上昇の兆しが見えない。 

 今回はいよいよ、今川氏真(尾上松也)が井伊家取り潰しに動いた。井伊家家臣で商人でもある瀬戸方久(ムロツヨシ)を脅して取り込み、借金のカタとして井伊家の領地を取り上げることで、戦わずして井伊谷を今川の直轄地にしようというのだ。方久を怪しんだ小野政次(高橋一生)は氏政が方久に宛てた安堵状を見つけてすべてを察知するが、同時に自分も今川から信頼されていなかったことを知る。そんななか、氏真の命を受けた関口(矢島健一)が井伊家を訪ね、速やかに徳政令を出すようにとの下知を伝える。直虎は考え抜いた末、徳政令を受け入れていったん井伊家をつぶし、続いて関口の首をあげて徳川に差し出すことで徳川のもとで井伊家の再興を図るという起死回生の策を取ることにした……という展開だった。

 南渓和尚(小林薫)はかつて幼少期の直虎を、何が起こるかわからないのだから最後まであきらめるなとの教えを込めて「明日には今川館が燃えて落ちるかもしれぬ」と励ました。当時は気休めにしか聞こえなかったが、武田や徳川に押されて今川の勢力が弱まっている今となっては、この言葉が俄然真実味を帯びてくる。いかにもなるほどと思える見事な伏線回収だった。

 一方、陰では直虎の味方をしつつ、表向きは懸命に今川への忠義を装ってきた政次について、その本心が実は今川方にバレていたという展開については、後出し感がぬぐえない。また、この期に及んでもまだ「政次は今川の犬」と他の家臣たちに思わせておく理由もわかるようでわからない。これについては今回、直虎と政次が「ここで打ち明けては苦労が無駄になってしまうから、今川の支配から脱出するまでは伏せておこう」との意見で一致する様子が描かれたが、さすがにもう打ち明けても良いのではないかと思うし、そんなに家臣たちが信用できないのかと気になってしまう。

 ストーリー的には少々無理を感じるが、井伊家の記録に「政次は井伊家にとって奸臣であった」と記されている事実との整合性を持たせるためにそうなっているであろうことは想像に難くない。当時の真実を知るすべはないが、結果的に「政次=奸臣」の認識が井伊家に残ったことは動かしようのない事実である。本作では人知れず直虎を支える存在として政次を描いてきたが、直虎や南渓以外はその真意を知らずに「政次は裏切者」と誤解したままだったとすれば、井伊家の記録にそのような人物として描かれたことも納得できる。大河ドラマではしばしば定説を覆した新解釈が描かれるが、重要なのは着地点である。新たな解釈で話を広げておいて、最終的によく知られた定説にうまく収まるからこそ「なるほど」と思えるのであって、新解釈を広げた先が定説とまったくかけ離れていてはおもしろさが半減してしまう。脚本家にとってこのあたりのさじ加減は非常に難しいと思うが、「直虎」には大いに期待している。

 ほとんどの視聴者は政次がいずれ退場することを知っており、いつどのような形でその日が描かれるのかを見たい気持ちと、高橋一生の退場をできる限り先延ばしにしてもらいたい気持ちとの両方を抱えて複雑な思いを抱いているのではないだろうか。同日、高橋が出演した『おしゃれイズム』(日本テレビ系)では、幅広い世代が「今年ブレイクした俳優」の筆頭に高橋の名を挙げていることが明かされた。そのきっかけとなったであろう『カルテット』(TBS系)を引き合いに出すまでもなく「いい人なのに報われない不憫な人」を演じさせたら天下一品の高橋が、密かに思いを寄せる女性のために命をかけようとする武士をどのように演じきってくれるのか楽しみでならない。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)