元物理学者や詩人も活躍 世界的クリエイティブ集団の秘密

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ナイキの「JUST DO IT.」を筆頭に世界的な広告キャンペーンを手掛ける独立系エージェンシー、ワイデン+ケネディー(W+K)。日本では、フリースブームのきっかけを作ったユニクロのキャンペーンを手がけたエージェンシーとしても知られている。メガ・エージェンシーとは一線を画す独創的なクリエイティブで、カンヌをはじめ多くの広告賞を受賞してきた。

同社の創造性の源泉を、来日したCEOのデイブ・ルアーと、東京オフィスのマネージング・ディレクター、ジョン・ロウに聞いた。

まだ、W+Kが立ち上がったばかりで、スタッフが総勢で14人しかいなかったときのことだ。ナイキのコピーを考えていた創業者のダン・ワイデンが、壁に向かってブツブツとつぶやいていた。壁にはひとりの男性の写真が貼ってある。何をやっているのか聞いてみると、ダンは、「彼の心に響く言葉を考えている」と答えた。「彼の心とつながる必要がある。それには彼の行動を全て観察する必要がある」

クライアントへ、ではなく、一人の消費者へ向けてメッセージを送る──。

それがJUST DO IT.の生みの親のポリシーだった。そうしてできたコピーは、大ヒット。なるべく多くの人に「ウケる」ようにとマスを狙うのではなく、受け手をピンポイントでターゲットする。そして感情移入するまでその人のことを考え続ける。尖ったクリエイティブの源泉とも言えるその姿勢を、同社は創業時から貫いている。

「W+Kのクリエイティブの核は、人々の魂に触れること。これは、国やクライアントが違っても変わらない」とデイブ・ルアーCEO。

「良い広告とは良い本のようなもの。受取り手の心と深いところで繋がっている。そのために必要なのはメッセージを受け取る人が一体どんな人なのか、何を欲しているのか、どんな気持ちなのかをなるべく具体的に、徹底的に考えること」

顧客は「クライアント」ではなく「パートナー」

主従関係になりがちなクライアントとエージェントの関係性を、W+Kは明確に否定している。クリエイティブの質を保っていれば、発注したいと考えるクライアントはおのずと現れる。これが同社の信条だ。

「多くのエージェンシーは”誰とでも”仕事をするが、我々はパートナーシップを組む相手を厳選している。世の中の全ての会社が、当社との相性が良いわけでないからだ。仕事の量や、顧客の数ではなく、キャンペーンの質が重要だと考えている」

ルアーは続ける。「我々の興味は、会社の規模や予算ではなく、人や会社のスタンス。特に、これまでのしがらみにとらわれず、違うことをやることに積極的で成長に熱心な会社とパートナーを組みたいと考えている」

実際、同社は現在世界で8か所のオフィスを構えているが、これ以上増やす必要は感じていないという。「オフィスが数百もあると、仕事の質を常にキープするのが難しくなる。我々にとっては本末転倒だ」

「業界での経験」より「才能」を重視

人が足りなくなれば、他のエージェンシーや広告代理店の敏腕クリエイターを引き抜くのが広告業界の常套手段だ。しかしW+Kの場合はそうとは限らない。

「例えば、大きな自動車のキャンペーンを任されたとしても、我々は他社から有名な車のキャンペーンを手掛けたクリエイターを引き抜いたりする必要はない。純粋に優秀な人を探すだけで、むしろ自動車業界の仕事をしたことがない人を見つけることを重視してもいいかもしれない。アウトサイダーとしての視点を持っていることが大事だ」。東京オフィスでマネージング・ディレクターを務めているジョン・ロウは言う。彼がどの業務よりも時間をかけているのがリクルーティングだという。

「当社でナイキのコピーを書いているコピーライターのうちの何人かは、もともとはスポーツのブログを書いていたブロガーだ。彼らは、広告業界は未経験だったけれど、スポーツに対する情熱が半端ではなかった」